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26.爆発

 が、手をつかんだ次の瞬間、銃声が聞こえた。メッシュ男の身体が衝撃を受けて跳ね上がる。


 え──?


 続いて生ぬるいものが顔にかかった。それが、血なのだと理解するのに数秒かかる。

 メッシュ男が急に力抜けたようにその場へ脱力した。もちろん、その右手からスイッチが零れ落ちる。


 何が──。


 俺の下敷きになったメッシュ男はすでに息絶えていた。頭を射ち抜かれているのだ。


 いったい、誰が──?


「ぼっとすんな!」


 突然、身体が宙に浮いた。

 誰かが俺をメッシュ男の上からはがし、背に巻かれた爆弾をナイフで切り離すと、肩へと担ぎ上げたのだ。


 だめだ。スイッチを──!


 伸ばした手は届かない。

 抱えられ、それなりの距離を走ったところで再び銃声がする。アスファルトに伏せたと同時に、爆音と熱風が襲った。

 爆薬が爆発したのだ。吹っ飛ばされたアスファルトが背中や頬を打つ。

 けれど、大きな壁に覆われたおかげで、それらをたいして受けずに済んだ。その壁は俺の頭上でほっとした息をつく。


「これでジ・エンドだ。──にしても、ひでぇ格好だな? おい。俺に悪態ついた罰だな?」


 ──え?


 転がった衝撃でくつわは外れていた。

 俺はぽかんとして頭上を見上げる。すると、カラザが悪戯っぽい笑みを浮かべこちらを見下ろしていた。


「…俺の、聞こえてたのか…?」


「ああ。しっかりと、この耳でな。元々あの辺りを張ってたんだ」


「は、はは…」


 俺はそこへがくりと頭を垂れ、腕に突伏する。カラザはそんな俺の肩に手を置くと。


「──もう、帰っていい。俺は奴を信じる事にした。奴が最優先で梃入れしてくれたお陰でイムベルも先が見えてきた。ここまでやってくれたんだ。人質は必要ないさ」


「人質? …帰る…?」


 俺はむくりと頭を起こす。


「ああ。ここの復興を優先して欲しくてな。お前を人質に取った。済まなかった…。詳しい話しはまたあとでな。──そら、お迎えだ」


「あ……」


 カラザにならってその方向を見れば。


「セト…!」


 セルサスがこちらに向かって駆けて来る所。その耳元へ、


「お前を捨てたってのは嘘だ。お前に帰られちゃ困るんで嘘をついた。あいつは最後までお前を渡すつもりはなかったぞ」


「……!」


 俺は思わずカラザを見上げて、それからまたセルサスに目を向けた。


 見限られた訳じゃ、なかった…?


 俺は起き上がろうと藻掻いたが、今頃やられた傷のお陰でどうにも身体の自由が利かなくなっていた。

 それを見て、カラザが手を貸し起こしてくれる。上体を起こした所で、セルサスが到着した。


「──セト…」


 片膝をつき俺を見下ろす目が潤んでいる気がする。


「あ…、へへ。すみません…っ、血だらけで…。こんなはずじゃなかったんですけど…。俺、きったないし、凄い格好だし。近付かない方がいいです。だいたい、閉じ込められてた所が、また酷い所で臭いのなんのって──」


 言い終わらないうちに、そんな俺をセルサスが抱きしめる。


 おわわわ。久しぶりのセルサス様! い、いい匂い…。


 うっとりするが、はたと自分の状態に思い当たり、その腕から逃れようとした。


「は、離して下さい! 汚れますって!」


 血液汚れは落ちない。真っ白なスーツが台無しだ。それに、きっと半端なく臭い。

 まさに擬死状態のオポッサムだ。

 ひえーとなる俺とは裏腹に、セルサスは腕を解こうとはしない。逆にグイグイと力を強めるくらいだ。


 ちょっと、痛い。


 けれど、嬉しい痛みだ。生きていたから感じる事が出来る。


「おい、セルサス。そいつは満身創痍だ。狂った奴に斬り刻まれたんだからな? ちっとは手加減してやれ」


 はっとしたセルサスが腕の力を緩める。


「っ──済まない…」


「だ、大丈夫ですって。てか、カラザはなんで知ってるんだ?」


「俺の部下が奴の下に潜り込んでたんだ。メッシュの男についてれば、ボスの居場所が分かるだろうってな。信用させるのは、結構、大変だったんだぜ?」


「じゃあ、あの時、ずっといたのか…」


「助けたくても無理だった。手を出せば、殺られてたからな。──済まなかった。お前には色々、謝らねぇとな…」


「本当だ。セトには傷をつけるなと言ったはずだ。もしそうなれば後悔させると…。聞けばセトに嘘をついたらしいな。ブラウに聞いた」


「…ったく。あいつは」


 カラザは頭を掻くが。


「これは俺の責任だ。こいつを巻き込んだからな? 俺自身になら幾らでも処分を受ける覚悟はある。気がすむまでどうにでもしろ」


 するとセルサスはニッと不敵な笑みを浮かべ。


「──よく言った。覚悟しておけ」


「あ—、ばかやっちまったな…」


 カラザは声を上げ天を仰いだ。



 その後、俺はセルサスの上着に包まれ抱きかかえられると、迎えのジェット機に乗せられ帰途についた。

 機内ではエルが簡易ではあるが、直ぐ様手当てを施してくれた。なんと医師の資格を所持しているのだと言う。


「だって、セルサス様がこうでしたから。必然的に必要な知識だったのですよ。毎回出かけると怪我を負って。──でも、ここまで酷いことは少なかったですが…」


 爆風の影響か、レンズにヒビの入った眼鏡をかけたままエルはそう口にした。頬も腫れているようで。それも爆風で負ったのだろうか。

 簡易ベッドに寝かされた俺は、あちらこちら転がされながら、ガーゼを張り付けられ、または包帯を巻かれた。

 鎮痛剤のお陰で痛みを感じなくなったが、熱はあった。そんな俺を傍らで、シャツ一枚となったセルサスが腕を組み、ずっと見つめている。

 セルサスがいてエルがいて。安全な機内の中で、またこうして以前と同じ様に二人に囲まれている。

 俺はエルの手当てを受けながら。


「…なんだか、天国みたいだ…。俺、あのまま、あそこで死ぬんだって、誰にも知られずに、とか思っちゃって。逃げ出せないし、カラザも頼れないし…。まさか、帝国がテロリストの要求を飲むとは思ってもみなかったから…」


「…セト」


 エルが手を止めて、こちらを見降ろす。俺は腕で顔を覆うと。


「せめて、セルサス様の役に立って死にたかったんです…。だから、爆弾仕掛けられたときは、正直嬉しかった…。これで、あいつらを葬れるって。セルサス様の役に立てるんだって…」


「──セト」


 今度はセルサスの声がした。

 声のした方に目を向けると、セルサスの険しい眼差しがある。


「俺の役に立ちたいなら、二度と、俺の為に死のうとするな」


「……っ」


「俺の為に──生きてくれ…」


「セルサス様…」


「…頼む」


 俯くセルサスの瞳が赤く潤む。


「……はい」


 反論の余地はない。素直にそう答えていた。



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