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デビルハンター 〜最強悪魔(ヒロイン)と契約して、運命と戦うことになった件〜  作者: 雪沢 凛
第七章:残影の中の手がかり

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残影の中の手がかり (5)

 ──紅蓮の閃光が炸裂した。


 突如として、炎(エン)の身体から膨大な魔力の衝撃波が解き放たれる。


 ズガァァァァンッ!!


 その一撃は嵐のごとく吹き荒れ、夜行者(ナイトウォーカー)を大きく弾き飛ばした。


「っ──!!?」


 彼は反射的に腕を交差させて防御するも、完全に防ぎきれるものではない。

  猛烈な力が全身を貫き、そのまま地面を抉るように後方へと吹き飛ばされる。


 ゴゴゴゴ……!!


 土埃が舞い、遺跡の大地に深々とした爪痕が刻まれる。

  その余波により、周囲の空気さえも震え上がるほどだった。


 しかし、その代償は炎(エン)自身にも襲いかかる。


「……ッぐ……!」


 爆発的な反動によって、炎(エン)の身体も無慈悲に弾き飛ばされた。

  勢いのままに遺跡の石壁へと叩きつけられ、鈍い衝撃音と共に地面へと転がる。


 ドサッ……!!


 ──全身に、激痛が走った。


 肩と背中が燃えるように痛み、まるで骨が砕けそうなほどの衝撃。

  吐き出す息が乱れ、体力が根こそぎ奪われていくのを感じた。


 だが、それ以上に。


 彼の肩口からは止めどなく血が滴っていた。

  夜行者の指が深々と食い込んだ痕跡が、未だに赤黒く口を開いている。


 炎(エン)は呻きながら、必死に身体を起こそうとした。


 しかし、指をわずかに動かしただけでも激痛が走る。

  腕を支えにしようとするたび、傷口が悲鳴を上げるように血を滴らせた。


 頬を伝う赤い筋は、先ほどの衝撃で額が裂けたせいだろう。

  その血痕が石壁へと擦れ、闇の中に生々しい痕跡を残していく。


「……ッ、く……!」

 それでも、倒れるわけにはいかない。


 炎(エン)は歯を食いしばり、震える腕で地面を押す。

  だが、赤く染まった指先は何度も力なく滑る。


 彼の身体は、確実に限界へと近づいていた。

 そして、そんな彼を見下ろす夜行者は──

 その場で、不気味な笑みを浮かべていた。


「……クク……ハハハ……!」

 まるで心底楽しんでいるかのように。


 夜行者は、一歩ずつ炎(エン)へと歩み寄る。

  その瞳は、狂気に満ち、狂喜に震えていた。


「これだ……これこそが……

  ……女神の力……!!」


 まるで崇拝する聖遺物を目にしたかのように、

  彼の顔には異様な陶酔感が広がっていた。


「美しい……この力こそ、俺が求めていたものだ……」

 呟きは、まるで信徒の祈りのようだった。


 だが──

 その恍惚とした眼差しが、ある瞬間から怒りに染まる。


 陶酔が、嫉妬へと変わる。

  賛美が、憎悪へと変わる。


「……それなのに、お前が持っているのか……」


 夜行者は、拳を固く握りしめた。

 瞳に宿るのは、燃え盛るような怒り。


「貴様のような凡庸な器が、この力を……?」


 彼の歯が軋み、憤怒が抑えきれず全身に溢れ出した。


「ふざけるなァァァ!!!」

 夜行者の怒声が、遺跡全体に響き渡った。


 彼の拳が、黒き炎を纏いながら振り上げられる──。


「なぜだ……?」


 夜行者の声は、低く沈み込みながらも、明らかな殺気を孕んでいた。

  その声には怒りの震えが混じり、次第に狂気へと変わりつつあった。


「なぜ貴様なんだ……!?

  なぜ、彼女の力が……このような凡俗な人間を守るというのだ!!」


 彼の瞳には、燃え盛る嫉妬と憎悪が渦巻いていた。

  その顔は怒りに歪み、まるで自分の存在そのものを否定されたかのように苦悶している。


「俺こそが、彼女の真の信徒だ!

  俺こそが、唯一彼女を理解している存在だ!!」


 だが、彼女が選んだのは炎(エン)だった。

  それが夜行者にとって、何よりも許せぬ事実だった。


「なのに……どうして貴様なんだ……!?」

 黒い魔力が渦を巻き、夜行者の身体から荒れ狂うように放出される。

  それはもはや理性を超え、嫉妬と憎悪に飲み込まれた狂気そのものだった。


「彼女は貴様を守った……?

  ……貴様が彼女の庇護を受けるだと?

  ──貴様なんかに、そんな資格はない!!」


 黒き闇がうねり、夜行者は怒りのままに炎(エン)へと歩を進める。

  まるで獲物を食らおうとする獣のように、一歩ずつ、確実に。


 ──しかし。

 炎(エン)は、怯まなかった。


「……お前が何を追い求めようと、

  お前に彼女の真意が分かるはずがない。」


 低く、冷たい声音が遺跡に響く。

 炎(エン)は血の滴る腕を押さえながらも、夜行者の狂気に屈することなく、まっすぐに睨み返した。


 彼は分かっていた。

  この男の信仰は、もはやただの崇拝ではない。

  歪んだ愛と執着が、狂気へと変わり果てたものなのだと。


「──貴様……!!」

 夜行者の怒りが、爆ぜた。


 彼の魔力は火山の如く噴き出し、闇の奔流が炎(エン)を飲み込もうと襲いかかる。

  このままでは、完全に押し潰される。


 ──しかし。

 その瞬間、遺跡の空間が、異様に波打った。


「……ッ?」


 炎(エン)が顔を上げると、視界の端で空気が微かに歪み始める。


 四方の大気が震え、見えない力があたりを包み込むように広がっていく。

  まるで何かに干渉されるように、空間そのものが揺らいでいた。


 次の瞬間──


「結界……?」

 夜行者の足元に、見えざる光の壁が立ちはだかる。


 透明な障壁が静かに形成され、彼を中心にゆっくりと広がっていく。

  それは、まるで彼を閉じ込めるかのように。


 夜行者は一瞬驚いたように目を見開くも──

  すぐに、不敵な笑みを浮かべた。


「ククッ……ハハ……面白いじゃないか。」


 まるで何も恐れていないかのように、彼は薄ら笑いを浮かべながら障壁を見回した。

 だが、その余裕は長くは続かなかった。


「──調子に乗るなよ、夜行者。」

 低く響く声と共に、一人の男が闇の中から姿を現す。


「……ッ!?」


 その声の主は──マイルズだった。

 そして、彼の背後には数名の公会のハンターたちが続き、素早く夜行者を包囲する。


 夜行者の笑みが、僅かに歪んだ。


 マイルズは冷徹な眼差しで夜行者を見据え、無駄のない動きで狩人(ハンター)たちに指示を下した。

  その表情には迷いはなく、まるでこの奇襲を予見していたかのように、隙のない態度を保っている。


「──連れて行け。俺が足止めする。」

 短く、しかし明確な命令が下されるや否や、数人の狩人が素早く炎(エン)の元へ駆け寄った。


 炎(エン)の身体は傷つき、力が入らない。


  無理やり両腕を抱え込まれ、引きずられるように結界の端へと連れて行かれる。

 ──意識が遠のいていく。


 だが、それでも炎(エン)はかろうじて首を動かし、マイルズと夜行者の対峙を目に焼き付けようとした。


「夜行者。お前が彼を殺すことはない。」

 マイルズの声は、低く、しかし確固たる決意を帯びていた。


「エンは俺たちの計画にとって、必要不可欠な存在だ。

   ここで死なせるわけにはいかない。」


 ──計画?


 炎(エン)の意識の奥底で、疑問がわずかに膨らむ。


 それに対し、夜行者はフッと鼻で笑った。

  その目には、狂気じみた嗜虐の色と、何よりも嘲弄の光が宿っている。


「計画……?」

 皮肉げに繰り返し、彼はくすくすと笑い出した。


「なるほどなぁ、狩人共は本当に退屈な連中だ……そんな取るに足らない凡人(ぼんじん)に、希望を託すとはな。」


 夜行者の嗤いに、マイルズは何の感情も見せなかった。

 ただ、一歩前に進むと同時に、手を軽く振るった。


 ──瞬間、魔刻符紋が光を放ち、夜行者を中心に鎖のような結界が展開される。

 圧倒的な力が空間を締め付け、夜行者の黒き魔力を封じ込める。


「お前の評価などどうでもいい。」

 マイルズは冷ややかに言い放つ。


「今日、エンはここから生還する。

   そして──お前は、自らの罪に見合う代償を払うことになる。」


 夜行者の笑みが深まる。


「ククッ……おもしろい。」

 ゆっくりと口角を吊り上げ、目を細めると、彼は炎(エン)の背中をじっと見つめた。


「計画の重要な駒か……

   これは、期待しないとな。」


「──果たして、どんな"奇跡"を見せてくれるのか?」


 低く囁かれた言葉が、炎(エン)の意識の奥深くにこだまする。

  何か、途方もなく不吉なものを暗示するような響きだった。


 しかし、それを思考する間もなく、炎(エン)の視界は徐々に暗闇に包まれていく。


 ──そして、意識は完全に途切れた。

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