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デビルハンター 〜最強悪魔(ヒロイン)と契約して、運命と戦うことになった件〜  作者: 雪沢 凛
第七章:残影の中の手がかり

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残影の中の手がかり (3)

 夜行者ナイトウォーカーは、エンの警戒する様子を見て、狂気じみた笑みを浮かべた。


  その双眸には異様な光が宿り、まるで今この瞬間を楽しんでいるかのように揺らめいている。

  彼はすぐに襲いかかることはせず、むしろ余裕たっぷりに、不気味な口調で囁いた。


「どうした?俺のことが分からないのか?」

  「まさか忘れたわけじゃないだろう?」


 口元を歪めながら、一歩、また一歩とエンへと近づく。

  その動きには、奇妙なほどの落ち着きがあった。


「あの夜のことを……」

  「俺たちの、生きるか死ぬかの戦いを……」


 夜行者はゆっくりと指を伸ばし、虚空をなぞるような仕草をする。


  その姿は、まるで記憶を慈しむようにも、あるいはエンを挑発するようにも見えた。


「お前が見せた、あの無力感と怒りに満ちた表情……」

  「思い出すたびに、ゾクゾクするよ。」


 エンは無言で睨みつける。

  夜行者の言葉に耳を貸すつもりはない。

  だが、その声はまるで蛇の囁きのように、耳元で絡みついて離れない。


「俺を消せるとでも思ったか?」

 夜行者は嘲るように笑う。

  その声は、遺跡に残る闇に溶け込むかのように不気味に響く。


「お前は、俺を甘く見すぎた。」

  「俺はお前が思うような単純な存在じゃない……俺の本質は、お前の理解をはるかに超えているんだよ。」

 くつくつと笑いながら、夜行者の目にさらなる狂気が灯る。


  エンは僅かに眉をひそめ、再び銃口をしっかりと構えた。


 この再会に、不穏な気配を感じずにはいられない。

  この遺跡が持つ秘密は、エンが思っていた以上に深いものなのかもしれない。


 夜行者がここにいるという事実自体が、それを証明している。


 エンは低く問いかけた。

「……夜行者。お前、なぜここにいる?」


 その問いに、夜行者は面白そうに肩をすくめる。


「フッ……いい質問だな。」

 彼はまるで何気ない世間話でもするかのように、ゆったりとした口調で続ける。


「さて、どうしてだと思う?」

  「俺がここにいる理由?」


 彼は一拍置き、目を細めながら皮肉げに微笑んだ。


「……ただの散歩さ。たまたま、この場所に興味があっただけかもしれない。」

  「そして、"偶然"お前に出くわした。」


 その言葉を信じる者がいるだろうか?

  エンの表情が険しくなる。


 こいつは、ただの敵ではない。

 エンの直感が告げていた。


 こいつは"災厄"だ。

  理屈も、論理も通じない。

  ただ、そこに存在し、闇そのものとして絡みついてくる"悪夢"のような存在。


 エンの眼光が鋭さを増し、静かに銃口を微調整する。


「お前は……何なんだ?」

 低く問いかける。


 夜行者は一瞬、驚いたように目を見開いた。

  だが、次の瞬間にはすぐに唇を歪め、楽しげに笑い出す。


「俺?俺は……」


 彼は一歩、エンへと踏み出す。

  その影が、遺跡の薄暗い光の中で長く伸びる。


「お前が決して逃れることのできない"闇"さ。」

「俺は、光がある限り生まれ続ける影。」

「お前がどれだけ足掻こうと、どれだけ拒もうと──夜は、必ず俺のものだ。」


 彼の笑みが、暗闇の中で鋭く光った。


 夜行者は、言葉を終えると同時に、ゆっくりと歩を進めた。

  その瞳には、狂気に満ちた深い光が宿り、周囲の空気を張り詰めた静寂が支配していく。


 エンは無意識に武器を握りしめる。


  ──この戦いは、容易には終わらない。


  胸の奥で、そんな確信にも似た直感が警鐘を鳴らしていた。

 しかし、夜行者は攻撃するでもなく、ただ楽しげに微笑んだ。


  「俺たちはよく知っているだろう?」

  「ここには、決して表に出ることのない"過去"が埋まっている。」

  「そして俺は、そういう"秘密"が大好きでね……。」


 夜行者は低く囁く。

  それはまるで、深い霧の中から聞こえてくる幻の声のようだった。


「お前も探しているんじゃないのか?」

 その言葉が落ちた瞬間、エンの目が鋭く細められた。


 ──こいつは、俺の動きを把握している?


  それどころか、アレスの遺跡についても、何か知っているような口ぶりだ……。


 偶然の遭遇ではない。

  夜行者は最初からここに来るつもりだった。


 エンが警戒を強める中、夜行者はふっと胸に手を当て、陶酔するような表情を浮かべた。

  その声には、歪んだ崇拝の響きが滲んでいる。


「俺がここに来た理由?」

  「決まっているだろう。」


「エリヴィアの"贈り物"を回収するためさ。」


 その名が出た瞬間、エンの指がわずかに動いた。

  夜行者は、そんな彼の反応を楽しむように笑みを深め、さらに言葉を続ける。


「これは俺の一部なんだ。俺だけが、それを理解し、真の意味を知ることができる。」

  「俺はずっと、彼女の足跡を追い続けてきた。」

  「どこに行こうと、必ず見つける……それが俺の"信仰"だからな。」


 その言葉に、エンの視線が冷たくなる。


「……お前みたいな狂信者を、エリヴィアが望むわけがない。」

「彼女の意志は、お前のような闇に溺れる愚か者が理解できるものじゃない。」


 吐き捨てるように言い放つと、夜行者の表情が一瞬、凍りついた。

  そして、次の瞬間──


「ハッ……ハハハハッ!!」


 弾けるような狂気の笑い声が響き渡る。

 その声は、どこまでも底知れぬ狂乱を帯びていた。


「お前がエリヴィアを分かってるとでも?」

  「笑わせるな……!!」


 夜行者は、笑いながらも、どこか怒りを滲ませた視線で炎を睨みつける。

  彼の全身から、より濃密な闇の魔力があふれ出した。


「お前はただの器に過ぎない。」

「彼女は"俺"に力を与えたんだ。"俺"にこそ、狂信という祝福を──!」


 夜行者の瞳が、異様な熱に燃えている。


「お前には、何も分からない……!!」


 その瞬間、エンは迷いなく引き金を引いた。

 銃声が遺跡に響き渡る。

  炸裂した弾丸が、一直線に夜行者の眉間を貫こうと飛び込む──


 だが。

 夜行者の姿が、ふっと霧のように揺らめいた。


 ──消えた!?


 次の瞬間、銃弾は虚空を裂き、彼の背後の空間を貫くだけだった。

 そこに残っていたのは、ただ、淡く揺れる黒い影のみ。


「そんな小細工が俺に通じるとでも思ったか、エン?」

 夜行者の声が、闇の中から囁くように響く。

  その声には、冷たく湿った嘲弄が滲んでいた。


 ──次の瞬間。


 闇を切り裂くように、彼の姿がエンのすぐ横に現れる。

  黒い霧のような魔力が掌の中に凝縮され、圧縮された暗黒のエネルギーが炸裂する勢いで放たれた。


 エンは即座に身を引き、寸前でその一撃を回避する。

  しかし、闇の衝撃波が空間を震わせ、避けたはずの彼をも捉えた。

  その余波が身体に重くのしかかり、胸を圧迫する感覚が走る。


  一瞬、息が詰まる。


 エンは歯を食いしばりながらバランスを取り直し、素早く距離を取る。

  その翠の瞳には、微塵の迷いもなかった。


「夜行者、お前はただの狂信者にすぎない。」

  「自分に属さない力にすがるしかない軟弱者だ。」


 エンの唇が、冷笑を刻む。

  そして、素早く銃を構え、二発の符紋弾を放った。


 緑の符紋が浮かび上がる弾丸は、夜の闇を裂くように一直線に放たれる。


 ──が。


 夜行者は、ただ無言で睨みつけるだけだった。

 表情からは先ほどまでの嘲笑が消え、静かな怒りが宿る。


  彼は片手を振り抜き、黒き波動を走らせる。

  符紋弾の軌道がわずかに逸れ、彼の体をかすめる形で飛び去った。

  弾丸は背後の壁に衝突し、緑の火花を散らしながら爆ぜる。


「ハハッ……エン、お前は本当に愚かだな。」


 夜行者の唇が、不敵な笑みを歪ませる。

「そんな玩具に頼って、俺を倒せるとでも?」


 言葉と共に、彼は両手をゆっくりと合わせる。

  その掌の間に、黒き魔力が渦巻き始めた。


 瞬く間に膨れ上がり、旋回する暗黒の光束が生成される。

  それはまるで、空間そのものを呑み込もうとするかのような圧倒的な力だった。


「消えろ。」


 無慈悲な声と共に、夜行者はその黒光を解き放つ。


 轟音とともに放たれた漆黒のエネルギーは、周囲の瓦礫や塵を巻き上げながら突き進む。

  その吸引力に抗いながら、エンは懸命に足を踏みしめる。


 ──戦力差がある。


  だが、それを認めるわけにはいかない。


 エンは僅かに息を整えながら、銃口を夜行者へと向ける。

  その瞳には、静かなる決意が宿っていた。


「そんなものが"信仰"だと言うなら……」

  「俺は、一生理解する気はないな。」


 冷静な声が、戦場に響いた。

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