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デビルハンター 〜最強悪魔(ヒロイン)と契約して、運命と戦うことになった件〜  作者: 雪沢 凛
第六章:霧の中の真実と絆

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霧の中の真実と絆(10)

 アイデンは、廊下の向こうへと消えていく

 エンとカルマの背中を見送りながら、

 小さくため息をついた。


「……やれやれ。」


 彼は内心で苦笑する。


 本当ならエンには公会ギルドに宿泊してもらい、

 常に支援と監視を行えるようにするつもりだった。


 しかし、エンは頑なにそれを拒んだ。


 カルマもまた、当然のように彼についていくと言い、

 さらには、魔獣のアルまでが他者を寄せ付けないのだから、

 アイデンに止める術はなかった。


 アイデンは、

 静かに二人の背中が闇へと消えていくのを見届けると、

 無言のまま会議室へと戻った。


 扉を開けた瞬間──


「……アイデン。」


 マイルズが、書類を手にして立っていた。


 その表情は、明らかにいつもと違う。

 眉間に深い皺を刻み、慎重な声音で話し始める。


「新しい情報が入った。」


 アイデンは、

 差し出された書類を手に取りながら、

 マイルズの言葉に耳を傾ける。


「……アレスのことか?」


 マイルズは静かに頷き、

 低く落ち着いた声で語り始めた。


「アレスの魔界での地位は、想像以上に高かった。

 もし、かつての統治制度が今も機能していれば、

 四天王クラスの扱いを受けていたはずだ。」


 アイデンの指が、

 わずかに書類の端を押し込むように力を込める。


「四天王、か……。」


 彼は目を細め、

 その言葉の重みを噛み締めた。


「しかし、今の魔界に、もはや統治という概念はない。」


 マイルズは続ける。


「人魔通道が開いた後、

 魔界の秩序は完全に崩壊した。」


「今では、魔物たちは各々の意思で動き、

 人間界を選ぶ者もいれば、

 魔界に留まる者もいる。」


 アイデンは、その言葉を反芻しながら、

 無言でページをめくる。


「……つまり、アレスは、

 魔界に留まれば安泰な立場を得られたにもかかわらず、

 それを捨てたということか。」


「そうだ。」


 マイルズの声音が、さらに低くなる。

「アレスは、神族のエリヴィアを選んだ。」


 アイデンの指が、わずかに止まる。


「……エリヴィア。」


 彼はその名前を、

 まるで噛み締めるように呟いた。


「……それが、最大の謎だ。」


 マイルズは、書類を閉じながら言う。


「アレスとエリヴィアの関係は、

 単なる友好ではなかった可能性が高い。」


「魔界にいた頃から、

 アレスはエリヴィアの名を何度も口にしていたそうだ。」


「そして、人間界に来てからは……

 彼は二度と魔界に戻らなかった。」


 アイデンの瞳が、静かに揺れる。


「……魔界の魔物たちは、

 アレスと連絡を取ろうとしたんだな?」


「ああ、だが、すべて拒絶された。」


「何があったのかは不明だが……

 アレスは、人間界に来てから、

 完全に魔界を断ち切った。」


 アイデンは、しばらく沈黙した。


 エリヴィア。


 そして、アレス。


 この二人を繋ぐ何かが、

 まだ彼らの知らぬ場所に隠されている。


 それが、今回の事件にどう関わってくるのか──


 アイデンは考え込むように、

 静かに目を閉じた。


「……お前、何か知っているのか?」


 マイルズが、探るような視線を向ける。


 アイデンは、ゆっくりと目を開け、

 わずかに微笑んだ。


「さあ、どうかな?」


 彼の言葉は、

 まるで霧の中に消えるように、曖昧だった。


 アイデンは、

 マイルズの問いに静かに頷いた。


 その目には、一瞬の回想がよぎる。


「……確かに、昔、悪魔に関する機密記録を調査したことがある。」


 彼は低く呟いた。


「当時の記録のほとんどは断片的なものだったが……

 その中に、『エリヴィア』という名の神族についての記述があった。」


 アイデンは資料を指で軽く弾き、

 過去の記録を思い出すように語る。


「彼女の信念は、非常に特異なものだった。」


「単に人間を守るだけではない。

 彼女の目指すものは、三界の共存だったんだ。」


「……三界の共存、か。」

 マイルズが低く呟く。


「しかし、それは実現不可能な理想だろう。」


「人間界と魔界の溝は深い。

 神族は、長らく人間を導く存在として振る舞ってきた。

 しかし、そのバランスを変えようとする者がいたとしたら……

 それは、どの陣営にとっても危険因子になり得る。」


 アイデンは、静かに目を細めた。


「だからこそ、彼女は記録から消されたのかもしれない。」


 マイルズの表情が一瞬、険しくなる。


「……そして、アレスの名は、

 その記録の中に何度も登場していた。」


 アイデンは静かに続ける。


「彼は、魔界の勢力を捨て、

 エリヴィアの信念に従ったとされている。」


「当時の公会ギルドは、

 彼の動向をそこまで重視していなかった。」


「なぜなら──

 エリヴィアに関する記録そのものが、ほぼ抹消されていたからだ。」


 マイルズは、その言葉に息を呑んだ。


「つまり、アレスの行動を理解するには、

 エリヴィアの存在を知る必要がある……

 だが、その情報が意図的に消されている以上、

 彼の選択の理由を追うことは、当時の公会にとって意味を成さなかったわけか。」


「そういうことだ。」


 アイデンは静かに頷く。


「だが、今となっては、状況が違う。」


「エリヴィアが追い求めた『共存』という概念は、

 いまやこの世界の危機に深く関わっている可能性がある。」


 マイルズは、深く考え込むように眉を寄せた。


「……それにしても、エンは最近、

 アレスのことをやけに気にしているように見える。」


「彼の行動には、何か隠された理由があるのか?」


 アイデンの目が、微かに揺れる。


「……エンは、簡単に感情を表に出す男ではない。」


「だが、カルマとの件が関わると、

 明らかに彼の動きが変わる。」


「まるで……アレスの存在が、彼にとって特別な意味を持っているかのように。」


 アイデンは、

 過去に自らが調査したエリヴィアの記録を思い返す。


『失踪』

『信念』

『抹消された情報』


 そして──

エンの異変』


 彼の胸の奥に、ある疑問が浮かび上がる。


 ──エンは、一体何を知っている?


 何を隠している?


 エリヴィアと、アレスと、エン


 その三者の間にある繋がりを、

 彼はどうしても無視できなかった。


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