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デビルハンター 〜最強悪魔(ヒロイン)と契約して、運命と戦うことになった件〜  作者: 雪沢 凛
第六章:霧の中の真実と絆

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霧の中の真実と絆(1)

 

 炎(エン)は部屋の中で目を覚ました。


 薄暗い朝の光がカーテンの隙間から差し込み、ぼんやりとした意識の中で、彼はまるで長い夢から目覚めたかのように感じていた。

 その夢は彼の心を重く沈ませ、目が覚めた今でも、その悲しみは消え去ることはなかった。


 ──夢の中の光景が、かすかに脳裏に蘇る。

 それは、アレスと赤髪の少年にまつわる記憶の続きだった。


 赤髪の少年──それはかつてのエリヴィアの姿。

 まだ人間として生きていた頃の彼女を、アレスは見つけ出したのだ。


 エリヴィアは、魔界と人間界の狭間にある境界をアレスに理解させようとし、和解の道を探す手助けをしていた。

 彼女の真摯な想いは、純粋なアレスの警戒心を解き、二人は共に歩みながら理想の世界を語り合った。


 だが、時間が経つにつれ、エリヴィアはある違和感を覚え始める。

 アレスは、何者かに操られているのではないか──

 特に影幕(シャドヴェル)の影響を受け、彼の抱く理想は次第に歪められ、やがて後戻りできない深淵へと誘われていった。


 場面が変わる。


 夢の中、赤髪の少年は短剣を手にし、戦場でアレスと対峙していた。

 それは、彼の最後の望みと決意だった。


 アレスが闇紋会の策略に囚われ、もう元には戻れないことを、少年は理解していた。

 沈黙と苦痛に満ちた対峙。

 アレスの瞳には困惑と葛藤が揺らぎ、対する少年の心は震えていた。


 そして──

 エリヴィアは悟る。

 彼を救うことは、もうできないのだと。


 短剣が、その胸を貫いた。

 無謀な救済は、ここで終わりを迎えた。


 その後、場面は暗い部屋へと移り変わる。

 エリヴィアは人間の姿でハンターズギルドの入り口に足を踏み入れた。

 その歩みは重く、それでいて迷いのないものだった。


 彼女の心は、あの記憶によってすでに空っぽになっていた。

 何度も苦悩し、何度も抗おうとした。

 だが、最後に彼女が下した決断は──


「悪魔狩人(デビルハンター)」として生きること。


 それはアレスとの約束を背負いながらも、彼との人生を完全に断ち切る決意だった。


 炎(エン)は現実に引き戻されるように、静かに目を閉じ、深く息を吐いた。

 夢の中の痛みを、胸の奥に押し込めるように。


 だが、その記憶の断片は、彼にエリヴィアの過去をより深く理解させた。

 彼女が背負ってきた絶望と、心が引き裂かれるような悲しみ。

 そして、なぜ彼女が「悪魔狩人」という道を選んだのか──その理由が。


 炎(エン)は、はっきりと自覚した。


 自分が「悪魔狩人」として生きる理由は、単なる使命ではない。

 それは、遠い昔に交わされた約束のため。


 心の奥底に、今もなお残る責任のため。



 部屋の外から、カルマの控えめなノックの音が聞こえた。

 続いて、扉越しに彼女の声が静かに響く。


「起きてる?ちょっと話したいことがあるの。」


 炎(エン)は小さく頷き、深く息を吸い込んだ。

 心を整え、現実と向き合う準備をする。


 彼の視線は、目の前の扉に向けられていた。


 カルマの声は小さいながらも、

 どこか言葉にならない優しさを帯びているように聞こえた。


 その響きが、

 彼の胸に沈んでいた記憶を揺り起こす。


 ──夢の中で見た、あの光景。


 エリヴィアは、自分の代わりに生きることを選んだ。

 だが、その選択の中で、

 彼女は知らぬ間にアレスの存在を見失っていた。


 それが、彼を追い詰めた。

 逃れられぬ運命へと導いた。


 そして、

 エリヴィアは"決断"した。


 ──すべてを終わらせるために。

 ──この手で。


 炎(エン)は夢の中で知った。

 これはただの過去ではなく、

 自分自身が深く関わっていた現実なのだと。


 彼は、無実の傍観者ではない。


 むしろ──


 この悲劇を生み出した張本人だった。


 そう考えた瞬間、

 胸の奥に重い衝撃が走る。


 罪悪感が容赦なく心を引き裂く。


 ──いや、違う。


 これは「間接的」なんかじゃない。


 俺は、この手でアレスを殺した。



 思考が交錯し、痛みに耐えるように炎(エン)は拳を強く握り締めた。

 カルマに、どう伝えればいいのか。


「俺が、君の父親を殺した」と──


 それを知った彼女は、どうなる?

 どれほどの衝撃を受ける?


 考えるほどに、心が締め付けられる。


 炎(エン)は、静かに息を吸い込み、奥底に沈む後悔を押し殺す。

 今は、それを語る時ではない。


 やるべきことがある。


 彼は決意を固め、ゆっくりと扉を開いた。

 目の前にはカルマが立っていた。

 その瞳には、わずかに不安と、そして真剣な眼差しが宿っていた。


「何かあったのか?」


 炎(エン)はできるだけ平静を装い、静かに問いかけた。

 胸の内に渦巻く痛みを、悟られないように。

 罪悪感も、後悔も、すべて押し隠すように。


 未来へ進むために。


 カルマは少し言葉を選ぶようにしながら、低い声で告げた。


「さっき情報が入ったの。影幕(シャドヴェル)が病院に運ばれたらしいわ。でも、容態が不安定で……警察も厳重に警戒してる。」


 彼女の声には、焦りが滲んでいた。

 それほど、この情報を重く受け止めているのだろう。


 炎(エン)は沈黙し、一瞬だけ視線を窓の外に向けた。

 未だ心の奥底では、夢の記憶が渦巻いている。

 だが、今はそれを振り払うしかない。


 影幕──彼は、鍵を握る存在だ。

 アレスの最期にまつわる、真実の断片を。


「行こう。」


 炎(エン)は短く言い放ち、感情を押し殺しながら前を向いた。

 カルマと視線を交わすと、互いに無言のまま頷き合う。


 そして、二人は確かな足取りで、影幕の待つ病院へと向かった。


 ──今はまだ、真実を語る時ではない。

 全てが終わったその時、彼は必ずカルマに伝える。


 ……この手で、彼女の父親を殺したということを。

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