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デビルハンター 〜最強悪魔(ヒロイン)と契約して、運命と戦うことになった件〜  作者: 雪沢 凛
第五章:曖昧な鏡像

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曖昧な鏡像 (2)

 

 朝の街はまだ静かで、車の往来も少なかった。


 アイデンは順調にハンドルを切り、目的地であるハンターギルド・レジデンスへと車を走らせた。


 この高層ビルには、ギルドのハンターたちだけでなく、彼らのパートナーやギルド職員も住んでいる。施設全体には厳重なセキュリティが施されており、安全面でも申し分ない。


 駐車場に車を停めると、後部座席で眠っていたカルマとリアがゆっくりと目を覚ました。少し休んだおかげか、二人とも顔色はだいぶ良くなっているようだった。


 リアは炎(エン)とカルマを見つめ、わずかに微笑みながら小さく礼を言った。


「……ありがとう。」


 アイデンは一足先に車を降り、軽く頷いた後、そのままギルドへ連絡を取るために少し離れた場所へ向かった。スマホを片手に細かい交渉を進める彼の横顔は、どこか鋭い緊張感を帯びていた。


 駐車場に朝の光が差し込み、柔らかな色合いで辺りを照らしている。

 炎(エン)、カルマ、リアの三人は車の横で静かに待機していた。


 炎(エン)の視線がふとリアに向かう。

 彼女はまだ少し憔悴した様子で、か細い肩をわずかに縮めながら、両腕を自分の体に回していた。

 まるで無意識のうちに、どこかに安心感を求めているようだった——。


 リアの長い緑の髪は細く柔らかく、朝の風に揺られながら肩にそっと落ちる。

 その髪は朝日を浴びてほのかに光を帯び、彼女の青ざめた顔色と微妙なコントラストをなしていた。


 しかし、何よりも目を引くのは、彼女の背にあるたった一枚の翼——


 純白で柔らかい羽が片側だけに広がり、もう片方には何もない。

 その不完全な翼は、まるで彼女の心の奥に抱えた傷を映し出しているかのようであり、孤独を物語っていた。


 カルマはその片翼を見つめ、複雑な表情を浮かべる。

 そこには同情だけでなく、どこか言葉にできないほどの敬意も滲んでいた。


(この子は、一体どんな過去を抱えているんだろう……?)


 リアは周囲を見回し、ハンターギルドの環境にどこか落ち着かない様子だった。

 彼女は小さく肩をすくめ、俯きがちに視線を落とす。

 その仕草には、余計な注目を浴びることへの不安が滲んでいた。


 そこへ、アイデンが電話を終え、軽い笑みを浮かべながら戻ってきた。

「手配完了だ。リアには静かな部屋を用意してもらった。休養するには十分な環境だし、他の連中に邪魔されることもない。」


 リアは顔を上げ、かすかに目を瞬かせた後、静かに呟くように言った。

「……ありがとう。でも、どうやってお礼をすれば……?」


 その声には疲れがにじんでいたが、感謝の想いは純粋で真摯なものだった。


 アイデンは軽く手を振りながら、穏やかな笑みを浮かべた。

「まずは自分の身体をしっかり休めろ。それからだ。」


 そう言いながら、彼は視線を炎(エン)とカルマへと向け、意味深長に続けた。

「俺たちにはまだ調べなきゃならないことが山ほどある。これが、ほんの始まりに過ぎない。」


 炎(エン)とカルマは目を合わせ、黙って頷く。

 彼らも理解していた。今回の件で明らかになったのはリアの過去だけではない。


 その背後には闇紋会の深い闇——影幕(シャドヴェル)の真の目的、アレスの過去、そしてギルドの裏に隠された陰謀が渦巻いている。



 朝の光がゆっくりと廊下に差し込み、柔らかな輝きが床に映る。

 四人は静かに、しかし確かな決意を胸に秘め、次の行動を模索していた。


 公会が用意した部屋へと足を踏み入れると、そこは静かで簡素ながらも、休息には十分な空間だった。ベッドが整然と並び、窓から差し込む光が室内を優しく照らしている。その落ち着いた雰囲気に、四人は僅かな安堵を覚えた。


 そんな中、アイデンの視線が炎(エン)の肩に留まる。包帯越しに滲み出た血が赤く浮かび上がり、傷口の悪化を物語っていた。

 アイデンは軽く眉をひそめると、新しい包帯を手に取り、炎(エン)に向き直る。


「傷が開いてるな。巻き直すぞ。」

 アイデンが包帯を取り出そうとしたその時、リアがそっと前に出た。


「私にやらせてください。」


 彼女の声は静かだったが、その言葉には不思議な力強さがあった。

 カルマが小さく首を傾げる。彼女は、リアがただ包帯を巻き直そうとしているのだと思い、少し身を引いて手伝いやすいようにする。

 しかし、次の瞬間、リアの掌がふわりと淡い緑の光を纏った。


 まるで春の朝日に包まれるような、柔らかく暖かい輝き——その光は、静かに炎(エン)の傷口へと伸びていった。


 カルマは目を大きく見開き、驚きに満ちた声で囁いた。

「……お前、治療できるの?」


 リアはふわりと微笑みながら、小さく頷いた。

 彼女の手がそっと炎(エン)の肩に触れると、柔らかな緑色の光がゆっくりと傷口へと染み込んでいく。その光に包まれるにつれ、炎(エン)の痛みは和らぎ、傷口はまるで時間を巻き戻すかのように、目に見えて癒えていった。


 アイデンはその神秘的な光景に息を呑み、目を凝らしながら低く呟いた。

「……こんな治癒能力、聞いたことがない。特に、悪魔の血を引く者が持っているなんて……リア、これは生まれつきのものなのか?」


 リアは視線を伏せ、そっと頷く。その表情には多くを語らぬ静けさがあり、微笑みがどこか神秘的な雰囲気を帯びていた。


「……だから、闇紋会はお前を手放そうとしなかったのか。」

 炎(エン)が低い声でそう呟くと、リアは一瞬驚いたように目を瞬かせた。しかし、すぐに苦笑し、再び治療に集中する。


 だが、その瞬間——

 リアの表情がわずかに曇った。


 彼女の指先から広がる癒しの光の中に、何か異質な力が紛れ込んでいることに気づいたのだ。


 それはただの魔力ではない。

 もっと深く、もっと静かで——それでいて、どこか神聖さを帯びた、不思議な気配だった。


 リアはゆっくりと顔を上げた。

 その瞳には、驚きと、かすかな畏敬の念が宿っていた。


「……お前の中に、何か別の力があるように感じる。」


 リアはそう呟きながら、畏敬と戸惑いの入り混じった眼差しで炎(エン)を見つめた。

 炎(エン)はわずかに眉を上げたが、特に問い詰めることはしなかった。


 そんな二人の様子を見ていたカルマが、ふと考え込むように尋ねる。

「……リア、お前は一体何者なんだ?」

「これほどの治癒能力を持ち、さらに他者の力まで感じ取れるなんて……」


 リアはわずかに俯き、どこか遠くを見るような静かな口調で答えた。

「……たぶん、少し特別な事情があるから……他の人よりも敏感なのかもしれない。」


 それ以上の説明はなく、その声にはどこか神秘的な響きが宿っていた。

 アイデンは静かにリアを見つめながら、心の中に淡い感情が芽生えるのを感じた。

 そして、低く穏やかな声で言葉を紡ぐ。


「……それが、闇紋会に囚われていた理由なのかもしれないな。でも、今は俺たちがいる。お前はもう安全だ。」


 リアはそっと微笑み、小さく頷く。その瞳には、一抹の信頼が宿っていた。


 自らの過去を語ることはなかったが——

 少なくとも今、彼女の胸の内にあった不安は、少しずつ和らいでいくのを感じていた。

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