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デビルハンター 〜最強悪魔(ヒロイン)と契約して、運命と戦うことになった件〜  作者: 雪沢 凛
夢幻の追憶

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夢幻の追憶 (5)

 

 しばらく時が流れた。



 ある日の放課後、少年は街角で再びアレスと遭遇した。


 以前と比べて、どこか晴れやかな表情をしている。

 その顔には、わずかな自信と誇らしさすら滲んでいた。


 そんな彼を見つめながら、少年が口を開く前に、アレスの方が先に話し出した。

「エリヴィア、俺は最近『闇紋会』というギルドに加入した。」


 少年は軽く眉を上げ、どこか驚いたような表情を浮かべる。

「ギルド?お前がそんなものに? 仲間なんて見つかるのか?」


 アレスは満足げに頷き、声には珍しく充実感が滲んでいた。


「ああ。このギルドには、俺と同じように三界共存を目指す者たちがいる。

 人間も、悪魔も、さらにはどの世界にも属さない者まで……

 彼らは符紋の研究に熱意を持ち、それぞれが理想を抱きながら、この世界を変えようとしている。」


 少年は軽く首を傾げ、興味深そうにアレスを見つめる。

「へえ……お前にピッタリな場所じゃないか。」


 そう言いながらも、どこか胸の奥にわずかな不安がよぎるのを感じた。

 ――本当に、それが正しい道なのか?


 彼は何気なく問いかける。

「……で、そのギルドの理想って、具体的には?」


 アレスは楽しげに笑い、目を輝かせながら語り続けた。


「闇紋会のメンバーはそれぞれ違う願いを持っているが、共通しているのは、この世界が固定された秩序に縛られるべきではないという考えだ。」


「彼らは符紋技術を使い、境界を超え、人間と魔界の力を融合させることで、より強大な存在を生み出そうとしている。俺はその理想に価値があると思っている。」


 少年はしばし沈黙した。


 アレスの熱意に対し、明確に否定することはなかったが、どこか冷静な視線を向ける。

「ふうん……力に対する考え方としては、悪くないな。」


「ただし、気をつけろよ。力に執着しすぎる組織ってのは、たいていロクな結末にならない。」


 アレスは肩をすくめ、軽く笑った。

 少年の冷静な忠告に、どこか呆れたような、しかし否定はしないような雰囲気を滲ませながら言う。


「まぁ、お前の言うことにも一理あるかもな。」

「でも、ここは俺にとって道が見えた場所だ。それに、もう一つ面白いことがあってな……」

 そう言って、一瞬言葉を切ると、どこか愉快そうな笑みを浮かべた。


「闇紋会には、俺とそっくりな奴がいるんだ。まるで双子みたいに、俺と瓜二つでな。……どうやら俺が人間の姿に変わった時、無意識のうちにそいつを参考にしてしまったらしい。」


 少年はその言葉を聞き、思わず口元をゆるめる。

「へぇ……つまり、お前の姿の元ネタはただの人間だったわけだ。そして今になって、その‘オリジナル’と出くわす羽目になった。」


「……これ、笑わずにいられるか?」

 少年の唇が微かに震え、抑えきれない笑みが滲む。


 アレスはクスッと笑い、目を細めながらどこか愉快そうに言った。

「確かに、滑稽ではあるな。だが、これはこれで奇妙な縁というものだろう?

 ……もしかすると、あいつが人を惹きつける理由もそこにあるのかもしれん。」


 彼は一度言葉を切り、少し考え込むような仕草を見せた。

「それに……この姿、案外便利なんだよ。」


 少年は小さく首を振りながら、わずかに警戒の色を浮かべる。

「便利かどうかはともかく……お前がそのギルドの本質をしっかり見極めることを願うよ。

 理想を掲げていても、それが純粋であるとは限らない。

 加入する以上、それ相応の責任とリスクを背負うことになるんだ。」


 アレスは静かに少年を見つめ、口元に微かな笑みを浮かべる。

「心配するな、エリヴィア。俺はちゃんと見極めるし、覚悟もできている。」


 そう言うと、彼は目を輝かせながら一歩前に出た。

「それよりも、お前も俺と一緒に闇紋会へ入らないか?

 ここには理想を持った者たちが集まっている。

 三界の共存を実現するためには、これが最良の道だと思うんだ。」


 アレスの言葉には熱がこもっていた。

 まるで、かつての仲間を再び迎え入れようとするかのような期待がそこにあった。


 しかし、少年はただ微笑み、どこか申し訳なさそうに肩をすくめる。

「悪いけど、アレス……今はちょっと無理だな。」

「俺には、文憑試験の準備があるからな。」


「……文憑試験?」


 アレスが驚いたように眉をひそめる。

「それは何だ?」


 少年は適当に肩をすくめながら答えた。

「これはな、凡人世界の若者にとって非常に重要な試験だよ。

 将来の道がこれで決まると言ってもいいくらいだ。」


 そう言って、少し息を吐く。

「この体の持ち主にとっては特に大事だ。だから、今は勉強に集中するしかない。」


 アレスは半ば理解しつつも、まだ完全に納得できていない様子で小さく頷いた。

「ふむ……つまり、重要なことなんだな。」


 少年も頷き、やや真剣な表情を浮かべる。

「そうさ。俺たちは二年間も意識を失っていたからな。学業は何とか取り戻せたが、油断はできない。」

「今回の試験をしくじるわけにはいかないんだ。もし落ちれば、今後の生活がさらに厄介になるからな。」


 そう言った後、ふと何かを思い出したように口角を上げ、どこか得意げな笑みを浮かべる。

「それに、もう運転免許の試験にも申し込んだ。車を運転できれば、これから何かと便利になるしな。」


 アレスは少年の口から次々と飛び出してくる「試験」や「免許」といった概念に、ますます理解が追いつかなくなったようだった。


 眉をひそめ、考え込むように呟く。

「運転免許?まさか、凡人は車を動かすのに許可を取らなければならないのか?なぜ魔法を使わずに移動しない?」


 少年は思わず吹き出し、どこか楽しげに言う。

「ここは魔界じゃないし、誰も好き勝手に魔法なんて使わない。凡人は道具を使って移動するんだ。」

「自分でそれを操作できるようにならないと、事故を起こしかねないからな。免許は、それを安全に扱える証明みたいなものさ。」


 アレスは腕を組み、何やら考え込むように目を細めたが、やがて微かに笑いながら言った。

「……ふむ。エリヴィア、お前も随分と凡人の規則に詳しくなったものだな。」


 少年は肩をすくめ、口元にわずかな笑みを浮かべた。

「ここで暮らすと決めた以上、適応するしかないだろ?」


 アレスはしばらく考え込み、ゆっくりと頷いた。

 まだ完全には理解しきれないものの、少なくとも少年にとって重要なことなのは分かったようだ。


「やれやれ……やはりこの凡人世界の習慣はややこしいものばかりだな。

 だが、お前がそう決めたなら邪魔はしないさ。」


 少年は微笑み、軽く頷いた。

 アレスがこうして理解を示してくれることに、わずかながらも嬉しさを覚える。


 すると、アレスはふと何かを思い出したかのように、懐から一本の短剣を取り出し、少年の前へと差し出した。


 その瞬間、鋭く光る刃が視界に入るや否や、少年は条件反射で一歩後退した。

 素早く手をかざし、小さな結界を展開し、周囲の気配を遮断する。


 低く鋭い声が、アレスに向けられた。

「アレス、ここは凡人の世界だ。そんなものを無造作に取り出すな。見られたら厄介なことになる!」


 アレスは一瞬きょとんとした後、すぐに申し訳なさそうに眉を寄せ、静かに頭を下げた。


「すまない……つい忘れていた。ただ、これはお前のために用意したものだ。」

 彼の声音には珍しく、どこか真剣な響きが宿っていた。


 少年は彼の意図を感じ取り、少し警戒しすぎた自分を反省するように、小さく息をついて頷いた。


「悪かったな。少し神経質になりすぎたかもしれない。」

 そう言いながら、少年はアレスから短剣を受け取り、その細部をじっくりと観察した。


 刃の表面には精巧な紋様が刻まれ、淡い光を帯びた符紋が、微かに揺らめいている。

 それはまるで生きているかのように、静かに脈動していた。


 アレスは少年が短剣を慎重に見つめる様子を静かに眺めながら、低い声で説明を加えた。


「これは最近、俺が研究していたものの一つだ。

 お前の今の身体は脆いと聞いた……もし敵に襲われた時、反撃できなかったら厄介だろう。

 この短剣に刻まれた符紋は防護の加護を与える。少なくとも、必要な時にはお前を守るはずだ。」


 少年の視線がわずかに柔らかくなる。

 アレスのさりげない気遣いを感じ取り、胸の奥に微かな温かさが広がった。


「……ありがとう、アレス。大切に使わせてもらうよ。」


 短剣を丁寧に収納し、バッグの奥深くへとしまい込む。

 その後、彼は慎重に展開していた結界を解除したが、その瞬間、ふとした疲労感が体にのしかかる。


 やはり、この凡人の身体では魔力の消費が以前ほど容易ではない。


 アレスはそれを見逃さなかった。

 彼はわずかに眉をひそめ、低く鋭い声で問いかけた。


「やはり……この凡人の体は、お前の力を大きく制限しているようだな。

 ここで生きていくためには、何か特別な防護手段が必要かもしれない。」


 少年は小さく息をつき、苦笑いを浮かべる。

「これが凡人の限界ってやつさ。」

「……でも、慣れるしかない。ここでは、俺たちはむやみに力を使うことは許されないからな。」


 アレスは静かに頷き、その黄金の瞳に深い理解と決意の色を宿す。

「分かった。お前がこの世界で生きていくと決めたなら、俺もそれを尊重しよう。」

「……それに、お前が守ろうとするこの世界、俺も手伝ってやるさ。」


 少年はふっと微笑み、軽く頷いた。

 この短い会話の中で、二人の間に流れる信頼と絆は、確実に深まっていく。


- 夢幻の追憶——続く-

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