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デビルハンター 〜最強悪魔(ヒロイン)と契約して、運命と戦うことになった件〜  作者: 雪沢 凛
特別回2

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ミッションコード:指名行動(4)

 二人は静かに陰に身を潜めた。


 通路の角から、黒い制服を身にまとった見張りがゆっくりと姿を現す。

 警戒するように周囲を見回しながら、慎重に足を進めていた。


 とはいえ、あくまで定期巡回のようで、今のところ侵入者の存在には気づいていないようだった。

 だが——


 見張りが炎(エン)とアイデンの潜む影へと近づいた、その瞬間。


 ——カチリ。


 静寂を切り裂く、小さな引き金の音。


 バシュッ——


 青い符紋の輝きを纏った弾丸が、一直線に見張りの手首へと命中する。


「ぐっ……!」


 突然の衝撃に、見張りは苦痛の声を上げ、思わず手にしていた武器を落とした。

 さらに、符紋の影響で全身の力が抜け、その場に崩れ落ちる。


「いやぁ、見事な腕前だね。」


 アイデンは感嘆の声を漏らし、興味津々といった様子で炎(エン)の手元を見つめる。

 その視線は、まるで新しい研究対象を発見したかのように輝いていた。


 だが、炎(エン)は冷淡な視線を向け、淡々と言い放つ。

「余計なことを言ってる暇があるなら、さっさと動け。」

 そう言うなり、倒れた見張りの身体を陰に引きずり込み、発見されるのを防ぐ。


 アイデンはなおも炎(エン)の銃に目を向け、興味を隠せない様子で囁いた。

「この銃……特に青い符紋弾がすごいな。致命傷を与えずに相手を無力化できるなんて、まさにこういう状況には最適だ。」


 彼の目は好奇心に満ちており、完全に研究者のそれだった。


 炎(エン)はそんなアイデンを冷ややかに見つめ、低く脅すように言う。


「……そんなに気になるなら、お前自身で試してみるか?」


「俺は別に、無理やり運ぶことになっても構わない。」

 その一言に、アイデンは一瞬だけ動きを止めた。


 ——そして、苦笑。


「さすが獲物に指名されるハンターだけあるね。言葉の選び方が実にストレートだ。」

「でも、安心してくれ。ちゃんと協力するさ。」

 アイデンは肩をすくめ、苦笑を浮かべた。


 どこか自嘲めいた表情で、ぼそりと呟く。

「正直なところ、俺を助けに来た奴なんて、一度や二度じゃないんだよね。」

「でも、毎回うまくいかなくてさ。この施設の防御は尋常じゃないし……それに、ここまで入り込めたのは、どうやら君が初めてみたいだ。」


 炎(エン)は冷笑を漏らし、淡々と返す。

「お前が帰る気がなかっただけだろう。」


 アイデンは少し肩を落としながら、苦笑いを浮かべた。

「ま、否定はしないよ。確かにここは危険な場所だけど……それでも、研究者としては興味をそそられる環境なんだよね。」


「契約、符紋……この施設にある知識は、外の世界では到底手に入らない。ましてや、ハンターズギルドが提供してくれるわけもないし。」


 炎(エン)は無言のまま、アイデンを一瞥する。


 研究への執着がどれほど強かろうと、彼にとってはどうでもいい話だった。

 今ここで語るべきことではないし、そんなことに付き合っている時間もない。


 ——今回の任務は、ただアイデンを連れ戻す。それだけだ。


 そんな炎(エン)の無言が、わずかに場の空気を重くする。


 だが、アイデンの興味は尽きることはなく、むしろ炎(エン)の持つ銃に視線を向けたまま、探究心を抑えきれない様子だった。


 その目は、まるで新たな研究対象を前にした学者のような輝きを帯びていた。


「なあ、君のその銃——この符紋設計、かなり独特だよな?」


「特に、青い符紋……あれだけの威力で対象を無力化できるなんて、普通の術式じゃ再現できない。」


「もしかして、さらに高度な応用ができるんじゃないか?」


 アイデンは声を抑えつつも、興奮を隠しきれない。

 その言葉の端々からも、符紋技術に対する深い興味が滲み出ていた。


 だが、炎(エン)はそれに対し何の反応も示さない。

 ただ、銃を無言で握り直すと、そのまま踵を返し、黙って歩き出す。


 アイデンは一瞬だけ肩をすくめ、しばらく沈黙した後、ふっと笑って炎(エン)の後を追った。


◆ ◆ ◆ 


 二人は暗闇に包まれた廊下を駆け抜け、炎(エン)が事前に記憶していたルートを辿り、出口へと向かっていた。

 だが、あと少しで外へ出られるというその瞬間——


「……ちょっと待ってくれ。」


 アイデンが突然足を止め、微かに迷いの色を浮かべた。

 彼の視線の先には、一つの錠付きの扉があった。


 炎(エン)は立ち止まることなく、冷たく言い放つ。

「今は私情を挟む時じゃない。敵がいつ現れてもおかしくない。」


「でも……あの部屋の中に、重要な研究データがあるかもしれないんだ。」

 アイデンは僅かに躊躇しながら扉の方へと目を向けた。


 その瞬間——


 ——カチャッ。


 鋭い音が廊下に響く。


 炎(エン)が迷うことなく銃を構え、銃口をアイデンへと向けていた。

 彼の指はすでにトリガーにかかり、わずかに力を込めれば発射される状態。


「……お前、本気で俺に撃つつもりか?」

 アイデンは苦笑しつつ、しかし視線は炎(エン)の冷徹な表情と銃口の間を行き来する。


 興味が尽きないその符紋銃——そして、そこに込められた青い弾丸の効果。

 だが、それを自らの身で試すつもりはなかった。


「……もしかして、実際に体験したいのか?」

 炎(エン)の目がわずかに細められる。


「いや、遠慮しておくよ。」

 アイデンは喉を鳴らし、ゆっくりと両手を上げる。

 観念したように息を吐き、肩をすくめながら降参の意を示した。


「わかった、わかったよ。大人しくついて行くから、銃を下げてくれ。」


 炎(エン)は数秒アイデンを見つめた後、無言のまま銃を下ろした。

 その目には冷ややかな光が宿ったまま。


 何かを言いかけたアイデンだったが、結局口を閉ざし、素直に炎(エン)の後を追いかける。

 しかし、最後にもう一度 炎(エン)の手元へと目を向け——


「……本当に冷酷なハンターだよな。」

「でも、その銃……研究できたら面白そうなのに。」


 呟くようにそう言うと、炎(エン)はそれを完全に無視したまま出口へ向かう。

 目の前の脱出ルートに意識を集中させ、最後まで警戒を怠らなかった。


 こうして、炎(エン)はアイデンを無事にギルド本部へ送り届け、任務を完遂したのだった——。


 ◆ ◆ ◆ 


 アイデンは疲れた表情でギルドの扉を押し開けた。

 夜の冷気が背後から入り込み、大きなホールの静寂に溶け込む。

 そして——


「おかえり。」


 すでにそこに待っていた一人の男が、黒いコートの襟を軽く立てながら、にやりと微笑んでいた。

 まるで最初からアイデンの帰還を予期していたかのような態度だった。


「どうだった?あの新人は。」

「面白い奴だったか?」

 男の目には、好奇心とわずかな楽しげな色が滲んでいる。


 アイデンは肩をすくめ、淡々と答えた。

「面白い?……あいつ、マジで俺を撃ちかけたんだけどな。」


 男はその言葉に小さく笑い、まるで納得したように軽く頷く。

「だろうな。でも、お前を無事に連れ帰った。それも、一切のミスなく。」


 アイデンはその言葉に何も返さず、一瞬だけ沈黙した。


 しかし、次の瞬間——

 彼の唇の端が、わずかに上がる。


 あの白髪のハンターの冷静さ。


 そして、その迷いのなさ——

 そのすべてを思い返しながら、アイデンは小さく頷いた。

 ただそれだけの返事を残し、彼は踵を返して歩き出す。


 そして、誰もいなくなったホールに、男の静かな笑みだけが残された——。


 ◆ ◆ ◆ 


 あの救出任務以来——


 炎(エン)の生活は、もう二度と以前の静寂を取り戻すことはなかった。


 アイデンはすっかり彼の「常連」となり、まるで何の障害もないかのように、当たり前のように炎(エン)の住処を訪れるようになった。


 本来ならこの古びた唐楼(とうろう) は、人目につかず、結界によって外部の干渉を防いでいるはずだった。

 しかし、アイデンにはそんなものは何の意味もなかったらしい。


 ——ある日。

 またしても扉をノックする音が響く。


 炎(エン)は半ば呆れたように扉を開け、ついに尋ねた。

「……お前、一体どうやってここを見つけた?」


 アイデンは肩をすくめ、得意げな笑みを浮かべながら答える。

「それが俺の特技だからね。人を探すのは研究員としての基本スキルさ。」


 その軽い口調に、炎(エン)はますます眉をひそめる。


 この男は、一度狙いを定めたら絶対に諦めないタイプだ。追い払おうとしても無駄だろう。

 そう悟った炎(エン)は、次第にアイデンの存在を黙認するようになった。


 ——それだけではなかった。


 気がつけば、アイデンはカルマとすらすぐに打ち解け、まるで長年の知己のように談笑する仲になっていた。


 特に、符紋や魔物に関する話題ではやたらと盛り上がる。


 ある日、カルマが小声で炎(エン)に囁いた。

「ねえ、あなたのその ‘友人’、本当に面白いわね。」

「なんでここまで知ってるのかしら? しかも自分で勝手に話題を持ってきて、全然退屈しないのよ。」


 炎(エン)は彼女の言葉に目もくれず、冷淡に答える。


「面白いっていうより、鬱陶しいだけだろ。」

 そう言いつつも、二人が楽しげに話している姿を見て、完全に否定することはできなかった。


 カルマは時折アイデンに人間社会について尋ね、逆にアイデンの「悪魔研究の狂気」に対して皮肉混じりに茶化すこともあった。


 炎(エン)の住処は、これまで以上に賑やかになっていった。

 そして、それを嫌がる素振りを見せつつも、炎(エン)自身がそれを完全に拒絶することはなかった。


 ——ある朝。


 アイデンがカップに注がれたコーヒーを片手にリビングへ入り、ふと部屋を見渡した後、ぼそりと呟いた。


「正直さ、こういう仲間がいるのって、案外悪くないもんだな。」

「公会の規則に縛られず、自由に符紋や魔物の研究ができる……ここは、本当に貴重な場所だよ。」


 その言葉に、炎(エン)は何も言わず、ただ静かに頷いた。

 心の奥底では、すでに気づいていたのかもしれない。


 ——この日々も、そう悪くはないと。


-ミッションコード:指名行動(完)-


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