禁忌の符紋(11)
——車は静かに走り出した。
街灯の明かりが窓の外を流れ、
車内には ‘重い沈黙’ が落ちる。
炎は、シートに深く身を預けた。
その瞳は ‘前方’ を見据えている。
しかし、思考は——
‘さっきのハンターたち’ の影を追っていた。
——偶然か?
それとも、‘何かの意図’ があったのか?
炎は、その疑問を口にすることはなかった。
ただ ‘沈黙のまま’ 考え続ける。
後部座席では、カルマもまた ‘静か’ だった。
彼女は、じっと ‘夜の街並み’ を見つめている。
その表情は読めない。
一方、アイデンは——
そんな空気など ‘気にも留めず’、愉快そうに語り出した。
「なぁ、さっきの記録、見ただろ?」
ハンドルを握りながら、
彼はどこか ‘興奮気味’ に続ける。
「あの契約と符紋の構造、ヤバくなかったか?
実物を見たのは初めてだけど……いやぁ、正直 ‘鳥肌’ もんだったよ。」
炎は、ゆっくりと視線を横へずらす。
その目には、わずかな ‘警戒’ が浮かんでいた。
だが——
彼は ‘何も言わない’。
アイデンは、そんな視線にも気づかず、
まるで ‘新しい発見’ をしたかのように 嬉々として語る。
「それに、あの符紋……オレが昔研究してたのと、
‘かなり’ 似てるんだよなぁ。」
「これって、つまり……」
——カチリッ。
カルマが ‘静かに溜息をついた’。
そして、淡々とした声で——
アイデンの言葉を ‘遮った’。
「……アイデン。」
「私たちは、‘研究ごっこ’ をしてるんじゃないのよ。」
彼女は、窓の外を見つめたまま、
静かに ‘冷たい言葉’ を紡ぐ。
「あの記録に関わるものは、
あなたが思ってるより ‘ずっと危険’ よ。」
その一言が、車内の空気を変えた。
——アイデンは ‘固まった’。
一瞬の沈黙の後、
彼は、ぎこちなく ‘笑み’ を浮かべる。
「え、ああ……」
「そうだな……ちょっと、はしゃぎすぎたかも。」
彼は ‘バツの悪そうな顔’ をしながら、
喉を軽く ‘咳払い’ する。
「まぁ、ただ……」
「これが ‘大きな突破口’ になるかもしれないって思ったんだよ。」
——‘炎の目が細められる’。
その深緑の瞳は、依然として ‘鋭さ’ を失ってはいない。
しかし——
彼の口元が、わずかに ‘緩んだ’。
それは、‘気づかれないほど微かな’ 笑み。
アイデンは、車内の ‘空気’ が変わったことを察したのか——
先ほどまでの ‘興奮’ を抑え、
少し ‘落ち着いた声’ で続けた。
「……まぁ、それにしても、今回の任務は危なすぎたな。」
「あの魔物の攻撃、今思い返してもゾッとする。
正直、途中で ‘終わった’ と思ったよ。」
「お前の ‘符紋弾’ がなかったら、な。」
炎は、ハンドルを握るアイデンを一瞥し、
‘低く、しかし柔らかな声’ でそう返した。
アイデンは、一瞬 ‘驚いたような表情’ を見せた。
——‘エンが’ 俺を ‘褒めた’……?
彼は ‘信じられない’ という顔をしつつも——
やがて、口元に ‘満足そうな笑み’ を浮かべた。
「へぇ……お前がそんなこと言うなんてな。」
「やっぱり ‘符紋弾’ の威力はすごかっただろ?」
「もっと研究を進めたら、さらに強くなるかもな。」
彼の目が ‘輝く’。
まるで ‘新たな研究材料’ を見つけた科学者のように。
——しかし、その次の瞬間。
アイデンは、突然 ‘ガツン’ と額を叩き、
‘何か’ を思い出したような顔をした。
「——あっ!!!」
「お前の ‘銃’、壊しちまったんだった……!」
「……ホントに ‘悪かった’。」
彼は ‘申し訳なさそう’ に、
炎の方へと顔を向ける。
「いや、俺の ‘本意’ じゃなかったんだよ!?」
「でも、あの符紋弾の威力を考えたら、
普通の銃じゃ耐えられないのも当然で……」
「とにかく! ちゃんと ‘補償’ する!
今度、新しいのを設計するからさ!」
炎は、その申し出に対し——
ただ、淡々と ‘頷いた’。
「……使えれば、それでいい。」
アイデンは、ほっと胸を撫で下ろしながら、
「ま、任せとけ!」 と明るく笑った。
——「アイデン?」
不意に、後部座席から ‘軽快な声’ が響く。
‘カルマ’ が ‘くすり’ と笑いながら口を開いた。
「あんた、さっきの魔物に ‘危うく’ やられかけてたわよね?」
アイデンの肩が ‘ビクリ’ と震える。
「もし私とエンが ‘助けなかったら’……」
「今ごろ ‘研究どころじゃなかった’ んじゃない?」
アイデンは ‘バツの悪そうな顔’ をしながら、
後頭部をポリポリと掻く。
「あー……まぁ……」
「それは ‘認めざるを得ない’ かな。」
彼は 照れくさそうに苦笑しながら、
ゆっくりと深く頷いた。
「いや、本当に ‘命の恩人’ だよ、お二人さん。」
——カルマは ‘ニヤリ’ と微笑む。
「なら、恩返ししなさい。」
「少なくとも ‘ご馳走’ くらいは期待してるわよ?」
アイデンは ‘目を丸くし’ た後、
すぐに ‘ニッ’ と笑い、親指を立てる。
「もちろん!」
「帰ったら ‘俺のおごり’ だ。好きな店を選べよ!」
彼の ‘即答’ に、
カルマは 満足げに微笑んだ。
——そのやり取りを、炎は ‘静かに見守っていた’。
彼の視線は、ゆっくりと ‘窓の外’ へ向かう。
‘夜の街’ は静かだった。
暗闇の中で、
無数の ‘街灯’ が淡く輝いている。
まるで ‘遥か遠くにある星’ のように——。
しかし、彼は知っていた。
‘その光の奥に’ は、無数の ‘影’ が潜んでいることを。
闇の中に蠢く ‘未知なる脅威’。
それは、確実に ‘この世界’ に根付いている。
だが——
少なくとも ‘今この瞬間’ は。
炎は、ふっと ‘小さく息を吐く’。
そして、そっと ‘目を閉じた’。
–第三話 禁忌の符紋 (完)--
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
今回の章では、日常の一幕を描きつつ、物語の核心に迫る手がかり がいくつか明らかになりました。
カルマは父・アレスに関する情報を得たものの、その真相はまだ霧の中。炎の銃はアイデンが提供した符紋弾によって壊れましたが、これは新たな武器への伏線なのか? そして、アイデンの正体も徐々に謎を帯びてきました。彼は研究者であり情報屋ですが、それ以上の立場にいるのかもしれません。
次回、闇紋会の動きが本格化し、三人はさらなる試練に挑むことになります。 どうぞお楽しみに!