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禁忌の符紋(10)

 その魔物は、獲物を仕留めるように、

 鋭い爪を突き立てんとしながら、一直線に襲いかかる。

 

 ——だが、その ‘爪’ が届くことはなかった。

 

 「……遅い。」

 

 ——バンッ!

 

 エンの符紋弾が、魔物の頭部を撃ち抜く。

 

 紅い弾道が夜闇を裂き、閃光が爆ぜる。

 

 魔物の頭蓋を ‘貫通’ し——


 その巨体が、空中で失速。

 そのまま、地面へと叩きつけられた。

 

 「ナイス!」

 アイデンが思わず叫ぶ。


 しかし——


 次の瞬間、エンの銃が ‘異常な震動’ を起こす。

 

 「——ッ!」

 

 ‘不吉な亀裂’ が、銃身を這い、広がっていく。

 

 そして——

 

 ——ピキッ、ピシッ!

 

 「……ッ!」


 ——バキンッ!

 

 銃が、砕けた。

 

 弾丸を放った直後、銃身が耐えきれず、

 無惨にも ‘複数の破片’ へと砕け散る。

 その破片が、夜闇の中へと散乱していく。

 

 エンは、壊れた銃をしばらく無言で見つめ——

 やがて、その残骸をゆっくりと手放した。

 

 その足元では——

 最後に撃ち抜かれた魔物が、

 断末魔の声を残し、沈黙する。

 

 夜風に消える、その ‘咆哮’ を聞きながら——

 エンは、静かに呼吸を整えた。

 

 ——だが、危機は終わっていなかった。

 

 轟然と響く咆哮。


 トンネルの闇から——

 ‘巨大な影’ が這い出してくる。

 

 血のように紅い ‘双眸’。

 その奥に宿るのは——


 純粋な ‘殺意’。

 

 「……クソッ、まだ来るか!」

 

 エンは、迷わず車へと駆ける。


 ——ダンッ!


 運転席へ飛び込み、

 瞬時にキーを回す。

 

 エンジンが ‘轟音’ を上げる。

 

 「カルマ、アイデン! 早く乗れ!」

 

 カルマは、一瞬も躊躇わなかった。

 アイデンの腕を掴み、そのまま ‘後部座席へ押し込む’。

 

 「ちょっ、押すな!」

 アイデンが抗議するも、

 カルマは一言、「黙れ!」とだけ返し、

 すぐさま自分も助手席へと滑り込む。

 

 そして、ドアが閉まるのと同時に——


 ——ブオンッ!!


 タイヤが ‘焦げる音’ を上げながら、車が急加速する。

 

 闇を切り裂き、

 車は一気にトンネルを離脱する。

 

 ——だが、魔物はまだ ‘諦めていない’。

 

 ズシン、ズシン、ズシン……!


 その四肢が地を叩き、

 車を追いかける速度は——


 ‘異常’ だった。

 

 「なぁエン、お前……運転免許、持ってるよな!?」

 アイデンが、後部座席から顔を出し、

 前方の ‘危険なカーブ’ を見つめながら叫ぶ。

 

 カルマは、思わずアイデンを睨みつけ——

 「今それ聞く!?」と低く呟く。

 

 だが——

 次の瞬間、エンが静かに口を開いた。

 

 「持ってる。」

 

 その ‘極めてシンプル’ な答えに——

 アイデン & カルマ、沈黙。

 

 互いに視線を交わし、

 その無言のやり取りに宿るのは——

 驚きと、呆れと、微妙な納得。

 

 しかし、その余韻に浸る暇もなく——

 車が、猛スピードで急カーブに突入。

 

 ——ギュルルルッ!!


 タイヤが ‘火花’ を散らしながら、道路を ‘滑る’。

 

 だが、エンの手は ブレなかった。

 方向盤を、迷いなく捌く。

 その ‘冷静な眼差し’ は、ブレることなく前方を捉えていた。

 

 アイデンは、それを見て、思わずポツリと呟く。

 「……マジか。」


 ——確かに、運転自体は ‘難しくない’。

 だが、この都市で正式な免許を取得するのは——

 ‘途方もなく面倒’ なのだ。

 

 アイデンは、思わずエンを見つめた。

 こいつが、律儀に免許を取るような人間には——とても見えない。

 

 そして、理解した瞬間——

 アイデンは小さく肩を落とし、苦笑した。

 

 「……やっぱコイツ、普通じゃねぇよな……」

 ——ぽつりと、独り言のように呟く。

 

 だが、その軽口も長くは続かない。

 

 エンは、鋭い目つきで ‘バックミラー’ を睨んでいた。


 そこに映るのは——

 獣のような ‘真紅の双眸’。

 

 ——まだ追ってくる。

 

 その脚は、異常な速度で ‘地を裂く’。

 車が旋回し、スピードを上げても——

 魔物は ‘一歩も遅れない’。

 

 「チッ……いつまで追ってくる気だ?」

 アイデンが苛立ち、後部座席から魔物を睨みつける。

 

 カルマも、険しい顔で低く言う。

 「このままじゃ、どこへ連れ込むことになるの?人が多い場所は危険よ。」

 

 エンは、無言のまま ‘ハンドルを握る手’ に力を込める。

 表情には、珍しく ‘険しい緊張’ が浮かんでいた。

 

 ——逃げ切れる場所が ‘見つからない’。

 

 車内には、張り詰めた沈黙が落ちる。

 誰もが、呼吸を忘れるほどの ‘圧迫感’ を感じていた。


 ——次の瞬間、魔物の爪が光を反射しながら振り下ろされる。

 

 ——その時だった。

 

 ‘閃光’ が夜空を切り裂く。

 低く響く ‘機械音’。

 

 高所から、一筋の ‘ワイヤー’ が放たれる。

 一直線に魔物を狙い——

 

 その末端が、まるで ‘金属の爪’ のように展開。


 ——ガシャンッ!!

 

 魔物の巨体を、完璧に ‘捕らえた’。

 

 「——ッ!?」

 

 獣は咆哮を上げる。

 耳をつんざく ‘怒りの叫び’。

 その四肢が地を叩き、

 必死に ‘もがく’——。

 

 だが、

 その ‘拘束’ は、決して緩むことはなかった。

 

 エンは、瞬時に状況を判断し——


 ——キィィィッ!!

 

 ブレーキを強く踏み込み、

 車を ‘路肩’ へと停める。

 

 三人が振り返ると——

 そこには、‘獲物を狩る者’ たちが立っていた。

 

 ‘獲物’ を狙う ‘狩人’。

 ——狩猟者ハンターたち。

 

 彼らは ‘公会の制服’ を纏い、

 冷静に戦況を把握していた。

 

 先頭の男は、手に ‘操縦装置’ を持ち、

 淡々と指示を出す。


 別のハンターが、ワイヤーをさらに引き締める。


 ギリギリギリ……ッ!!


 拘束された魔物が ‘軋む音’ を立てる。

 

 「……ふぅ。間一髪、ってとこか。」

 

 アイデンが、胸を撫で下ろし、

 ようやく ‘緊張を解いた’。

 

 獵人公会のメンバーは、

 この騒ぎを予測していたかのように、迅速に動いていた。

 彼らは、手慣れた様子で魔物を押さえ込み、

 複数の鎖を巻きつける。

 

 やがて——

 魔物の叫びは、次第に ‘弱まり’——


 そして、静寂が訪れた。

 

 アイデンは車を降り、公会の支援隊に近づく。

 彼らと軽く挨拶を交わしながら、

 親しげな笑みを浮かべた。

 

 一方、エンは——

 依然として、冷静な表情を崩さなかった。

 

 彼は、車のそばに寄りかかりながら、

 公会ハンターたちの動きを ‘観察’ していた。

 

 彼らが現れたのは、あまりにも ‘絶妙なタイミング’ だった。

 まるで ‘最初から分かっていた’ かのように。

 

 だが——

 エンは、その疑念を表に出すことはしなかった。

 ただ、静かに見つめるだけ。

 

 ——冷静に、慎重に。

 

 その間にも、アイデンは公会ハンターたちと言葉を交わしていた。

 その態度は ‘気さく’ で、

 まるで古くからの ‘知り合い’ かのように。

 

 公会のハンターたちもまた、

 彼に対して ‘明らかに’ 敬意を払っていた。

 

 「アイデン先生、今回も助かりました。」

 ハンター隊のリーダーらしき男が、

 アイデンの肩を ‘恭しく’ 叩く。

 その口調には、どこか ‘畏敬の念’ が混じっていた。

 

 「あなたが前線で協力してくれたおかげで、

 魔物を無事に制圧できました。」

 

 アイデンは、それを受けて 軽く笑い、手を振った。

 「いやいや、そんな大したことじゃないよ。」

 「支援が早かったおかげで、

 俺たちも無事に逃げられたんだから。」

 

 その ‘何気ないやり取り’ を、エンは——

 ただ、黙って見つめていた。

 

 ——彼は知っていた。

 アイデンと公会の関係が ‘普通ではない’ ことを。

 

 支援隊のハンターたちの態度も、

 単なる ‘研究員’ に向けられるものとは思えない。

 

 彼は、かすかに目を細める。


 ‘アイデン’——お前の正体は、一体何なんだ?

 

 だが、今は問い詰める時ではない。

 エンは、ゆっくりと立ち上がり、

 アイデンに向かって小さく頷いた。

 

 「……行くぞ。」

 

 アイデンも、それ以上何も言わずに、

 「よし、戻ろうか。」と軽く返す。

 

 エンは副座に座り、窓の外を静かに眺める。

 カルマも何も言わず、後部座席へ。

 

 アイデンは車に乗り込み、

 エンジンをかけ、アクセルを踏み込んだ——。


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