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デビルハンター 〜最強悪魔(ヒロイン)と契約して、運命と戦うことになった件〜  作者: 雪沢 凛
第三章:禁忌の符紋

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禁忌の符紋(3)

 路地を歩いていた時——

 ‘微かな音’ が、ふと耳に届いた。

 

 炎(エン)は ‘足を止める’。

 ‘慎重に周囲を見回しながら’、音のする方向へ向かう。

 

 人気のない ‘横道’。

 そこに——

 ‘小さな猫’ が蹲っていた。

 

 ‘毛並みはボロボロ’。

 ‘小さな体はやせ細り’、

 ‘どこか儚げな瞳’ で炎(エン)を見つめている。

 

 (……弱ってる?)

 

 本能的に ‘警戒しながら’、ゆっくりと近づく。

 しかし、その瞬間——

 

 —— ‘ふっ’ と、視界が歪んだ。

 

 ‘白い猫’。

 ‘血に染まった毛並み’。

 ‘炎(エン)の腕の中で小さく震えている’。

 ——手を伸ばす。

 ——背中をそっと撫でる。

 ——助けを求めるように、猫は微かに鳴いた。

 

「……っ。」

 

 ——その光景は、あまりに ‘鮮明だった’。

 ‘記憶の断片’ にしては ‘異様なほどの実感’ を伴っている。

 ‘忘れていたはずの何か’——

 心の奥底をかき乱すように、胸を締め付ける感覚。

 

 炎(エン)は、‘無意識に拳を握りしめた’。

 この記憶は ‘本当に過去のものなのか?’

 それとも——

 

 —— ‘コツン’

 

 小さな足音が、現実へと引き戻した。

 炎(エン)は反射的に顔を上げ、気配の方向を見る。

 

 そこにいたのは、

 —— ‘小さな女の子’。

 

 彼女は、‘ペットキャリー’ を両手で抱えながら、

 ‘おそるおそる炎(エン)と猫を交互に見つめていた’。

 

 目が合った瞬間、少女は小さく肩を震わせた。

 まるで、炎(エン)が何か ‘恐ろしい存在’ であるかのように——。

 

 (……怖がらせたか?)

 

 炎(エン)は ‘わずかに表情を和らげる’。

 そして、低く静かな声で問いかけた。

 

「……これは、お前の猫か?」

 

 ——できる限り、威圧感を抑えて。

 

 少女は ‘かすかに頷き’、恐る恐る猫へ歩み寄った。

 炎(エン)を警戒するように、時折ちらりと視線を向けながら——。

 

 猫は ‘微かに顔を上げる’。

 そして、

 —— 「……にゃぁ……」

 か細い鳴き声が、静寂の路地裏に響いた。

 

 少女はそっと猫を抱き上げ、優しくキャリーケースの中へ戻す。

 小さな指がカゴの扉をしっかりと閉じると、

 彼女は ‘ちらりと炎(エン)を見上げ’、

 ‘おずおずと小さな声で’ こう言った。

 

「……ありがとう、お兄ちゃん。」

 

 炎(エン)は ‘軽く頷き’、半歩だけ後ろへ退いた。

 少女はそれ以上何も言わず、

 —— ‘キャリーケースを抱えたまま、足早に路地を出ていった’。

 

 炎(エン)は、ただじっとその背中を見送る。

 ──何だったんだ、今の映像は。

 再び脳裏に蘇る、血に染まった白い猫の記憶。

 ただの空想ではない。


 あの一瞬に宿っていた、確かな感情の重みが、いまだに胸に残っている。

 言葉にできない、得体の知れない感覚。

 懐かしさと、喪失感。

 それが何なのかは、まだ思い出せない。

 

 —— 「ブブッ」

 

 突然、スマホのバイブ音が静寂を破った。

 炎(エン)はわずかに眉をひそめ、ポケットから取り出す。

 画面に表示されたのは、‘見覚えのある番号’。

 (……アイデンか。)

 

 連絡先には登録していない。

 だが、この番号は何度も目にしている。

 

 炎(エン)はしばらく着信画面を見つめ、

 指を拒否ボタンの上で止めた。

 —— 「ピッ」

 無言で切る。

 

 しかし——

「ブブッ」

「ブブッ」

 

 再び、同じ番号。


 炎(エン)の表情にわずかな不機嫌さがよぎる。

 無言のまま指を滑らせ、スマホの設定を開く。

「着信拒否モード:ON」

 ──ピタリと、静寂が戻った。

 歩き出そうとしたそのとき——。


 ブルッ……。


 ポケットの中で、微かな振動が伝わった。

 炎(エン)は無言でスマホを取り出す。

 画面を確認すると、メッセージ通知だった。


 ── 《なぜ電話に出ない?公会で待ってるぞ。》


 炎(エン)は小さく息をつき、ゆっくりと首を振った。

 (……やっぱり、こいつは簡単に諦めるような奴じゃないな。)

 

 彼はもう一度、先ほどの小猫がいた路地をさっと見渡した。

 その後、スマホをポケットにしまい、再びコインランドリーへ向かって歩き出す。

 

 炎(エン)は何気なく街を歩きながら、無表情で周囲を眺めた。

 行き交う露天商や人々、ざわめく雑踏の中、路地裏の生活感は雑然としていながらもどこかリアルで——

 不思議なほど馴染み深い感覚があった。

 まるで、この街のすべての角、このすべての路地を、以前どこかで歩いたことがあるかのように。

 

 ぼんやりと浮かんでは消える記憶の断片。

 掴みかけた瞬間に指の隙間からすり抜けていく。

 それが何かを思い出す手がかりなのか、それともただの錯覚なのか——

 炎(エン)には分からなかった。

 

 しばらく歩くと、角にある小さな屋台から香ばしい匂いが漂ってきた。

 油の中で揚げ物がじゅうじゅうと音を立て、湯気とともに食欲をそそる香りが広がる。


 屋台を切り盛りしているのは、年配の女性だった。

 彼女は炎(エン)の姿を見つけると、笑顔で声をかけてきた。

「お兄さん、どうだい? ちょうど揚げたてだよ!」

 

 炎(エン)は一瞬足を止めた。

 本当なら断るつもりだった。

 だが、空腹感がじわりと意識に上り、ほんの少しだけ迷う。

 

 ……そして、結局、彼は財布を取り出し、代金を支払った。

 揚げたての串を受け取り、適当にひとくち頬張る。

 

 —— 熱い。

 —— そして、懐かしいほどにうまい。

 

 衣のサクサクとした食感と、口の中にじんわり広がる油のコク。

 その温もりに、炎(エン)は一瞬 「何か」 を思い出しそうになった。

 しかし、それが何なのかは分からない。

 

 ふと、彼は自分が 「ただのハンターではなく、一人の人間として」 この街に存在しているような気がした。

 ほんの一瞬だけ。


 その時だった。

 何気なく視線を向けた街角のカーブミラーに、違和感が映る。

 —— 肩の上をかすめるように、白い影が横切った。

 

 炎(エン)は反射的に足を止め、眉をひそめる。

 すぐさま振り返ったが、そこには何の異変も見当たらない。

 

 ……気のせいか?

 それとも。

 

 彼は僅かに呼吸を整え、歩を速めた。

 だが、理由の分からない違和感だけは、まだ胸の奥に残っていた。

 まるで、何かがじわじわと 「目覚めようとしている」 かのような——

 

 そして、コインランドリーの前へ戻ったその時。

 遠くから、急ぎ足の足音が響く。

 

 炎(エン)はそちらに目を向けた。

 街の向こうから、カルマが駆け寄ってくるのが見えた。

 彼女の表情には、珍しく焦りの色が浮かんでいる。

 炎(エン)の姿を確認した彼女は、小さく息をつき、そのまま真っ直ぐ歩み寄った。

 

「新しい動きがあったわ。アイデンが待ってる。」

 カルマは炎(エン)のすぐ近くまで来ると、声を潜めてそう告げた。

 

 炎(エン)は軽く眉を寄せ、小さく尋ねる。

「……アイデンは、何があったか詳しく話していたか?」

 

 カルマは頷きつつ、僅かに不安げな表情を見せた。

「闇紋会(あんもんかい)のメンバーが、公会の支部で目撃されたそうよ。最近、ブラックマーケットで 正体不明の符紋武器 が出回ってるらしくて……アイデンは、それと彼らが関わってる可能性が高いって言ってたわ。」

 

 闇紋会(あんもんかい)——

 炎(エン)の眼差しが、一瞬鋭く光る。

「……堂々と姿を現すとはな。」

 

 カルマは低く言った。

「彼らの計画が、もう最終段階に入っているのかもしれない。」

「アイデンの推測だと、我々が考えていたより、はるかに大きな陰謀 が動いている可能性がある。」

 

 炎(エン)は僅かに目を伏せ、次の行動を決めるように息を整えた。

 そして、ゆっくりと顔を上げる。

「……なら、確かめに行くしかないな。」


 二人は一度住処へ戻り、装備を整えた後、ハンターズ・ギルドの支部へと向かった。

 炎(エン)はいつものように冷静さを崩さず、淡々と歩を進める。


 だが、頭の中では**闇紋会(あんもんかい)**についての思考が巡っていた。

 ──この組織の名は、以前から耳にしていた。


 ただの裏社会の犯罪集団ではない。

 魔物を利用するだけでなく、人間をも実験材料として扱い、

 非道な手段で「力の限界」を追い求めている連中。

 そんなものを野放しにすれば、遅かれ早かれとんでもない災厄を招くことになる。

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