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禁忌の符紋(1)

 エンは住処の小さな机の前に座っていた。

 

 ‘視線の先’ にあるのは——

 ‘数発の符紋弾’。

 

 青と緑の光沢が ‘微かな光’ に照らされ、交差する。

 その輝きは、‘冷たく研ぎ澄まされた刃’ のようだった。

 

 ——机の横には、一挺の ‘拳銃’。

 漆黒の金属は、光を吸い込むように ‘鈍く沈黙’ している。

 反射は、一切ない。

 

 だが、だからこそ——

 ‘静かなる殺気’ を孕んでいた。

 

 グリップには、‘細やかな彫刻’ が施されている。

 それは 握る者に、確かな安定を与え——

 引き金を引くたびに、より精密な制御を可能にした。

 

 銃身の表面には、‘複雑な符紋’ が刻まれていた。

 一見すると、装飾にすぎないかのような ‘静かな威圧感’。

 だが、それは ‘隠された力’ の証。

 

 この符紋は ‘秘められた設計’ によって、

 銃の火力を強化する ‘根源’ となっていた。

 

 そう——

 ‘それはただの武器ではない’。

 

 戦場における ‘相棒’ であり——

 悪魔を討つ ‘切り札’ であり——

 あらゆる脅威を排除するための ‘意志そのもの’ だった。

 

 この銃は ‘常に’ エンと共にある。

 そして、次なる戦いの時も——

 躊躇うことなく ‘引き金を引く’。

 

 ——‘すぐそばに、一振りの短剣’。

 

 刃は ‘静かに光を宿し’、

 鈍い銀の冷気を纏っていた。

 

 ‘符紋’ は、繊細かつ精巧に刻まれている。

 その ‘一本一本の線’ に至るまで、妥協なく仕上げられた造形。

 

 だが——

 ‘この短剣が抜かれることは滅多にない’。

 

 それは ‘非常時の護身用’。

 接近戦が避けられない時、あるいは不意の奇襲に見舞われた時——

 その刃は、ためらいなく振るわれることとなる。

 

 ——エンは、黙々と装備を整えていた。

 机の上に散らばる ‘符紋弾’ を、淡々と ‘弾倉’ に戻していく。

 

 ——その時。

 

 ‘コン、コン’

 扉を叩く音が、静寂を破る。

 

 エンは ‘ふと顔を上げた’。

 そして、扉の向こうに見えたのは——

 

 ……アイデンか。

 

 扉を開けて現れたのは、

 ‘雑に束ねられた金髪’ の男だった。

 どこか疲れを滲ませた、馴染みのある ‘無造作な笑み’。

 

 エンは ‘眉をひそめ’、

 ‘薄く微笑みながら’ こう問いかける。

 

「……また遊びに来たのか?」

 

 その声音には、

 ‘冷ややかだが、僅かに揶揄を含んだ響き’ があった。

 

 アイデンは ‘適当に室内を見渡し’、

 深いため息をつきながら、椅子に腰を下ろした。

 

 ——そして、肩をすくめ、 ‘苦笑する’。

 

「……はぁ。」

「やれやれ……」

 ‘その表情には、明らかな ‘諦めの色’ が浮かんでいた’。

 アイデンは ‘深いため息’ をつきながら、

 指先で ‘軽くこめかみを揉む’。

 

「……はぁ。」

「前回の事件以来、俺の調査も研究も ‘完全に行き詰まってる’ んだ。」

 

 ——‘いつもの軽薄な調子’ は、そこにはなかった。

 どこか ‘珍しく疲れた声’ で、彼は続ける。

 

「エリヴィアの手がかりも、黒燈会こくとうかいの動向も——」

「まるで ‘誰かに意図的に隠されている’ みたいに、」

「一歩も前に進めやしない……。」

 

 エンは ‘無言のまま’、

 机の上の符紋弾を ‘手際よく弾倉に収め’ ていく。

 

 ——そして、ふと。

 

 ‘淡々とした口調’ で、呟くように言った。

 

「……お前でも ‘見つけられないこと’ なんてあるんだな?」

 

 ——アイデンの手が ‘ピタリ’ と止まる。

 

「……おいおい、からかうなよ。」

 彼は ‘苦笑い’ を浮かべ、

 ひらひらと手を振る。

 

 ——だが、その視線は ‘再び部屋の中’ をさまよっていた。

 まるで ‘何か’ を探しているかのように——。

 

「……カルマは?」

 アイデンが ‘目線を戻し’、

 少し驚いたように ‘首を傾げる’。

 

「ここにいると思ってたんだが。」

 

 エンは ‘わずかに目を細め’、淡々と答える。

 

「いない。」

 

 アイデンは ‘一瞬だけ沈黙’ し、そして——

 ‘ニヤリ’ と笑った。

 

「……そうか。」

「なら、また ‘どこかで’ 好き勝手やってるんだろうな。」

 

 ‘軽く肩をすくめ’、アイデンは続ける。

 

「人間界の暮らしを観察してるか、」

「あるいは ‘新しい何か’ を調べて回ってるか……」

 

「——ま、いつものことだな。」

 ‘口調は呆れ気味’ だが、

 その声には ‘どこか楽しげな響き’ が混じっていた。

 

「あいつ、本当に ‘この世界を遊び場’ みたいに思ってるよな。」

 

 ——‘青みがかった符紋弾’ が、机の上に散らばっている。

 アイデンの視線は、自然とそこに吸い寄せられた。

 

 符紋弾といえば、多くのハンターが ‘緑色’ のものを選ぶのが常識だ。

 それは ‘対魔物に高い殺傷力を誇る’ だけでなく、

 ‘人間にも同等の威力を発揮する’ という特徴を持つ。

 つまり、‘いざという時に敵味方を区別せず排除できる’ ため、

 余計な手間を省けるのが利点だった。

 

 だが——

 

 ‘エンだけは違った’。

 

 彼の選択は、‘青い符紋弾’。

 この弾丸は ‘麻痺効果’ を持ち、致命傷を与えない。

 人間にはほぼ無害で、魔物に対しても動きを封じることはできるが——

 ‘殺すには決定打に欠ける’ という欠点があった。

 

 ‘威力だけを考えれば、緑色の方が圧倒的に優秀’。

 それでも、エンは青を選んだ。

 

 アイデンは ‘思わず微笑を漏らす’。

 ‘ほんの少しだけ’、敬意を滲ませながら——。

 

「……お前、本当に ‘きっちり線引き’ するんだな。」

「たいていのハンターは、そんな面倒なこと考えない。」

 

 エンは ‘肩をすくめる’。

 そして——

 

 ‘いつもの淡々とした調子’ で、答えた。

 

「……余計な手間は増やしたくない。」

「関係のない奴を ‘無駄に傷つける’ のは、もっと面倒だろ。」

 

 アイデンは ‘ふっと息を漏らし’、

 軽く頷いた。

 再び机の上の弾丸に目を落としながら、

 彼の胸の内には ‘確かな敬意’ が宿る。

 

 ——冷静さ。

 ——分別。

 ‘その二つがあるからこそ、こいつは生き残っているのかもしれない’。

 

 アイデンは ‘口元に、僅かに笑みを浮かべる’。

 そして、静かに言った。

 

「……なるほど。」

「だから ‘お前は、いつも生き延びる’ んだな。」

「……その慎重さ、他のハンターにはなかなか真似できないぜ。」

 

 そう言いながら、アイデンは ‘ちらり’ とエンを見やる。

 ——そして、不意に**‘ニヤリ’** と笑った。

 

「……だけど、さ。」

「これは ‘お前自身の考え’ なのか?」

 

 アイデンの声には、‘どこか軽い響き’ が混じる。

 だが、その目は ‘じっとエンを見据えていた’。

 

「それとも——」

 

 彼は ‘少しだけ間を置き’、

 目の端に ‘揶揄’ を滲ませながら続けた。

 

「……‘例の女神’ に、影響されてたりする?」

 エンは ‘僅かに眉を寄せる’。

 だが、すぐには答えなかった。

 

 ——‘自分でも、はっきりとは言えない’。

 

 敵と味方を明確に区別すること。

 人間を殺さず、魔物だけを討つこと。

 それは、自分自身の意志なのか——

 それとも、‘何か別の力がそうさせているのか’。

 

 ‘確かに、意識せずとも’ 彼の中には、

 ‘その選択を導く何かが存在していた’。

 それは、まるで——

 ‘自分ではない誰かの意志’ が、危機のたびに ‘背中を押しているような感覚’。

 

 エンは、短く息を吐く。

 そして ‘冷静な口調で、ぽつりと答えた’。

 

「……たぶん、どっちもだ。」

 

 アイデンは ‘僅かに眉を上げる’。

 

 ‘意外そうに見えたが、その目には納得の色も滲んでいた’。


「ふぅん? なるほどね。」

「つまり、お前の信念は——」

「俺が思ってたより ‘ずっと強い’ ってことか。」


 アイデンは ‘口元に微かな笑みを浮かべる’。

 だが、それは ‘からかうような笑い’ ではなかった。

 どこか、‘妙に腑に落ちたような’ 笑みだった——。


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