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『一日限定の恋人』(上)

皆さん、こんにちは!


今回は バレンタイン特別編 ということで、

普段とは少し違った雰囲気のお話をお届けします


普段のエンとカルマの関係とは違い、

「もし二人が一日だけ"恋人"だったら?」 というテーマで書いてみました。


冷静沈着な悪魔狩りの男 × 気まぐれな小悪魔


カルマは"遊び"のつもりで始めたけれど、

気づけば"立場逆転"……!?


「からかうつもりが、逆に揺さぶられてしまう」

そんな二人のやり取りを楽しんでいただければ嬉しいです!


それでは、本文へどうぞ!

 

 朝の柔らかな光が街の通りを照らし、ひんやりとした空気が漂う。

 街角にはピンクや赤の装飾があふれ、この都市独特のバレンタインデーの雰囲気を作り出していた。


 カルマは、ベンチにもたれながら、行き交う人々を眺める。


 恋人たちがペアで歩き、手には豪華なチョコレートや美しい花束が握られている。

 この街のバレンタインの習慣は、他の地域とは少し違っていた。


 ——男性がバレンタインデーに女性へ花や贈り物を贈り、ディナーへ誘うのが一般的。

 まさに恋人たちだけの特別な日というわけだ。


 カルマは口元をゆるめ、楽しげに笑う。

「……エンをからかったら、面白そうじゃない?」


 彼女は、ふとそう思い立つと、適当にチョコレート専門店へ入った。

 店内を見渡し、見た目が高級そうなチョコレートを適当に選び取ると、

 エンとの待ち合わせ場所へと向かった。


 エンは、街角の影に佇んでいた。

 片手をポケットに突っ込み、冷めた目で周囲を見渡す。


 黒いコートに身を包んだ彼の姿は、この華やかなバレンタインの雰囲気とはまるで異質な存在だった。

 まるで、この祝祭のムードなど、自分には何の関係もないかのように——。


 そんな彼の前に、軽やかな足取りでカルマが跳び出してきた。

「ヘイ、エン!」


 彼女はにっこり笑いながら、手に持ったチョコレートの箱を掲げる。

「これ、あんたにあげるわ。」


 エンは、ちらりと彼女を一瞥し、何も聞かずにすっと手を伸ばす。

「……受け取った。」


「……え?」


 カルマは思わずまばたきをする。

 まさか、何の疑問もなく素直に受け取るとは思っていなかった。


「ちょ、ちょっと待ってよ! あんた、なんで何も聞かないの?」


 エンは、チョコレートを持ったまま淡々と答える。

「お前が『やる』と言ったんだろう?」


 カルマ:「…………。」


 ……いやいや、そういうことじゃないでしょ!?


 彼女は、思わず頭を抱えたくなる。

 本当は、エンが困惑したり、怪訝な顔をしたり、せめて「なんで?」と聞いてくるのを期待していたのに……!

 まさか何のリアクションもなく、当然のように受け取られるとは思わなかった。


「……もういい!」


 カルマは悔しそうに唸ると、バッとエンの手からチョコを奪い返す。

「やっぱなし! あんたに渡す資格なんてないわ!」


 エンは、特に抵抗することもなく視線を逸らし、まるで興味がないかのように軽く肩をすくめるだけだった——。


 ◆ ◆ ◆  


 今日は、二人に簡単な調査任務が入っていた。

 市内に現れたという魔物の痕跡を探す——それだけの、いつも通りの仕事。


 しかし、時間が経つにつれ、カルマはある面白いことに気づき始めた。

  ——どういうわけか、周囲の人間に「カップル」と勘違いされているのだ。


 二人がカフェで一息つこうとした時だった。

 店員は、どこか意味ありげな笑顔を浮かべながら、こう言った。

「ハッピーバレンタイン! カップル限定の特別セットがございますが、ご利用になりますか?」


 カルマはわざとエンの肩に手を回し、満面の笑みで答えた。


「もちろん——」


「いらない。」


 ——ぴしゃりと、エンが即答する。


 店員の笑顔が、一瞬で残念そうなものに変わった。

 一方のカルマは、肩をすくめながらクスクスと笑い、エンの冷淡な横顔をじっと見つめる。


「ねえ、こういうのって面白くない?」


 エンは、わずかに眉をひそめただけで、何も言わない。


「せっかくだし、この雰囲気を楽しんでみたら?」


 カルマが軽い調子で言うと、エンは一瞬彼女を見つめ、それから淡々と言い放った。

「そんなに欲しいなら、一人で食べれば?」


「……冷たいなぁ。」


 カルマは、ほんの冗談のつもりだったのに——

 まさかここまで容赦なく返されるとは思っていなかった。


 ……なのに。


 いつもなら、ただからかうだけのつもりなのに。

 いつもなら、エンの反応を見て楽しむだけなのに。


 今日は、なぜか彼の冷たい態度が少しだけ気になった。


 これは、一体……?


 ◆ ◆ ◆  


 調査任務を終えた午後——

 カルマは、街の様子を眺めながら、未だに続くバレンタインムードを感じ取っていた。


 街を行き交うカップルたちは、手を繋ぎ、笑い合い、贈り物を交わす。

 温かく、甘やかな雰囲気が、街全体を包み込んでいる。


 カルマは、花束を抱えたどこか緊張した顔の男性たちを見つけ、興味深そうに目を細める。

 彼らは、勇気を出して想い人に花を渡し、その返事を待っているのだ。


 ——エンがこんなことをするわけがない。

 カルマは、そう確信していた。


 だが——

 二人が華やかに装飾された花屋の前を通りかかったその瞬間——

 明るい声が二人を呼び止めた。


「まぁまぁ! そこのお二人さん!」


 陽気な店員が、すぐに駆け寄ってくる。

 彼女は二人を見つめると、ぱっと目を輝かせた。


「いやぁ、なんて素敵なカップルでしょう!」


 店員は、感嘆したように手を合わせ、

 まるで運命の出会いを目の当たりにしたかのように微笑んだ。


「イケメンと美女の組み合わせ……まさにパーフェクト!」

「でも……何かが足りませんね?」


 カルマが興味津々で見ていると、店員はスムーズに美しくラッピングされた花束を取り出し、エンへと差し出した。


「そう! これです!」

「この花を贈れば、あなたのバレンタインはさらに完璧になりますよ!」


 カルマは、腕を組み、面白そうにエンの反応を待つ。

 どうせ彼のことだ、冷たく断るか、無言でこの場を去るに決まっている。

 彼女の脳裏には、そんな光景がはっきりと浮かんでいた。


 ——しかし。


 彼女の予想は、見事に裏切られることになる。

 エンは、ちらりと店員の手元にある花束を見下ろした。

 そして、何の迷いもなくポケットから金を取り出し、無言で支払いを済ませる。


 そのまま、彼は淡々と花束を受け取り、カルマの方へと差し出した。


「……え?」


 カルマは、一瞬目を見開く。

 ——エンが、普通に花を渡してきた?


「ここの習慣だ。」

 エンは、それだけを言う。


 彼の目はいつも通り冷静で、特に感情の揺らぎも見られない。

 まるで、本当にただの形式的な行動にすぎないかのように。


「それに、お前、欲しそうだった。」


 カルマは、その言葉に一瞬詰まる。

 視線が花束とエンの顔の間を行ったり来たりした後——


「……フン。」

 小さく鼻を鳴らしながら、花束を受け取る。


 ふわり、と。

 鼻先をかすめる、ほのかに甘い花の香り。


 それだけのことなのに。

 カルマは、なぜか無意識に口元が緩むのを止められなかった。


「……ふーん?」


 彼女は、指先で花びらを軽く弄びながら、

 わざとエンをからかうような口調で呟いた。

「なんだか……らしくないね、エン?」


 けれど、その言葉とは裏腹に。

 心のどこかで、説明のつかない奇妙な感情が広がっていた。


 ——私は、エンをからかうつもりだったのに。

 ——なのに、なぜか今、動揺しているのは私の方じゃない?


 ……どうも、悪ふざけの方向がズレてきた気がする。


 これは、私の仕掛けた"遊び"のはずだったのに——。


 カルマは、手にした花束をじっと見つめた。

 指先でそっと花びらをなぞりながら、ぼんやりと考える。

 ——まさか、本当に花を渡されるとは。


 からかうつもりが、逆に返り討ちにあったような気分だ。

 予想外の展開に、どう切り返すべきか……。


 彼女はふっと笑い、考えを切り替えると、ポケットからきっちり折りたたまれた紙を取り出し、エンの目の前に差し出した。


「……まぁ、せっかくの習慣なら、私もちゃんと返さないとね?」


 意味深な笑みを浮かべながら言う。


 エンは、軽く眉をひそめ、無言で紙を受け取る。

 開いてみると、それは——


「バレンタイン特別ディナー」


 豪華な装飾が施された、高級レストランのバレンタイン限定ディナーのチラシ。

 しかも、予約済みの席までしっかりと記載されている。


「……これは?」


 エンが、わずかに疑問を含んだ声で尋ねる。


 カルマは片手を腰に当て、軽快な口調で答えた。


「さっき街で配ってたから、なんとなく貰ったのよ。ほら、こういうのって意外と使えるでしょ?」


 彼女は、悪戯っぽくウインクしてみせる。


「せっかく花まで贈ったのに、このままじゃ中途半端じゃない?」

「この街のバレンタインの習慣じゃ、まだまだ終わりじゃないわよ?」


 エンは、チラシに視線を落とし、次にカルマを一瞥する。

 その目には、何とも言えない無言の諦念が滲んでいた。


「……バレンタインディナー?」


「そうそう。」


 カルマは、手元の花束をくるくると回しながら、ますます楽しげに笑う。

「でも安心して。私、簡単な女じゃないから。」

「——だから、ちゃんと奢ってね?」


 エンは、一瞬考え込むように沈黙する。

 しばしの静寂の後、深く息を吐き、やれやれといった様子で答えた。


「……分かった。」


 カルマは、その背中を眺めながら、ふと口元をほころばせる。

 なぜか、いつも以上に気分が良かった。


 ——この"悪ふざけ"、だんだん面白くなってきたじゃない?

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