共に戦い、共に生きる (4)
炎は銃を構え、紅蓮の翼が宙を裂く。
その身は風を斬り、アルと共に一気に夜行者へと突撃する。
――決戦の幕が、いま開かれる。
炎の光翼は空に赤い軌跡を描き、まっすぐに夜行者を狙う。
迷いはない。彼は即座に引き金を引いた。
強化された弾丸は赤い閃光を纏い、夜行者の胸元へと疾走する。
だが――。
「甘い!」
夜行者が叫ぶと同時に、黒い霧が彼の周囲に凝縮し、弾丸を呑み込んだ。
霧が散ると、夜行者が再び狂気の笑みを浮かべて立っていた。
「お返しだ!」
夜行者が手を振りかざすと、漆黒の風刃が幾重にも生成され、炎へと襲いかかる。
炎は瞬時に翼を振るい、空中で身を翻してかわすが、僅かに息を詰める。
だが、その直後――背後から、圧倒的な重圧が押し寄せてきた。
(……来る!)
夜行者のもう片方の手が漩渦のエネルギーを操り、巨大な光柱となって炎を押し潰そうとしていた。
炎はぎりぎりで側方に回避するが、気流の衝撃で体勢を崩しかける。
「アル、今だ!」
炎が叫ぶと、アルは龍にも匹敵する巨体を輝かせ、夜行者へと一気に突撃。
金色の光を纏った口からは、まるで龍の吐息のような光線が放たれた。
光と闇の衝突。
空が震え、轟音と共に爆風が夜空を切り裂く。
「ほう……さすがは霊獣様、少しは昔の力を取り戻してきたか!」
夜行者の声には興奮が混じっていた。
霧を纏ったその体は素早く飛び退き、再び空中を漂う。
そして――
彼が両手を掲げた瞬間、空の漩渦が唸りを上げて激しく回転し始めた。
「吸い込まれるぞ……!」
空間そのものが歪み、周囲のすべてを中心へと引き寄せる強烈な吸引が発生する。
「完成させやがるな!」
炎が怒鳴ると、翼を広げて夜行者へ突進。
彼の銃は血の符紋によって紅く輝き、引き金を引くと三連発の強化弾が疾風のごとく放たれた。
「ちっ……!」
夜行者は即座に霧を盾にして受け止めるが、弾に込められた紋章の力が逆流を起こし、黒霧の防壁が亀裂を生じる。
そして――。
「今だっ!」
炎の叫びと共に、アルが側面から急襲。
金色に輝く巨大な爪が夜行者に直撃し、その体を叩きつけた。
夜行者の姿は宙を舞い、爆散――
かと思われたその刹那、霧の中で再構築された彼の身体が再び現れる。
彼の目は血走り、狂気と歓喜に満ちていた。
「ハハ……ハハハ!
いいぞ……いいぞエン。
貴様こそ――俺と戦うに値する奴だ!!」
天空に渦巻く漩渦はさらに勢いを増し、ついにはいくつもの裂け目を生み出した。
裂け目からは闇が溢れ出し、その中から、異形の魔獣たちが姿を現す。
「ギャアアアアアアア!!」
断末魔のような咆哮を上げながら魔獣たちは地上へと降下し、轟音とともに地面へ叩きつけられる。
そして――瞬時に動き出した。獰猛な牙と爪で、炎の仲間たちへと襲い掛かる!
「クソッ、あの野郎、こんなに連れてきやがったか!」
コールが怒鳴り、戦斧を振り抜いて襲い来る魔獣を叩き斬る。黒き血が飛び散るも、彼の表情には一切の油断がなかった。
「クレイド、援護しろ!」
「了解!」
クレイドは即座に爆裂矢を装填し、狙いすました一撃で別の魔獣を吹き飛ばす。爆炎が空気を裂き、周囲に火花を散らす。
彼は横目でセナに視線を送った。
「そっちもそろそろ本気出してくれよな!」
「言われなくても。」
セナは冷たく返し、短弓を引くと二頭の魔獣の頭部を一瞬で貫いた。すぐさま後退し、安全な位置へ移動。
「数が多すぎる……!増援が止まらないわ、各自集中して。囲まれるな!」
混戦の中、カルマは冷静に周囲を見渡す。手にした魔刃が閃き、接近してくる魔獣たちを一体ずつ切り捨てていく。
だが、その視線の先――
無防備に立ち尽くすリアの背後に、魔獣が一体、迫っていた。
「後ろだッ!!」
カルマが叫び、駆け出す。
魔刃が唸りを上げ、魔獣の胴体を一閃に斬り裂く。斬られた魔獣は断末魔をあげて倒れ込んだ。
「……何をボーッとしてるのよ!」
カルマはリアの腕を乱暴に掴み、ぐいと引き寄せて叱りつける。
「死にたいの!?」
リアはその力に押され一歩下がったが、まるで気にする様子もなく、腕を軽く払って整えただけだった。
視線はなおも、空に浮かぶ漩渦を見据えたまま。唇に笑みを浮かべ、その目は異様な光を宿していた。
「死?ふふ……死ぬことに意味なんてあるの? ねぇ、カルマ……私はこの瞬間を、どれだけ待ち望んだと思う?」
リアの声音には、興奮と狂気がないまぜになっていた。
空を見上げるその姿は、周囲の混乱すらも無視していた。
カルマの怒気が頂点に達する。
彼女はリアの胸倉を掴み、顔を近づけて怒鳴る。
「一体どういうつもり!?夜行者と何を企んでるのよ!」
リアの笑みが消えた。
彼女はゆっくりとカルマに視線を向け、そして、静かに、異様なほど冷たい口調で答えた。
「企み?違うわよ、カルマ。私は……ただ、真実を見ただけ。」
その声には、どこか壊れた響きがあった。
「神も、霊獣も、全部偽りだった……エリヴィア姉さまは、私たちを捨てたのよ。なのに、あなたもまた――同じ道を辿る。」
カルマの手が震える。
魔刃がわずかにきしむ音を立てた。
だが、彼女は振り下ろさなかった。
代わりに、鋭く吐き捨てる。
「死にたいなら、勝手に死ね。こっちは巻き込まないで。」
リアは何も返さなかった。
ただただ、狂信者のように漩渦を見つめるその目は、まるでこの世界の何もかもを否定するかのように冷たく、そして熱かった。