表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/166

水上の黄金帯(6)

「――エン、で、今回の目的地はどこなんだ?何も知らされずについていくだけってのは、さすがに嫌だなぁ。」


 通信機越しに響くクレイドの声には、いつものように軽い調子が混じっていた。


 エンはルームミラー越しに後方を確認する。

  ギルドの四駆はぴったりと後ろについていた。


「漁村港。」

 簡潔に、冷静な口調でそう答える。


 数秒の沈黙後、セナの冷たい声が続く。

「今になって目的地?あそこは車両の進入が制限されてる区域。どうやって入るつもり?」


 エンは視線を前に戻し、ハンドルを握る手に力を込めて黙る。

「臨時通行許可を申請しろ。お前たちでな。」


 セナが鼻を鳴らし、不満を隠さずに返す。

「今さら申請?……まさか、あの場所に何があるか、まったく知らないんじゃないの?」


 エンは答えず、沈黙が彼の迷いを物語る。

  マップ上では“高リスク区域”とマークされているが、実際のところは彼にも分からない。


 その緊張感を断ち切るように、コールが口を挟んだ。

「セナ、黙れ。今すぐアイデンに申請を飛ばせ。文句は後だ。」

 コールがごつい手でハンドルを軽く叩く音が通信機越しに響く。


 セナが小さく舌打ちしつつ、端末を操作する。

  通信機からタップ音や画面操作のかすかな音が漏れる。


 一方、エンは目の前の道路に意識を集中させる。

  まっすぐ伸びる高速道路の先、視界が開け、巨大な橋が姿を現す。


 それは海峡をまたぐ巨大な吊り橋で、

  銀色の鋼索が織り成す橋梁は、まるで空へ向かって伸びる龍のように見える。


 両側には斜張式のタワーがそびえ、この空間を支える巨人のように見える。

  海風が窓を叩き、潮の香りに微かな鉄の匂い――どこか懐かしい気配が混じる。


 橋の下には波がキラキラと光を反射し、穏やかに揺れている。

  遠くに漁船の灯りがちらほらと見え、静寂の中にも人の営みを感じさせた。


「漁村港なんて場所、危険区域には見えないけどなぁ。」

 クレイドの声が再び通信機から聞こえる。

  その声には皮肉まじりの軽さと、わずかな探るような調子が混ざっていた。


「なあエン、今回の目的って、結局なんなんだよ?」


 エンの目が車窓の外を滑り、広がる海景を捉えた。

「――分からない。分からないから、行く価値がある。」

 冷たく、それでいて確信に満ちた答えだった。


「……安心できる答えだこと。」

 クレイドがぼそりと呟き、鼻で笑ったような音が小さく混じる。


 陽光が橋を照らし、鋼の路面が白く輝く。

  車列は橋を抜け、左右の景色が海湾からゆるやかな海岸線へと変わっていく。


 水面には陽の光が跳ね、金の粉をまいたように輝いていた。

  まるで海そのものが、光の鎧を纏っているかのように。


 橋の背後には連なる山々、頭上には流れる雲。

  静かで、それでいて何かを待っているかのような、張り詰めた風景がそこにあった。


「なぁ、本当に漁村港なんて行くのか?あんな小さな漁村に、何かあるようには思えねぇけど。」

 クレイドが少し真面目な声で問いかける。


 セナも資料をめくりながら、冷ややかに口を開いた。

「……あそこに何があるというの?」


 エンは答えず、黙ってアクセルを踏み込む。

  車体が速度を上げ、風がフロントガラスを鳴らす。


 後方の車内、コールが前を見ながら不満げに呟く。

「口が重てぇ奴だな……何も話さねぇ。セナ、申請はどうだ?」


 セナは端末を睨みながら、冷静に返した。

「送信済み。だが、許可が下りるまでにはまだ時間がかかる。現地に着いたとき、間に合えばいいけど。」


 静かなエンジン音と、通信機から漏れる微かな機械音――

  その中に混じる一抹の緊張と、誰にも見えない不確かな影。


 車列は、やがて港町の気配を感じさせる道路へと入っていく。

  だが、その先に待つのがただの“漁村”かどうかは、まだ誰にも分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ