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デビルハンター 〜最強悪魔(ヒロイン)と契約して、運命と戦うことになった件〜  作者: 雪沢 凛
第十二章:不安の火種

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不安の火種 (5)

 部屋の緊張感は限界に近づいていた。

  息を潜めるような空気の中、誰もが次の一手を見逃すまいと身構えている。


 傷跡のあるハンターが拳を握りしめ、(エン)を睨みつけながら怒りと嘲りを込めて叫んだ。

  「お前、そこに突っ立ってるだけか?何も言い返せないってことは、やっぱり図星なんだろう!」


 (エン)は部屋の中央に立ち、体を傾けて冷たい視線で見渡す。その眼差しは氷の刃のように鋭く、言葉なくとも威圧を放つ。


「俺が話すかどうかを決めるのは……お前じゃない。」

 低い声に冷たさが宿る。


 その一言で傷跡のハンターの怒りが燃え上がる。彼は一歩踏み出し、腰の武器に手をかけ。

  「そうやって口だけで逃げ回るのは終わりだ。お前を動けなくすれば、隠してるものも全部暴けるんじゃないか?」

 他のハンターの目にもためらいと殺気が宿る。


 火薬庫のような空気の中、(エン)は視線を動かさず、静かに言い放つ。

「……脳味噌ってもんがあるなら、使ってから動けよ。」


 傷跡のハンターが武器を抜く。

 鋭い殺意を帯びた刃が、(エン)の胸元へ振り下ろされる——

 その瞬間。


「キィンッ!」


 乾いた金属音と共に、別の刃が飛び込んできた。

  (エン)の前に現れたのは、小さく鋭い短剣。

  振り下ろされた武器を真横から弾き飛ばし、空気に火花が散る。


 赤い影が通気口から舞い降りる。動作は優雅で余裕がある。


「へぇ……作戦室って、今じゃ立ち合いの場にもなるんだ?」


 カルマがくすっと笑い、短剣を指先で回す。

 刃先に冷たい光が宿る。赤い長髪が揺れ、燃える炎のような存在感を放つ。


 傷跡のハンターは一歩下がり、警戒を隠さず問う。

  「お前……どうやってここに入った?」


 カルマは気だるげに机にもたれ、気軽に答える。

  「通気ダクトよ。こんなに盛り上がってるなら、一言誘ってくれても良かったのに。」


 視線が(エン)へ向けられる。

  「まさかとは思うけど、私がいるって知ってて、わざと煽ったんじゃないの?ヒーローの登場って感じでさ。」


 (エン)は視線を向け、すぐ目をそらす。

 その無言がカルマの興味を引きつける。


「……相変わらず無愛想ね。」


 カルマは笑い、傷跡のハンターへ向き直る。短剣の柄を撫で、挑発的に言う。

  「どうする?まだやる気?その前に確認しときなさいよ……ここで一番強いのは誰かって。」


 その一言にハンターたちは動揺する。カルマはただの存在ではない。

 その気配が空気を一変させる。


 アイデンが席を立ち、手を叩く。声に不快感がこもる。

  「……もういい。ここはギルド本部だ。お前たちの私闘の場所じゃない。」


 冷静な言葉に決意と命令が宿る。

「命令に従えない者は、ただちに行動資格を剥奪する。」


 空気がピタリと止まる。傷跡のハンターは舌打ちし、武器を戻す。


  「……いずれ分かるさ。誰が本当の裏切り者か。」

 そう言い捨てて出て行く。他の数名も無言で後を追う。だが敵意は残る。


 ◆


 部屋には、アイデン、(エン)、そしてカルマだけが残っていた。

  アイデンは眉間を揉みながら、低い声で呟いた。


  「君たち二人……もうこれ以上、面倒を増やさないでくれ。」


 カルマは鼻で笑い、机に寄りかかって軽い調子で言い返す。

  「面倒を起こしてるのは私たちじゃないでしょ。私が来なかったら、誰か一人、床に転がってたかもよ?」


 そう言いながら、カルマはコートから(エン)のホルスターと短剣を取り出し、彼に手渡した。


  「はい、返すわよ。」

 口調にからかいが混じる。


 (エン)は無言で受け取り、短剣を腰に差し、ホルスターを整える。

「ありがとう」と呟く。


「当然でしょ。」

 カルマは得意気に鼻を鳴らし、眉を上げる。その時、コートの襟元が動き、黒い小さな頭が顔を出す。

 アルだ。眠たげな目を細め、重苦しい空気に不満げな顔で、前足でコートの端を押しのけ、あくびをする。


「こいつ、いつの間に入ってたんだ?」

 アイデンが目を細め、驚きと戸惑いを滲ませて言う。アルの体が一回り大きくなり、筋肉と鋭い目つきが普通の魔獣と違う成長を物語る。


「なんだこいつ……成長、早すぎじゃないか?」

 アイデンは呟き、興味深く手を伸ばす。

 だがアルの耳が立ち、牙を覗かせ、低く唸る。素早く身をすくめ、飛びかかりそうな構えを見せる。

 アイデンは手を中空で止め、少しばかり気まずそうに苦笑した。

  「……相変わらず、気難しいな。」


 カルマはアルの頭を軽く撫でながら、どこか楽しげな口調で返す。

  「そりゃ、知らない人に触られるのは好きじゃないのよ。特に、あんたみたいに怪しい奴はね。」


 アイデンは肩をすくめ、ぼそっと呟いた。

  「……礼儀知らずな奴め。」


 (エン)はその様子を見て、口元に笑みを浮かべる。アイデンの困惑が面白く見えたらしい。

  「触らない方がいい。アルは知ってる相手にも友好的とは限らない。ましてやお前には。」


「知ってる相手にも、って……じゃあ、なぜ君たちに懐いてる?」

  アイデンは首を傾げながら、興味深げに尋ねる。

  「まさか……選択肢がなかったわけでもないだろう?」


 カルマはアルを抱き上げ、肩をすくめるようにして言う。

  「アルが誰についてくかは、アルの自由。私たちに命令はできないし、たまたま気に入られただけよ。たぶん……退屈しないって思ったんじゃない?」


 アルは満足げに尾を振り、コートに潜る。

 耳だけ覗かせ、「邪魔するな」と言いたげにじっとする。


 アイデンはその仕草を見つめ、考え込むように呟く。

  「妙な奴だな……でも、成長が速すぎる。普通の魔獣とは思えない。」


 (エン)は何も答えず、装備の確認を続ける。

 カルマはアルを抱えたまま、机に寄りかかり、ニヤリとアイデンを見つめる。アイデンは目元を押さえ、ため息をつく。視線が(エン)へ向けられ、穏やかな声音で尋ねる。


  「今は俺たちしかいない。だからはっきり聞きたい。マイルズがお前に連絡した理由……もしかして、内部の裏切り者が誰か、もう見当がついていたんじゃないのか?」


 その問いに、(エン)の手が一瞬止まる。

  袖口を無意識に撫でながらも、すぐに平静を取り戻すと、顔を上げて冷静な声で答えた。

  「ただ、考えを共有しただけだ。結論には至ってない。」


 アイデンは眉をひそめ、不満そうに唇を噛んだ。

  彼は机に両手をつき、前のめりに(エン)へとにじり寄る。

  「君の慎重さは理解しているつもりだが、今の状況を見ればわかるはずだ。

 このままじゃ分裂は悪化する。時間は残されてない。」


 (エン)は壁にもたれ、腕を組んで静かに返す。


  「だからこそ、焦った一手は命取りになる。

  ……今はまだ、話す時じゃない。」

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