表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/166

不安の火種 (2)

 (エン)は数人のハンターに導かれ、ギルド本部の廊下を歩く。


 薄暗い照明に照らされ、鋼とガラスの壁に囲まれた空間は、空気が冷たく重い。

 前を行く警備員の足取りは速く、乱れはない。

 誰も言葉を発さず、沈黙が緊張を際立たせる。


 重い金属製の扉が開くと、眩しい光が(エン)の視界に飛び込む。そこは簡素な作戦室。

 中央にアイデンが立ち、いつもの落ち着きのない険しい表情だ。

 手にはスマホを握り、ハンターたちは室内に散らばり、警戒と疑念の目を向ける。


 アイデンは(エン)を確認し、複雑な感情を宿した目で低く言う。

「来てくれてありがとう、エン。」


 (エン)は一歩足を止め、部屋を見渡し、無言で頷く。大多数が警戒心を抱く中、アイデンだけがかろうじて平静だ。


 アイデンは息を吐き、続ける。

「マイルズはまだ意識が戻らない。リアが治療してるが、全身に重度の火傷で、予断を許さない。」


 言葉は静かだが、刃のように心に突き刺さる。(エン)の瞳孔が縮まり、マイルズが炎に包まれた光景が蘇る。まぶたを伏せ、感情を隠しつつ口を開く。


「彼に会わせてほしい。」


「待て。」


 冷たい声が室内を切り裂く。ハンターが前に出て、敵意と疑念を込めて睨む。

「今さら会いたい? 都合が良すぎるだろ。」


 (エン)は中央に立ち、冷ややかな視線を集める。何もせずとも、威圧感が空気を張りつめる。


 アイデンは手を上げて制し、威厳を込める。

「落ち着け。まずは、彼の話を聞け。」


 スマホを取り出し、(エン)に画面を向ける。

 マイルズから(エン)へのメッセージ――カフェでの待ち合わせだ。


「マイルズと会ったんだろ?」アイデンが探る目を向ける。


 (エン)は画面を一瞥し、再びアイデンを見て頷いた。

「会った。洩れた情報について話していた。」


 アイデンはうなずくが、場の疑念は消えない。


「情報漏洩? はっ、何だよそれ?」別のハンターが嘲る。


「漏れたって話してた? ならお前が犯人だろ!」

 疑いの言葉が飛び交い、空気が緊迫する。


 (エン)は沈黙を保ち、冷静に対峙する。やがて低く応える。

「俺が情報を漏らしてたら、今ここに立ってない。」


「そんな言い訳が通じるか!」もう一人が声を上げる。

「マイルズの事故現場近くで、あんたを見たって証言がある。襲撃の時間と一致してる。偶然を誰が信じる?」

 言葉が投下され、皆の目が(エン)へ向けられる。


 (エン)は表情を変えず、低く呟く。

「確かに、あの場にいた。」


 静寂が一瞬支配する。


「……認めたか。」

「じゃあ、まさか『たまたま』通りかかったなんて言うつもりか?」


 次々と浴びせられる言葉に、(エン)は冷静に応える。


「彼が一人で動くかと思った。心配で向かった。遺跡へ行く可能性を見て、先回りした。」

 一部は眉をひそめるが、疑念は捨てきれない

「じゃあ、なぜ報告しなかった?」

「なぜ公的に伝えなかったんだ?」


 (エン)は答えず、見返す。その静けさが怒りと苦しみを語る。


 アイデンが前に出て、場を収める。

「やめろ。これ以上の詮索は今は無意味だ。今は内輪揉めをしている場合ではない。」


 空気は和らぐが、解けない。

「真実が知りたいなら、調査しろ。ここで責任を押しつけても、何も解決しない。」


 沈黙が続き、(エン)が低く問う。

「……マイルズは、どこにいる?」


 アイデンは少しの沈黙の後、頷いた。

「会わせる。ただし、一人では行かせられない。」


 (エン)は眉をひそめるが、反論しない。


「二人同行させる。治療室では常に監視。何かあれば即報告。」

 二人のハンターが前に出る。一人は筋骨隆々の大男、顔に傷跡。もう一人は細身で鋭い目。

「問題を起こせば、すぐに対応する。」傷のある男が冷たく告げた。


 アイデンは頷き、(エン)に視線を向ける。

「異論がなければ、案内させる。」


 (エン)は二人を一瞬見て、口角を上げる。だがその笑みは皮肉げだ。無言で歩き出す。


 治療室へ続く廊下――その先に、真実が待ってるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ