不安の火種 (2)
炎は数人のハンターに導かれ、ギルド本部の廊下を歩く。
薄暗い照明に照らされ、鋼とガラスの壁に囲まれた空間は、空気が冷たく重い。
前を行く警備員の足取りは速く、乱れはない。
誰も言葉を発さず、沈黙が緊張を際立たせる。
重い金属製の扉が開くと、眩しい光が炎の視界に飛び込む。そこは簡素な作戦室。
中央にアイデンが立ち、いつもの落ち着きのない険しい表情だ。
手にはスマホを握り、ハンターたちは室内に散らばり、警戒と疑念の目を向ける。
アイデンは炎を確認し、複雑な感情を宿した目で低く言う。
「来てくれてありがとう、エン。」
炎は一歩足を止め、部屋を見渡し、無言で頷く。大多数が警戒心を抱く中、アイデンだけがかろうじて平静だ。
アイデンは息を吐き、続ける。
「マイルズはまだ意識が戻らない。リアが治療してるが、全身に重度の火傷で、予断を許さない。」
言葉は静かだが、刃のように心に突き刺さる。炎の瞳孔が縮まり、マイルズが炎に包まれた光景が蘇る。まぶたを伏せ、感情を隠しつつ口を開く。
「彼に会わせてほしい。」
「待て。」
冷たい声が室内を切り裂く。ハンターが前に出て、敵意と疑念を込めて睨む。
「今さら会いたい? 都合が良すぎるだろ。」
炎は中央に立ち、冷ややかな視線を集める。何もせずとも、威圧感が空気を張りつめる。
アイデンは手を上げて制し、威厳を込める。
「落ち着け。まずは、彼の話を聞け。」
スマホを取り出し、炎に画面を向ける。
マイルズから炎へのメッセージ――カフェでの待ち合わせだ。
「マイルズと会ったんだろ?」アイデンが探る目を向ける。
炎は画面を一瞥し、再びアイデンを見て頷いた。
「会った。洩れた情報について話していた。」
アイデンはうなずくが、場の疑念は消えない。
「情報漏洩? はっ、何だよそれ?」別のハンターが嘲る。
「漏れたって話してた? ならお前が犯人だろ!」
疑いの言葉が飛び交い、空気が緊迫する。
炎は沈黙を保ち、冷静に対峙する。やがて低く応える。
「俺が情報を漏らしてたら、今ここに立ってない。」
「そんな言い訳が通じるか!」もう一人が声を上げる。
「マイルズの事故現場近くで、あんたを見たって証言がある。襲撃の時間と一致してる。偶然を誰が信じる?」
言葉が投下され、皆の目が炎へ向けられる。
炎は表情を変えず、低く呟く。
「確かに、あの場にいた。」
静寂が一瞬支配する。
「……認めたか。」
「じゃあ、まさか『たまたま』通りかかったなんて言うつもりか?」
次々と浴びせられる言葉に、炎は冷静に応える。
「彼が一人で動くかと思った。心配で向かった。遺跡へ行く可能性を見て、先回りした。」
一部は眉をひそめるが、疑念は捨てきれない
「じゃあ、なぜ報告しなかった?」
「なぜ公的に伝えなかったんだ?」
炎は答えず、見返す。その静けさが怒りと苦しみを語る。
アイデンが前に出て、場を収める。
「やめろ。これ以上の詮索は今は無意味だ。今は内輪揉めをしている場合ではない。」
空気は和らぐが、解けない。
「真実が知りたいなら、調査しろ。ここで責任を押しつけても、何も解決しない。」
沈黙が続き、炎が低く問う。
「……マイルズは、どこにいる?」
アイデンは少しの沈黙の後、頷いた。
「会わせる。ただし、一人では行かせられない。」
炎は眉をひそめるが、反論しない。
「二人同行させる。治療室では常に監視。何かあれば即報告。」
二人のハンターが前に出る。一人は筋骨隆々の大男、顔に傷跡。もう一人は細身で鋭い目。
「問題を起こせば、すぐに対応する。」傷のある男が冷たく告げた。
アイデンは頷き、炎に視線を向ける。
「異論がなければ、案内させる。」
炎は二人を一瞬見て、口角を上げる。だがその笑みは皮肉げだ。無言で歩き出す。
治療室へ続く廊下――その先に、真実が待ってるかもしれない。