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埋められない隙間 (6)

 摩天楼の中は明るいが、冷たく無機質な光だ。鋼鉄とガラスの空間は洗練さと圧迫感を漂わせる。


 カルマは軽やかに廊下を歩く。ブーツのヒールが床を叩き、カツンという音が空気を切り裂く。


 すれ違うハンターたちは装備の点検に追われ、カルマを見ると一瞬警戒した視線を向け、すぐ作業に戻る。

 彼らは彼女が‘(エン)’のパートナーだと知ってるが、近寄りがたい雰囲気に誰も話しかけない。


 彼女の腰に帯びた魔刃――微光の中で赤い輝きを放ち、まるで今にも何かが明らかになることを予告するかのように脈動していた。


 重い木の扉を押し開け、カルマは会議室に入った。 

 そこにはアイデンが座っていた。最近は研究室よりここで書類を読む姿ばかりだ。

 乱れた金髪は無造作に束ねられ、眼鏡の奥の視線はノートに集中してる。


 カルマを認め、アイデンは驚いたように目を上げ、眼鏡を押し上げる。

  「カルマ?……てっきり、しばらく顔を見ないと思ってたよ。」


 カルマは扉を閉め、背中をもたせかけ、両腕を組んで不満げに唇を尖らせる。

「エンはそう言ってたよ。“本部はもう安全じゃない”って。

  けど、あんな退屈なところでじっとなんてしてられるわけないでしょ?」


 アイデンの手が止まり、“本部は安全じゃない”という言葉に敏感に反応した。

 わずかに視線が揺れたが、すぐにそれを表情の裏に隠す。

 ノートを閉じ、カルマに向き直る。

  「エンがそう言ってたのか……他に何か聞いてる?」


「特に詳しいことはなかったよ。」カルマは肩をすくめ、軽い調子で答える。

 視線を流しながら、アイデンの手元のノートや机の上に積まれた書類にちらりと目をやった。


「それより――」

  そう言いながら、彼女は腰の魔刃を抜いた。

  刃は震えて熱を帯び、会議室の薄暗さで異様な存在感を放つ。


「昨日初めてこの魔刃を使ったんだけど、意外としっくり来たわ。」

  彼女は軽く眉を上げ、刃をくるりと回してから、アイデンの目の前の机にズンと突き立てた。

  「でもさ、やっぱりバランスが悪い。符紋の力の放出が不安定なの。」


 アイデンは眼鏡を押し上げ、刀身に刻まれた符紋をじっと見つめた。眉間に皺が寄る。

  「力の放出が不均一? それは確かに調整が必要かもしれないな。この刀の符紋は何度も強化してあるはずだけど、もう問題が出てくるとは……」


  一度言葉を切り、さらに観察を深める。

「覚えてるかい? 最初にこの刀を調整した時、言ったこと。」


  アイデンの声には、警告めいた響きが含まれていた。

  「火炎は制御の難しい力なんだ。特にお前のように……無謀なタイプにはね。」


 カルマは不機嫌そうに口を尖らせた。

  「はいはい、説教はいいっての。私はあんたよりこの刀を使いこなしてるわ。

 で? 調整できるの? それともできない?」


 アイデンはノートを机に置き、書類の山を一瞥してため息をついた。


  「すまない、今すぐには手が離せない。どうしても報告書を仕上げないといけなくてね。……でも、研究室に行けば、リアが見てくれるはずだよ。」


「リア?」カルマはわずかに眉をひそめ、不思議そうに聞き返す。

  「彼女って、文書整理とか治療専門でしょ? 符紋武器まで扱えるの?」


 アイデンの表情は変わらず穏やかで、平然と答える。

  「リアはそれだけじゃないよ。実はこの魔刃の改造案、最初に提案したのは彼女だったんだ。闇紋会からこれを回収した時、彼女が設計図を見て、“カルマ用に調整できる”って。」


 カルマは魔刃を一瞥し、驚いたように眉を上げた。

  「つまり……この刀を私に合わせて改造しろって言い出したのが、リア?」


 アイデンはうなずき、静かに続けた。

  「その通り。元の設計は不安定すぎて、魔力を抑えきれなかった。彼女は、君の火炎制御なら扱えると判断したんだ。それで時間をかけて調整した。」


 カルマは少し黙った後、肩をすくめて表情を戻した。

  「オーケー、それじゃ研究室に行って待ってる。早く呼んでよ、待たされるのは嫌いなの。」


 魔刃を鞘に収め、ドアに向かって歩き出した。扉の向こうに姿を消す直前、振り返り、そっけなく言った。

  「さっさと呼んでね、ほんとに。」


 カルマが去ると、アイデンは彼女の残像を見つめたまま、小さく笑った。

  「……リアの符紋感知能力は、君の予想以上に鋭いんだよ。」

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