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デビルハンター 〜最強悪魔(ヒロイン)と契約して、運命と戦うことになった件〜  作者: 雪沢 凛
第十一章:埋められない隙間

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埋められない隙間 (5)

 マイルズの視線は(エン)と写真の間を行き来しながら、指先で写真の縁をなぞった。

 その動きは、まるで本物かどうかを確かめるようだった。


 最終的に彼はゆっくりと写真を手に取り、静かに息を吐くと、それを元のファイルに戻した。

  椅子の背にもたれながら、思索を含んだまなざしを(エン)に向け、落ち着いた口調で言った。


「まぁいい。俺の好奇心に過ぎない。これ以上追わない。」


 (エン)の目はマイルズの動作に注がれ続けていた。

  眼差しの奥に何か知りながら口にしない答えが隠れてることに気づいてた。


 (エン)は身体を起こし、淡々と問う。


「で、お前はどうする気だ?」


 マイルズは小さく笑い、目に複雑な光を宿しながら言った。


「何もするつもりはない。

 ――ただ、ある程度曖昧なままにしておいた方が、お前にもカルマにも、この局面全体にも結果的に良い場合もあるってことさ。」


 (エン)の目に一瞬、感情の波が走ったが、すぐ冷静に戻る。低く押さえた声で返す。


「言いたいことがあるなら、はっきり言え。」


 マイルズの眼差しが鋭くなり、声に重みが宿る。


「エン、お前も分かってるだろ。カルマが追ってるのは何か。もし彼女が‘そのこと’を知ったら、受け入れられるとは思えない。父親への想いも、お前への信頼も、彼女の中で崩れるかもしれない。」


(エン)は黙り、視線を机に落とし、何かを押し殺すように沈黙する。やがて冷ややかに言い放つ。


「それは脅しか?」


 マイルズは首を横に振り、どこか諦めを滲ませた声で答えた。


「違う。――ただ、お前は自覚すべきだ。今のお前はこの全体の中心だ。

 カルマも夜行者も、お前を軸に動いてる。お前がバランスを崩せば、状況全体が崩壊する。俺はお前を追い詰める気はない。戦局を悪化させたくないだけだ。」


 言い終え、マイルズはカップを手に取り、一口飲んで補足する。


「カルマとお前の関係――それが俺たちの最後の砦だ。彼女が真実を知ったらどうなるか、お前の方が分かってるはずだ。」


 (エン)は目を上げ、冷然とした視線でマイルズを見据える。声は低く、揺るぎない強さを帯びていた。


「それは俺の問題だ。お前が気にすることじゃない。」


 マイルズは口元に皮肉を浮かべ、肩をすくめる。


「そうかい? でも‘お前の問題’が今や俺たち全員を巻き込んでるんだよ。」


 そう言って、彼はコーヒーカップを置き、椅子から立ち上がった。その声には強い決意が宿っていた。


「エン、忘れるな。この局面は俺たちが見てる以上に複雑だ。お前が崩れたら、誰にも止められない。」


 (エン)は何も返さない。冷ややかな目でマイルズを見送り、彼の言葉を反芻する。

 過去の記憶と現実が交錯し、混沌としたパズルのように絡みついてくる。


 マイルズはそれ以上言わず、(エン)の肩を叩き、一言残す。


「カルマを大切にしろ。彼女だけが――お前のバランスを保てる唯一の存在なんだから。」


 その言葉とともに、彼は背を向けて去っていった。


 カフェの空気は静かで、カップや皿のぶつかる音だけが平穏に余韻を残す。

 (エン)は座ったまま、マイルズが写真を置いてた一点を見つめる。眉をひそめ、胸中に複雑な感情が渦巻く。


 まさかマイルズがそこまで早く――自分がかつてアレスを殺した‘赤髪の狩人’だと察してるとは思わなかった。


 しばし沈思し、心に暗い影がよぎる。否定する意味はない――それはマイルズを疑念の渦に引き込むだけだ。


 かといってすべてを打ち明けるわけにもいかない。


 それは自分とエリヴィアが共有する秘密であり、共犯の烙印だ。

 外に出せるものじゃない。

  だがそれ以上に引っかかるのは、マイルズがこの事実を‘伏せた’ことだ。

 彼の慎重さも聡明さも分かってる。だが今回の判断には警告の色が滲んでた。


 ――問題は、この先だ。


 (エン)は無意識に指先でテーブルをトントン叩く。

 警戒心が静かに、だが確実に強まる。


 マイルズは知りすぎてる。


 写真も、アレスの死の真相も、内部の情報漏洩者の推測も――彼は危険な境界線に足を踏み入れてる。


 もし夜行者か闇紋会がマイルズの知識の深さに気付けば、迷わず彼を標的にするだろう。

 マイルズが深く関われば、リスクは増す。


 (エン)の瞳は冷たさを帯びる。心の奥で一線を引いたような冷ややかさだ。


 マイルズが分別ある男なのは分かってる。今回の沈黙も状況への配慮か、(エン)への信頼からの選択だろう。だが安心はできない。


 彼の存在が局面の‘焦点’になりかけている。

  (エン)は視線を落とし、胸中に小さな、だが確かな決意が芽生える。


 もしマイルズが‘次の標的’になるなら――自分は備えねばならない。


 それは信頼でも友情でもない。

 見えない盤上における必要な配置だ。


 マイルズが知ることは多すぎる。彼の関わりは深すぎる。

 そして(エン)には分かってた――この嵐は、そう簡単には終わらない。


 (エン)は立ち上がり、ジャケットを肩に掛ける。

 何も言わずカフェを後にした。その背中に固く静かな決意が宿っていた。

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