交錯する陰謀 (6)
背後から足音と金属の微かな音が響く。
数名のハンターがこちらへ素早く近づいてきた。
彼らは周囲を警戒するように目を走らせ、戦闘の跡を確認していた。
「ここでかなり激しい戦闘があったな……」
一人のハンターが小声でつぶやき、焦げ跡や魔物の残骸を調べ始める。
別のハンターは、地面に倒れたままの「ハンター」たちへと歩み寄り、
その身元を確認しようとした。
「こいつら……」
倒れ伏したハンターたちを見た一人が眉をひそめる。
「こいつらもギルドのハンターだぞ?
なんでこんなところで倒れてる?」
その時、通信機から低く沈んだマイルズの声が響いた。
わずかに不安を滲ませた口調で尋ねる。
「現場の状況は? カルマは見つかったか?」
「はい、マイルズ様。」
ハンターが即座に応じ、緊張した声で続けた。
「戦闘の痕跡を確認しました。
それと、数名のハンターが地面に倒れ、意識を失っています。
彼らの身元については、これから確認を行います。」
通信の向こう側で、マイルズは数秒間沈黙した。
そして、冷静な声で指示を出す。
「すぐに現場の全ての異常を調べろ。
敵がまだ潜伏している可能性を排除するな。
倒れているハンターの身元を特定し、なぜ彼らがそこにいたのかも調べろ。」
「……カルマは? 現場にいるのか?」
別のハンターが周囲を見渡し、少し躊躇いながら視線を前方へと向けた。
そして、少し困惑した声で報告する。
「マイルズ様……カルマはここにいます。
それと……エンも。」
通信機の向こうで、再び短い沈黙が訪れる。
その後、マイルズの声が驚きを帯び、わずかに重みを増した。
「エンだと?なぜ彼がそこに?」
現場のハンターたちは互いに視線を交わし、妙な空気が流れた。
隊長格のハンターが咳払いをして、できるだけ冷静に報告を続ける。
「はい、マイルズ様。
エンは現場におり、戦闘に加わっていたようです。」
マイルズは驚きを抑え、すぐに冷静な指示を出した。
「いいか、まずは現場の安全を確保しろ。
そして、カルマとエンの無事を確認しろ。
倒れている者たちについては、とにかくギルドへ連れ戻せ。」
「了解!」
ハンターたちは即座に命令を受け、迅速に動き始める。
通信機から聞こえるマイルズの声が、最後にもう一言付け加えられた。
「いいか、敵を一人たりとも逃がすな。」
数人のハンターが手分けして現場の痕跡を調査し、
倒れた「ハンター」たちを安全な場所へ移動させていく。
その中の一人が周囲を見渡し、低い声でつぶやいた。
「ここにはまだ強い魔力の残滓がある……裂け目が原因のようだ。
だが、すでに完全に閉じているな。」
最後に、一人のハンターがカルマと炎に視線を向け、
何かを聞くべきか迷っている様子だった。
カルマと炎は少し離れた場所に立ち、
静かに現場の様子を見つめていた。
カルマは低く尋ねた。
「マイルズの送った本物の援軍みたいだね。
説明しに行く?」
炎はハンターたちを一瞥し、淡々と答えた。
「今行っても、話がややこしくなるだけだ。
彼らは状況を整理する時間が必要だし、
俺たちがここにいる理由はもうない。」
カルマはわずかに微笑み、からかうように言った。
「ほんと、面倒事が嫌いなのね。」
「無駄な時間を使いたくないだけだ。」
炎はそう言うと、アルをしっかり抱え直し、密林の奥へと歩き出す。
「行くぞ。」
カルマは最後に一度遺跡を振り返った。
ハンターたちはまだ細かく調査を続けていた。
彼女の視線は倒れている「ハンター」たちの上で止まり、一瞬、冷ややかな光が宿る。
小さく息をつき、そのまま炎の後を追った。
その頃、遺跡の現場では、再びマイルズの声が通信機越しに響いた。
「これ以上の調査員を送る。
現場の状況を徹底的に洗い出せ。
何か異常があれば、すぐに報告しろ。」
◆
炎のポケットの中で、携帯がひっきりなしに震えていた。
このタイミングでかかってくる相手は、大方予想がついていた。
彼は携帯を取り出し、画面に表示された番号を一瞥すると、
着信拒否モードにしようとした──が、カルマに阻止された。
「また電話に出ないのね。アイデンでしょ?」
カルマはくすっと笑いながら、慣れた手つきで通話ボタンを押し、
さらにスピーカーモードまで設定した。
すぐに、アイデンの焦った声が響き渡る。
前置きもなく、いきなり本題に入った。
「エン、遺跡に行ったと聞いたぞ!
単独行動は危険だと伝えたよな?
あそこにどんな危険が潜んでるか分かってるのか?」
カルマは腕を組み、皮肉な笑みを浮かべた。
「やっぱりアイデンね!」
通信の向こう側から、アイデンの困ったような、それでいて焦った声が続いた。
「カルマ、お前も無事か?
まだ遺跡の近くにいるのか? 状況はどうなってる?」
カルマは軽く眉を上げ、携帯に向かって気の抜けた調子で答える。
「エンのおかげで、私は元気よ。」
そう言いながら、彼女は炎へと視線を向け、興味深げに問いかける。
「それで、あんたはどうしてここに? まさか"偶然"だなんて言わないわよね?」
炎はちらりと彼女を一瞥し、静かに息を吸った。
「前回来た時に、ここの魔力の残滓に違和感を覚えた……
だから、念のため再確認しに来た。
それだけだ。」
彼は淡々と語ったが、その低い声の中には、何か隠しているような響きがあった。
「お前と遭遇したのは、純粋な偶然だ。」
カルマの目が一瞬、疑いの色を帯びる。
さらに追及しようとしたその時──
炎がふいに携帯へと向き直り、いつもより低く鋭い声で問いかけた。
「だが、お前に聞きたい。
カルマはどうして遺跡の場所を知っていた?
まさかお前が教えたのか?」
その問いに通信の向こうが一瞬静まった。
微妙な沈黙が流れた後、アイデンはゆっくりと口を開く。
「カルマには……彼女なりの理由がある。
俺には、彼女の決断を止めることはできなかった。」
炎の眉間の皺がさらに深くなり、
低く抑えた声には、明らかな苛立ちが滲んでいた。
「彼女を一人で行かせたのか?
理由があるからって、ここがどれほど危険な場所か分かっているはずだろう。
もしナイトウォーカーに遭遇したら、どうするつもりだった?」
アイデンの声には、わずかに困惑が混じっていた。
「カルマの性格はお前が一番分かっているだろ?
止めても無駄だ。むしろ強引に止めれば、余計に厄介になる。」
一拍置いて、彼は続けた。
「それに、彼女の行動は俺たちの遺跡調査の優先事項の一つでもある。」
その言葉に、カルマが口を挟んだ。
「エン、あんた、私を見くびってるんじゃない?
別に、守ってもらう必要はないんだけど?」
炎は冷ややかな視線を彼女に向け、少し苛立った様子で言い放つ。
「見くびってるわけじゃない。だが、リスク管理の基本の話だ。」
彼は足を止め、カルマを真正面から見つめる。
その緑の瞳には、冷徹な光が宿っていた。
「さっきの戦闘を思い出せ。
俺が来なければ、お前は無傷では済まなかったかもしれない。」




