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#8_出会い


 日課となっているクエストカウンターの依頼をこなすため、私は一人で岩肌に挟まれた一本道を駆けている。

 目指すは最奥、大型モンスターの討伐。

 いつもの賑やかな声は聞こえず、静かだった。


 道中、私の身長の二倍はあろうかという巨大な猿がうろついてるのが見えた。

 まだこちらに気付いておらず、巨大な体躯を無防備にさらけ出している。

 岩陰に隠れて様子をみた方が良い。

 そう私は考えるのだが、いつも通り突貫するのだろうと諦めていた。

 そんな予想通り、正面から突っ込んでいく。

 大猿が私に気付き、凶悪で醜悪な顔を正面に向けたが、それでも走るのを止めない。

 大猿は大地を踏み鳴らすように重たい足を前に出す。

 そこで私の体は急ブレーキをかけ、体が一瞬光る。

 抜刀する体制に入り、更にもう一段深く体を沈めた瞬間、目にも止まらぬ速さで大猿の横を抜けると同時に抜刀し、仕留めていた。

 背中越しに断末魔の咆哮が聞こえる。

 何事もなかったかのように再び走り出し、その後も狼やら巨大な鳥やらが行く手を遮るが、大猿同様に適当に蹴散らしながら進み続けた。


 そうして辿り着いた最奥には、すでに先客がいた。

 道中に遭遇した大猿よりも一回り大きい銀色の狼、それと対峙する軽鎧を着た一人の女戦士。

 武器は弓を携えていたので、おそらく私と同じ武芸者なのだろう。

 腰まで伸びている黒髪のストレート、トップスは皮鎧だが臍回りが少し露わになっており、黒いミニスカートを履いている。

 黒いブーツからすらりと伸びる足は走ったり止まったりと無駄な動きが多く、まだ戦闘経験が浅い様子が窺える。

 すぐに助太刀に入るべきだと強く思うが、そんなのは知った事かと言うように私の体は戦いを傍観し始めた。

 何故、助けに入らないのか理解不能だ。


 銀の狼は彼女に向って飛び掛かる。

 女戦士は、少しは敵の攻撃を見切りつつあるようで、危なげながらも横に転がって回避した。

 再び間合いを取り、仕切りなおしを図る。

 すると、私が視認できる頭上ギリギリの空間に、突然文字が浮かび上がった。



「飛び掛かりの回避後に、一撃は入れられる隙が出来る。そしたら今みたいにまた距離取って」



 その文字は数秒その場所で固定された後で、一瞬にして消えた。

 これはハイネガーが彼女に向けたものだろう。


 実は、この世界では空中に文字が浮かび上がるという現象は珍しくない。

 初めてこの現象を目の当たりにした時は自身の正気を疑ったが、今はこれが私を操っている者の声の伝え方の一つだろうということは見当が付いている。

 時折こうして文字でコミュニケーションを取る場面を見るが、その度に何故声を使わないのか不思議でならない。


 私が色々な事を考えていると、銀の狼は再び彼女に飛び掛かった。

先程と同じく肝が冷えるような危うい回避だったが、ハイネガーのアドバイス通りに即座に銀の狼に向け、矢を放つ。

命中の如何はどうでもいいようで、一矢放っては逃げるように再び距離を取った。



「いい感じ。詰め寄ってきて前足浮かせたらサイドステップ。隙が大きいから避けた後スキル撃って大丈夫。飛び掛かりと前足だけ見て。他は考えなくていいから」



 一つ一つアドバイスをする事で、彼女の成長を図っているようだ。

 彼女が傷を負う度に私は駆け寄り薬液を振りかけ、そしてまた距離を取って傍観する。


 だんだんと攻撃を受ける度、攻撃を避ける度に立ち回りが良くなり、回復に駆け寄る頻度も少なくなってきた。

 

 ようやく銀の狼の攻撃にも慣れた頃かと思われた時、サイドステップから放った矢が当たり、銀の狼は大地に頽れて霧散した。

 彼女の奮戦を見届けた私の頭上に数字が表れた。



「8888」



 何かの暗号か?

 応じるように彼女の頭上に文字が浮かんだ。



「ありがとうございました!」



 戦闘中だったから発信できなかったのか、それとも別の理由があるのかは不明だが、彼女は初めて言葉を返してきた。



「この一個前のエリアをなんとかソロでクリア出来るようになったので、様子見で来てみたら思ってたより敵が強かったのでどうしようかと思ってたんです」


「湖畔から岩窟は難易度はグンと上がるからね。装備整えてレベル上げて挑まないと軽く死ねる」


「ちょっと湖で鍛えてきます……」


「レイドは参加してる?そこそこ強い武器ドロップするよ」


「いえ、なんか足引っ張りたくないというか、未熟者が参加すると色々と凄い目で見られそうなので参加した事ないです」


「ふむ、フレンドさんとかは?」


「ずっとソロプレイです!(キリッ」


「いや、そこ胸張るところじゃないからw」


「(´・ω・`)ショボーン」


「w」


「ひとりでできるもん」


「なんか懐かしいフレーズだね。さてはあなた……」


「えーなんですかぁ?私よくわからなーい」


「嘘つけっ!絶対に分かってるだろw」


「テヘペロ」


「もう話が全然進まないw」


「ん?進めるような話、してました?」


「もうやだw」



 漫才のような掛け合いが続く。

 ハイネガーの方は進めておきたい話があるようだが、彼女の方はただ会話を面白がっているだけのようだ。

 このままでは埒が明かないと思ったのか、ハイネガーは強引に話を切り出した。



「あれだ、フレいないって事だけど、見かければ一緒に遊んだりする人は?」


「んー、時々通りすがりの人と一緒に遊んだりするけれど、すぐバイバーイですね」


「それただ野良で一緒になっただけだから。フレンドになりましょうって人いなかったの?」


「言われたことないですねぇ、っていうか、私すぐホールに帰るので、もしかしたら虚空に向かって声をかける人もいた可能性はもしかしたらもしかしたらですけど」


「……」


「なんで無言になるんですかぁヽ(`Д´)ノプンプン」


「いや、もしかして一人が好きなのかな、と」


「そんな事ないですよ?友達百人欲しいですよ?フレンドリストは三十人までですけど」


「うんまあ、そうだよね?」


「おや?その反応は……フレリスト三十人あるのご存知でない?このゲームの基本システムすら分かっておられないとか……プ~クスクス」


「うわ腹立つ~w……じゃなくて!」


「え??」


「どういう頭の回転してんだか……俺みたいに話したりする人いなかったの?いればこんな逸材放っておくわけはないと思うんだけど」


「褒められた!オヤジにも褒められたことないのに!」


「それは、不憫だな」


「いやあ、それほどでも~」


「どこで褒めてると思った?」



 頭上がこれまでにないくらいに荒ぶっている。

 ハイネガーの問いに真面に答えが返ってこず、会話が成り立っているようで全く成り立っていない不憫だ。

 頭上の文字ばかりに気を取られていたが、私は女戦士の頭の上の文字を読む。

 救世主の猫。

 救世主の猫?救世主が飼っている猫?猫が救世主?あり得るのか?いや、死んでも生き返る世界だからこれくらいは普通なのか?

 また一段とこの世界が分からなくなった。

 私が彼女の名前に混乱している間に、話が進み始める。



「で、猫さんや。これからもソロでやってくの?」


「私、別に孤独を愛しているとか、そんな中二病はもう卒業しましたが?」


「卒業したってことは患ってたんだ……。こんな面白い人がずっとソロなんて俄かに信じがたいけど」


「いやホントよホント。こんな超絶美人なのにね?」


「いや知らんけど」


「急に冷たい。私を捨てるのね?」


「まあ、こうして話したのも何かの縁だ。フレ申請送るけれど、嫌だったらキャンセルしてくれ」


「え、同情で友達になろうっていうの?あなたって軽薄ね!」



 救世主の猫の隣に文字が出現した。

 「救世主の猫にフレンド申請を送りました」

 その文字が消えると同時に、鈴が鳴るような音がした。



「そんな同情なんてありがたくいただくわ!よろしくお願いします!」


「テンションが迷子過ぎだろwはい、よろしくね猫さん」


「で、私はなんとお呼びすれば?ナクコ・ハイネガーさんとフルネームですか?それとも、お祭りさん?」


「普通はそこ、祭りじゃなくてなまはげじゃない?まぁなんでもいいよ。知人にはハイネガーって呼ばれてる」


「じゃあナクコさんね」


「じゃあ、からの繋がる言葉がおかしくね?w普通はハイネガーになる流れじゃね?」


「私をそこらにいる普通の女と思ってもらっては困るな」


「あーそうですねー完全に同意するわー」


「……」


「……え、何?」


「ピエン。乙女心が傷つきました」


「もうどうしたらいいのこの子」



 しばらくこんなやりとりを続け、そして気が付けば一時間が経っていた。

 話もようやく落ち着きを見せたところで、解散する雰囲気が漂う。



「猫さんと話してると終わりが見えないわ」


「私の愛は無限大」


「脈絡がどこにもないんだがwとりあえず、今日はもう落ちるよ。そろそろお風呂入らなきゃいけないし」


「そんなご無体な。私を置いて行かれますのね。およよ」


「私には行かねばならぬ場所があるのだ。わかってくれ」


「え?何言ってんですか?早くお風呂入った方がいいですよ?」


「おまっ!ちくしょー!じゃあ行ってくるよ!wまたね、お疲れ様」


「お疲れ様でしたー!」



 救世主の猫に現れた最後の一言が消えると、私の意識も消えたのであった。






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