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パンドラの壺~最後に残ったのはおっさんでした~  作者: 白いレンジ
異世界ノ章 ~狙われた王都~
71/234

#71_オーパーツ


 メリーズの宿屋のベッドで目を覚ました浩介は、そういえばとポケットにしまっていたバルガントの持っていた宝石を持っていたことを思い出した。

 翡翠に輝くそれを改めて矯めつ眇めつ見て考える。



「(これをセレスティアに相談するべきか、それとも日本に知らせるべきか……うーん、元々はこの世界のものだからセレスティアか。その後で芳賀さんへ報告しよう。

  それにしても、この宝石は謎が多いな。それぞれで固有能力があるようだし、エクスドールタイプと俺みたいなタイプに分かれてるのもよく分からん。

  治癒を施された人たちの反応を見ると、この世界でも宝石の存在は特別なんだろう。そういえば、バルガントは自分を治してなかったけど、もしかして術者本人は治せないのか?

  そして何故、こんなものがあるのか。どうしてバルガントがそれを持っていたのか……)」



 そこまで考えると、頭の中で悪魔が囁いた。

 箱の宝石も使ってしまえ、と。

 誘惑を払うように天使が諭す。

 使うのならセレスティアの許可をいただいてからでもいいでしょう、と。



「……死ぬほど痛いのはもうごめんだよ。あんなのは自爆する時だけで充分だ」



 自爆したがりのロボット乗りの台詞を冗談交じり呟いてから、箱に蓋をしてポケットに戻した。

 それから宿屋の浴場で朝風呂に入ってから食堂で朝食を摂り、王都アルスメリアへと向かった。

 王都の門は全て解放されていた。

 浩介は通い慣れた南門に繋がる街道から歩いて近寄り、見張りの門番の疲れを滲ませた顔に通行証を提示するとすんなりと通される。

 お疲れ様ですと声をかけ、見上げるほどに高い鉄格子の扉を横に見た。

 いつもは壁を飛び越えていたので門を間近に見る機会はこれが初めてであり、いつかの旅行で訪れた姫路城よりもさらに広く高かった。

 まじまじと見上げながら歩いていると、やがて門を通り過ぎて街中が目に映る。



「……こうして正面から王都に入るのって、変な感じ」



 ともかく、まずは被害がどれほどのものかと西門へ向かう。

 南門から中央広場への通りに構えている店のどれもが相も変わらず閉まっていたが、以前と違って人の往来が盛んだった。

 誰もが復興のために忙しなく動き、衣服や肌の汚れがその必死さを語っている。



「(町が壊されたら総出で助け合うよな。早く片付くと良いんだけど)」



 中央広場から見えた西門は、ものの見事に跡形もなく破壊されていた。

 見事な大自然が顔を正面に映る。

 住居を含めた建物は西門に近づくにつれて被害の度合いが増しており、西門手前付近にもなると建物は軒並み全壊している有り様。

 知らぬうちに足が重くなり、止まった。



「……これは、酷い」



 西門手前の建物だったものは、もはや瓦礫の山。

 そして、地面と瓦礫を覆う大量の青い液体と、ヒュドラだった大小の肉塊が散乱していた。

 幸い、風で毒の霧はどこかへ流れたようで、具合の悪くなることはなかった。

 瓦礫を退かしたり血を除染している人が多い中、複数人が話し合っているのが見えた。

 セレスティアと王城にいた騎士と、三人の日本人だった。

 日本人は大袈裟なほどに身振り手振りで意思を伝えていて、それでもセレスティアは時折その意味が分からず小首を傾げたりしていた。

 それでも諦めずに日本人は何度も細かく動きを変更したり加えたりと工夫してはいるが、受け手のセレスティアへは半分も伝わっていない様子。

 見かねた浩介は助けに入った。



「セレスティア、どうかした?」


「ああ、コウスケ。良かった、少し助けてはいただけませんか?言葉が通じ合えなくて……」


「なるほど」



 セレスティアと話していたのは日本の使節団の構成員で、復興支援の打ち合わせに訪れていたとの事。

 両世界の言葉を使いこなせる浩介の出現に、使節団の人間も救われた心地であった。

 浩介を介すると打ち合わせは滞りなく終わり、その場にはセレスティアと騎士と浩介が残った。



「助かりました、ありがとうございます」


「いいタイミングだったね。手伝えてよかったよ」



 そこで騎士が感心した風に聞いてきた。



「コウスケは語学が堪能なのですか?」


「そんな事はないですよ。恥ずかしながら、元々住んでた国の言葉くらいしかしか喋れませんし」


「そんな事はないでしょう。現に二か国語を使いこなせているではないですか」


「うーん、私はそんな事してるつもりは全くないんですけどね。なんででしょうね?」



 腕を組んで首を捻る浩介の仕草に、騎士は困惑する。

 騎士の疑問は確かにもっともだとセレスティアも言う。



「これまで自然に受け入れていましたが、確かに浩介はこちらの言葉に堪能すぎる気がします。使節団の方々は数年前からこちらで活動されていますが、それでもまだ先ほどのように会話が難航してしまうのです。

 でもコウスケがこちらに来たのはつい最近なのでしょう?」


「そうなんだよねー。まぁ、もしかしたらっていうのは一つ思い当たるんだけど……」



 ちらりと騎士を見遣ると、騎士はその意を察して王女に一礼してこの場を離れた。

 騎士の後ろ姿に、申し訳ないと一言投げてからセレスティアと向かい合う。



「人払いが必要な程なのですか?」


「まずは、これを見て欲しい」



 そう言って、浩介は自分の持つ瑠璃色の宝石とバルガントから取り上げた翡翠色の宝石を、周りから隠す様に見せた。



「これ、知ってる?」


「これは……っ!?」



 宝石を目にした瞬間、セレスティアの目は大きく開いて、口は今にも叫び出しそうな程に大きく開いた。

 慌てて宝石から目を逸らし、周囲へ注意を向けながら声を潜めて言う。



「すぐにしまってください……」



 尋常じゃない慌て振りに、浩介は理由を考えずに言われたままに二つを仕舞う。

 明らかに宝石の存在を知っている様子で、ようやく謎が解けそうだ。



「これは一体、何なんだ?」



 セレスティアは周りの誰にも見られていない事を確認すると、浩介の腕を乱暴に取って歩き始める。



「こちらへ」


「わ、わかった」



 浩介は言われるがまま、されるがままセレスティアに従ってついて行った。

 西門から中央広場へ、そして北へ進む。



「一体、どこまで行くんだ?」



 その問いに答えず、一心に北へ伸びる大通りを急ぎ歩く。

 そして、ついには王城の正門の前まで来てしまった。

 然し、なおも浩介の腕を取ったまま城内を進む。

 エントランス正面奥の扉を開け、直線に伸びる通路にはいくつもドアがあり、その中の一つを開けて部屋に入る。

 そこは窓が無く、廊下の灯りがなければ部屋の中は何も見えない。

 ぼんやりと見える部屋の輪郭と埃の臭い。



「こんなトコに連れてきて、一体何を」



 セレスティアは部屋の内側から鍵を閉めた。

 美少女に暗がりへ連れ込まれ、一瞬期待をしてしまう。が、いつの間にかセレスティアの手が浩介の腕から離れていて、落胆はあったが予想通りだった。



「(こんな冴えないおっさんを、こんな綺麗な子が相手にしてくれるわけないもんな。うん、知ってた)」



 期待するだけ無駄という事をこれまでの人生で何度も経験したので、傷は浅い。

 気を取り直して、聞き直す。



「ここに何があるんだ?」



 返事はない。代わりに床で何か作業をしているのか、カタカタという板同士が当たる音が聞こえる。

 黙ってセレスティアの気が済むまで大人しくしていると、小さな呟きが聞こえた。



「……終わりました」



 直後、歯車が噛み合ったような音がしたと思ったら、正方形の板で組まれた床の一部の隙間から光が漏れ出た。

 セレスティアはその床板をはぐって、浩介に明かりの灯る床下を見せる。



「これは……」


「ただ聞くより、見ながら説明いたしましょう」



 地下へ続く階段があった。

 階段は人がすれ違えないほど狭い。

 中を等間隔で照らす光源は、オカルトで言われるようなオーブのようなもので、手のひらサイズのそれは宙に浮かんで暗闇を照らすに十分な光を放っている。

 これは、この世界においてオーバーテクノロジーであるのは明らかだ。

 何故こんなものが存在しているのか、その答えもこの先にあるのだろうか。

 期待を胸にセレスティアに続いて階段を下りていく。

 しばらくして前を歩くセレスティアが立ち止まった。

 壁が行く先を阻んでいるが、その壁の質感は周囲の石壁とは異なり、艶やかで滑らかで光沢を放っていた。

 自動ドアを想起させるように、壁を二分する縦の直線が天井から地面まで走っていた。



「(この世界に、自動ドア?)」



 何にしろ、両世界の技術の代物ではないだろう。

 セレスティアはそのドアと思しき壁に両手を着き、短い言葉を発した。

 浩介の聞き違いでなければ、彼女はこう言った。



「闇を祓いし極光の僕。大いなる主の加護の宿りし聖なる御霊を持って、いざ其の封を破り其の姿を我が前に示せ」


「(ファッ?!な、なんだってっ?!)」



 浩介は耳を疑った。

 これはまるで呪文詠唱ではないか。

 と、戸惑う浩介を余所に、扉から張り詰めた空気が抜ける音がした。

 壁が光り出してセレスティアが手を離すと、やはり壁は自動ドアと同様に縦の線から半分に分かれて道を開けた。

 ドアの向こうは、円形に広がった部屋だった。

 その中で目にするものは全て、ドアと同じく未知の素材で構成されていた。

 部屋の中央には膝くらいの高さの塀で囲まれた池のようなものがあり、その上には天井から人が入れるくらいの大きなカプセルが一つ垂れ下がっている。

 カプセルの中は液体で満たされているのか、浩介の持つ宝石を何十倍にも大きくした紫色に輝く宝石が真ん中に揺蕩っていた。

 カプセルの底から一本の管が伸びていて、それが池の中に埋まっている。



「ここは……これは、何なんだ……?」


「この場所は、王族にだけ伝えられる国の心臓とも言うべき聖域です」






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