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#3_弓はロマン砲らしい

「そういえばのど飴さんや、昨日ドロップしたレイブレイカー強化した?」



 階段を降りて自動式の扉が開く直前、猫又が問う。

よほど希少価値のあるものか、非常に有用な武器なのだろうか。


 扉が開く隙間から眩い光が漏れ出して、先が見えない。

 のど飴はバツが悪そうな声を出す。



「ん~、実はねー……」



 言葉の途中で光は私たちの全身を覆った。

すると意識が途絶え、再び気が付くと目の前には昨日と同じ荒野が広がっていた。

彼らの前方には、どす黒く変色した水溜まりのようなものが存在していて、それにこの地に立っている誰か一人でも触れるとカウントダウンが始まる。

 一度そうなったら、デーモンを倒すまでメインホールには戻れない。

 昨日と状況が全く一緒なので、やはりデーモン討伐が目標となるだろう。



「まだなんだよねぇ」


「あー、まぁ素材もお金もかかるから、しょうがないよね」


「俺には素材もお金も有り余ってる!代わりに強化してあげたいんだけど、まだ素材のトレードできないからな。他のゲームだと当たり前の機能なのになんでだ!」



 彼らは黒い水溜まりに向かって走り出し、周囲には同じくそこへ向かって走っている戦士たちが見える。

 見た限り、昨日一緒に戦った者はこの二人以外はいないようだ。ブーメランパンツもパンダもいない。


 この世界の特徴なのだが、外見だけでどのような戦闘スタイルを得意とする人物か全く判別が付かない。

 携行している武器で判断するしかないのだが……意味はないだろう。

 丸太や弦楽器、他には鍋つかみ、冷凍マグロを振り回している者もいるからだ。

 実にバリエーションに富んでいる。いや、そもそもそれらに攻撃力が生まれるのがおかしいのだが。



「あ、やばい、ここエレメンタラーが一人もいねぇ!」


「回復はアイテムのみか。ウチらはいいけど、のど飴さんは辛いね。頑張って昨日を思い出すんだ」


「あんなわちゃわちゃした時の事なんてそんなに覚えてないよ!吹っ飛んだ記憶しかないわ!」



 のど飴の一言でハイネガーと猫又は爆笑した。

それと同時に三人は黒い水溜まりの外縁にたどり着くと、そこで足を止めた。

私たちに倣うかのように、他の戦士たちも外縁で立ち止まる。

全員が黒い水溜まりに集まったのを確認すると、猫又が息を吸って声を出す。



「んじゃ、起動!」



 すると、ブゥンと水溜まりから音が鳴った。

水面の上の中空、私たちの目線の高さに数字が表れて、それは10から9、8と減っていき、それがやがて0になった。

目の前が真っ白になる。

気を失うのとは違っていて、意識は保ったままだ。



「のど飴さん、体力には気を付けてて」


「死なないようにバフドリンクを定期的にキメといた方が良いね!」



 真っ白だった視界が開け、黒い水溜まりに変化が訪れる。


 水溜まりだと思っていたそれは、粘土のように捏ね繰り回されたように形を変え、何かを形作る。

 間もなく、黒い水溜まりは黒い影となり、巨大な泥人形のフォルムになったかと思うと、影に罅が入りガラスが砕け散る音を立てて弾け飛んだ。

 影の中から現れたのは、やはり昨日のデーモンと同じ。



「目標、床ペロしない!」


「のど飴さん、がんばー」


「むーりーだー!」



 この場にいる戦士たちが一斉に動き始め、デーモンも私たち討伐隊へ向かって攻撃を仕掛け始めた。

 弓や銃、杖を装備している者は距離を取り、大剣や双剣、または己の拳で戦うものは果敢に懐に飛び込んで攻撃を浴びせる。

 デーモンは大ぶりなストレートパンチや前蹴り、裏拳のような薙ぎ払いを主軸にし、遠くから攻撃してくる者に対しては掌から魔力の塊を打ち出す。

 それぞれの挙動には大きな予備動作が見られるため、戦士のほとんどは余裕をもって回避したりガードして、順調にデーモンの体力を削っている。

 のど飴ともう一人の戦士は、未だ挙動を把握してはいないようで度々直撃を受けている。



「のど飴さん、体力半分切ったからヤクキメて」


「怪しい商人から買ったヤクをキメるんだ!さあ!ついでにハイになるドーピングも!」


「わかった!でも、その言い方やめて?」



 のど飴は一旦デーモンの攻撃範囲から離脱。

回復薬を飲んだ後に別の小瓶を取り出して、その中身を自身へ振りかけた。

 その間にも戦士たちによる猛攻は続き、体を光らせて大技を放つ者がちらほらと現れ始める。

 私も数えるのが億劫になるほど大技を放ち、放たれるのを見てきたが、未だに何が発動条件なのか不明である。


 もう色々と教えてもらいたい。



「そろそろコピー召喚してくる頃合いだから、弓でタゲ取るねー」


「ほいよろー」



 ハイネガーと猫又の熟練者のようなやり取り。

 私は後方へ下がり、刀から弓へ持ち替える。



「のど飴さんもコピーに攻撃切り替えて。そっちの方が被ダメージ抑えられるから」


「わかった!」


「俺が二体釣るから、片方をお願いね」



 言い終えてから約五秒後、デーモンがおもむろに両腕を水平に伸ばす。

 私は矢を番えたまま集中力を高めて待機。

 その間もデーモンは新たな傷を作り続けているはずなのだが、やはり一向に動じない。


 そして、デーモンの両腕を広げた先の空間に、ブラックホールのような黒い渦が生また。

 その中から一回り小さいデーモンが四体、おぞましい産声を上げながら這い出てきた。



「じゃあ、釣るよ!」



 素早くターゲットが二体重なる位置に移動し、貫通する矢で同時に射抜いた。

 目論み通り、コピー二体が私に向く。

 残ったコピーデーモンも誰かが引き付けていた。

 戦士たちは戦力が偏らないよう部隊を三つに分け、本体と分断したコピーデーモンたちを相手にする。


 のど飴は、私に向ってくるコピーデーモンを追ってこちらに来ている。

 今後は接近戦となるため刀に持ち替えるのが定石なのだが、どうやら私は弓で応戦するらしい。

 私を操作している男は一体何を考えているのか。何にせよ、死ぬのは避けてもらいたい。

 まあ、復活するのだろうが。



「いやー、弓ほとんど使ってないから慣れてないんだよね。死んだらごめんね」



 それなら何故刀を握らない、という私の心の声を聞いたかのような言葉だが、これはのど飴に向けたものだ。

 ハイネガーは彼女へあらかじめの言い訳と謝罪をし、コピーデーモンが三メートルほどまで近づいたと見るや、俊敏なサイドステップで距離を調整してそれぞれに矢を放つ。

二射目を撃ち終えるまでに一秒もかかっていない。

 とんでもない弓術の腕前だが、根本的な謎がある。


 矢筒もないのに、どこから矢を取り出した?

 しかし、そういった謎はこれだけではなく数多く見られるから、いちいち気にしていたらキリがない。

 そういう魔法があるのだと思えばいい。



「てやー」



 全く覇気のない掛け声と共に、のど飴がコピーデーモンの一体に背後から大剣で突きを見舞う。

というか、大剣で刺突は威力を発揮できるのか?

 いや、もう気にはすまい。

それを受けたコピーデーモンは裏拳で反撃するが、すぐさま離脱に移っていたので当たらない。



「お、いいね。それくらいの間合いが飛び道具使ってこないし、威力の弱い打撃しかしてこないからベストかな。近すぎると痛いのもらっちゃうから付かず離れずで」


「む、難しいな!」


「無敵時間のある特技で凌ぐという手もある」


「あー!あの光るヤツ!確かにあれ撃ってる最中は無敵だもんね」



 そんな会話を聞きながら、私は二体のコピーデーモンに矢を浴びせ続けていた。

一体は完全にこちらを向いているが、もう片方はのど飴と私の両方に相対するようになっている。

 そういうことか。

 恐らくハイネガーは、まだデーモンと闘う事に不慣れであるのど飴が戦いやすいように、中距離からでも味方を援護出来る弓で戦う事にしたのだろう。

接近戦しか出来ない刀ではのど飴のサポートができず、乱戦となってしまう。

敵の特徴を覚えきれていないのど飴の事を考えると、乱戦は避けたい。

 なるほど、他者を気遣った戦い方だ。

 ハイネガーには長い間操られてきたが、これまでの戦闘でここまでのフォローをしたことはなかった。

厳密には、共闘してきた戦士は熟練者ばかりで手助けが必要な場面が全くなかったという話だが。


 しかし、こんな戦い方が出来る者に操られているのなら悪い気はしない。


 そして、私はコピーデーモンの掌打を受けて吹き飛んだ。



「回避手段がステップしかない弓はムズイなぁ」


「あれでしょ、ステップってコンマ3秒くらいしか無敵時間ないんでしょ?」


「もっと短かくなかった?確か5フレくらいだと記憶してるけど。弓使いはマゾよ。俺は絶対に使わない!」


「えー、俺は与一になる!とか言って、最初のクラス俺と同じのにしてたじゃん」


「ありゃあ俺の手に余るってすぐ分かったし、二週間で諦めた。ヴァンガード最高」



 ヴァンガードとは、この世界にある戦闘クラスの一つで、大剣と盾、時にはメイスを駆使して戦う。のど飴もヴァンガードだ。

 私は刀と弓を使うクラスで、武芸者と呼ばれている。

他にも、拳を主体に戦うグラディエーター、魔法使いのエレメンタラー、銃火器を使うガンマスター、双剣とナイフで戦うアサシンがある。

全部で六クラスあるのだが、器用なことに私を含むこの世界の戦士たちは自在に己のクラスを変更できるだけでなく、武器の扱いや特殊技能まで瞬時に変更先のクラスに適用できてしまう。

 つまり、例えばヴァンガードから武芸者にチェンジすると、その瞬間から武芸者の動きができる。

逆に、おかしなもので変更前のヴァンガードの動きが何故かできなくなってしまう。

 こういう所は本当に謎だ。



「っていうか、弓で接近戦しようとすることが間違いだから。ゼロ距離射撃、てぇーっ!とか言って突っ込んでた猫又さんがおかしいからね?」


「っていうか、バカなの?それ弓の意味ないじゃん。まだ新参者の私でも分かるわ。もう弓で殴るか矢を直接ぶっ刺した方が早い気がする。」


「え?弓って男のロマンが詰まった近接武器じゃねえの?」



 いつものBGM代わりの、笑いながらの世間話。

私も、のど飴の意見に諸手を挙げて賛成したい。

 そうこうしているうちにコピーデーモンの処理を終えると、全員で攻撃をデーモンに集中させる。

この後の展開は昨日と同じで、一つ違ったのはのど飴が背中から吹き飛ばされなかった事。今回は誰一人戦闘不能に陥ることなく凶暴化したデーモンを倒すことができた。

 今はそれぞれ戦利品の報告をしている。



「のど飴さん、さすがに今日はレイブレイカーは落ちなかったでしょ?」


「落ちてたら癒着を疑うレベルだよね」


「どうやって運営と癒着するんだよ!落ちなかったよ!」



 笑いながらフィールドを後にする。

困ったもので、この雰囲気は嫌いではない。

 相変わらず知りたいことは山ほどあるが、この者らの賑やかな声を聞くと、無理に急く必要もないだろうと思えるのだった。






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