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パンドラの壺~最後に残ったのはおっさんでした~  作者: 白いレンジ
終ワル世界ノ章 ~終末ノ足音~
202/234

#202_アニメの設定みたいな試作型レーザーキャノン


 世界中で避難施設への移動が行われていた。

 連邦軍と自衛隊の車両、そして輸送機も惜しみなく駆り出されるも、如何せん配備されていた数がそう多くはないので、馬車での輸送がメインだった。

 が、アレイクシオン王国やエストレア共和国のあるザグランド大陸、そしてシスターのいるヒッテリア大陸は例外だった。


 浩介は今、アルス村の住人全員とその荷物を空壁に乗せて移動している最中。



「いやあ、お世話になりっぱなしで申し訳ない!何か礼のひとつでもできればとは思うのですが……」


「これくらい朝飯前ですから気にしないでください。それに、ラニたちにはアリスがお世話になりましたし、お互い様です」


「そうですか?そう言ってくれるとありがたい。というか、そう返されては猶更頭が上がらないですな。はっはっはっ」



 豪快に笑う村長に浩介も軽く笑って合わせる。

 アルス村には村民を避難させるのに十分な馬の数はなく、セレスティアが浩介を派遣したのだった。

 空壁の中から外を覗き込もうと、透明な壁に手を着きながら子供たちがはしゃいでいる。



「すっげー!おれたち空とんでる!」


「はっやーい!」


「こらっ、騒がない。みんなの迷惑になるでしょ。大人しくしてなさい」



 そのやり取りを聞いて思わず噴き出した。

 不思議そうに村長が尋ねる。



「どうしましたかな?」


「いえ、俺たちの世界でもこういうやり取りをよく見たので」


「はっはっはっ。世界は違っても、やっぱり同じ人間という事ですな」



 その言葉がやけに心に沁みた。

 地球人の愚かな部分が際立って見えたこの十数年。対して、各地で扮装戦争虐殺はあったが穏やかな日常を過ごせる地域もあったヒトガタ復活以前の世界。

 その二つが同時に脳裏に浮かんだが、より鮮明に映ったのはやはり電車やバスでの親子の光景。

 もうその光景を目に出来ないと思うと、少しだけ胸が締め付けられる。

 だが感傷に浸るほど落ち込むことはなく、我ながらドライな性格だなと内心で自嘲した。

 殺伐とした世界を作り上げたのも、微笑ましい世界を作り上げたのも同じ地球の人間。

 どうして地球の人間は危機が迫った時、後者の感情を土台にしなかったのだろうか。



「(二つの世界をここまで決定的に分けたのは何が原因なんだろう。やっぱり、科学の発展とか宗教?それとも欲の強さか……。それか、これら全てか)」



 研究員でも学者でも博士でもないので、いくら考えたところで答えなど出るはずもないので頭の隅に追いやる。

 それと入れ替わる様に、今度は違う問題が記憶の淵から浮上してきた。



「(……そういえばあの時の久遠、いやあれは久遠だったのか分からないが……『どのような世界を望む』っていうセリフ、今になって思い出すなんてな。

  考えたところで何も変わらないけど、だからって考える事をやめちゃ駄目な気がする)」



 常にそればかりに思考を巡らせようとは思っていないが、余裕のある時に夢想してみてもいいかもしれないと思った。

 涼子みたいに歴史に詳しいわけでも、政治家みたいに政に詳しいわけでも、心理学者のように人の心に詳しいわけでもないが、この危機を乗り越えられたら頭の中で生まれたパズルのピースが活きてくるかもしれない。



「おや、真剣な顔をしてどうされましたかな?」


「あ、いや、少し考え事を」


「……これは少々無神経でしたな。申し訳ない」


「そんな、違いますよ。別にそういう感傷的な話じゃないので気にしないでください」



 本当に違うのだが、故郷の滅亡を目前にしている相手がいきなり黙りこくれば、何を思ったのか想像に難くない。

 それを強がりと受け取ってしまった村長は眦を下げたまま、そうですか、と言う。

 勘違いして気落ちするのを見過ごせず、浩介は大きく笑って誤解を解いた。

 アルス村住人の避難は順調に進み、道中では順調に進み過ぎてメリーズやレイジットの人たちに追い付いたくらいである。

 避難施設のある砂浜が遠目に見えるほどに近づいた場所で、期せずしてアルスメリアの避難民を率いたセレスティアと合流した。



「これほど早く追いつくなんて、さすがですね」


「俺みたいな能力を使える人がもう何人かいたら、全体の避難は更にスムーズなんだけどね」



 馬上で声を掛けてきたセレスティアと軽く言葉を交わすと、後ろから袖をくいっと引っ張られた。



「……ねえコウ兄ちゃん、その人知り合い?」



 十八年前、初めてアルス村に訪れた時に村長の家でぶつかった子供のラニだ。

 あれから成長して、農作業で日に焼けた顔を向けて遠慮がちに聞いてきた。

 ワンパク過ぎて男の子だと思ってた、とは女の子のラニにはとても口が裂けても言えない。



「ああ、この国の女王様だよ」


「……うええええええええええっ!!」



 素っ頓狂な叫び声を上げて体を仰け反らせたラニを見た村人たちが何事かと近寄って話を聞くと、揃ってこれでもかと目を見開いてセレスティアに注目した。

 ラニが信じられないといった様子で浩介にもう一度聞くと、浩介はセレスティアに名乗って欲しいと伝えた。

 快諾し、少しだけ佇まいを直してから柔らかな笑みを湛えて言った。



「馬上から失礼します。私はセレスティア・イーリス・アレイクシオンと申します。若輩ながらこの国の長を務めております」



 女王という立場を鼻にかけず、いかなる国民に対しても礼儀正しく接するのがセレスティア。

 彼女の人生においても馬上からの口上というのは初めてだろうが、驚くほど様になっていた。

 空壁内のいたるところから感嘆の声が漏れ聞こえてきた。

 その中から村長が一歩前に出た。



「アルス村で村長をしておる者です」



 その顔を見てセレスティアは顔を綻ばせた。



「お懐かしい。幼い頃にアルス村を訪れた時からお変わりないので、一目で分かりました。あの時はお世話になりました。お元気でしたか?」



 まさか覚えていたとは、と驚きに満ちた村長の顔はそう言っていた。

 そして、口から出た言葉も同じだった。

 それから二人は少し言葉を交わすと、浩介に水が向けられた。



「自衛隊の方から言伝を預かっています」



 一国の主をメッセンジャーに使うとは、自衛官たちも肝が据わっているというか割り切っているというか。

 女王だろうと使えるものは使わなくてはいけないという現状認識なのだろう。

 他国の王族は分からないが、セレスティアはそんな事に腹を立てる性格をしていない。

 だからセレスティアが女王となった時、国民は喜んで受け入れたのだろう。



「なんて言ってた?」


「落ち着いたら倉庫まで来て欲しい、と」


「分かった。この人たちを送り届けたら向かうよ」



 浩介は空壁の移動速度を少し上げて、セレスティアよりも一足先に目的地へ着いた。

 浜辺で待機していたウィルハルドの部下たちに村人を預ける。

 しかし、レーザーキャノンは王城の屋上に設置されているはず。何もないはずの倉庫で何の用件があるのだろうか。

 倉庫内に瞬間移動して一人の自衛官の前に現れると、短い叫び声を上げて驚かれた。



「びっ、びっくりしたぁ……来るなら来るって言ってくださいよ……」


「すみません」



 浩介は喉を鳴らしながら謝ったあとで用件を尋ねた。



「それで、用件とは?」


「それは……」



 自衛官がある一点を見つめたので、それを追尾する。そこには先日まではなかった大きなコンテナが運び込まれていた。



「あれ、この前はなかったですよね……。あのコンテナが関係してるんですか?」


「ええ」



 浩介の声が合図のように数名の自衛官の手でコンテナが解体されて中身が露わになった。

 出てきたのはバラバラに分解された機械のパーツの山。

 これが一体何だというのだろう。



「スクラップ?」


「これはレーザーキャノンの試作機です」


「試作機……。あ、そういえば確か芳賀さんも言ってたような」



 浩介の呟きに自衛官は頷く。



「はい。この試作機、火力は制式レーザーキャノンの数倍はあるようなのですが、専用の弾丸を要求される上にバラさなければ運べないほど重量があり、組み立てたその場から移動させることが出来ません」


「車輪は付いてないんですか?」


「付いてはいます。それでも人の手では動かせないほどに重いんですよ」


「まじですか……」



 浩介は額に手を当てて顔を振った。

 良い言い方をすれば試作機、濁さずに言えば欠陥機。

 開発部は一体何を想定して設計したのかとその人たちの頭脳を疑った。

 しかし、こうして現に仕上がってしまっている。

 自衛官は浩介をここに呼び出した理由を話し始めた。



「そこでご相談なのですが、辻本さんの能力でこれを移動させられるようにできませんか?」



 僅かに思案してから返事をした。



「……そうですね、基底部に空気の板を挟んで摩擦をなくすくらいなら」


「なるほど……。確かにそれなら動かすのに苦労することはなさそうです。ありがとうございます」



 この程度の協力なら、浩介の精神力(MP)を数値化した場合、その維持に必要な消費MPは『0.1/1億』程度だろう。

 この0.1の差が勝敗を決定させるものではないことを願いつつ、あのレーザーキャノンを遥かに超える威力を発揮する試作機に興味が湧いたのだった。






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