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パンドラの壺~最後に残ったのはおっさんでした~  作者: 白いレンジ
終ワル世界ノ章 ~終末ノ足音~
200/234

#200_レーザーキャノンを取りに


 自衛隊の各部隊は、組織保持のために必要最低限の少人数で構成されていた。

 連邦政府の管理下から外れていたため自衛隊の運用方針は、連邦軍の邪魔さえしなければそれでいいと、それだけを求められた。

 有事の際に連邦軍の雑用として駆り出され、民間人の支援をする以外は余るほど時間のあった彼らは、空いた時間を使って己の専門外のスキルを会得していった。

 その結果、この十数年で一人一人が全ての科のスキルを覚えたオールラウンダー集団となった。

 そんな彼らは芳賀の最後の命令を受け、その中の一部隊が浩介と共にレーザーキャノンを取りに王城へ向かった。

 とんぼ返りで王城に戻った浩介は、セレスティアに自衛隊の倉庫への立ち入りの許可をもらった。

 許可が下りたと彼らに伝えると、浩介にも手伝って貰いたい事があると言うので共に地下倉庫へ。

 更には、自衛隊と浩介とで話し合いたいことがあるというセレスティアも同行する。

 扉を開かれ、暗がりの中で一人の自衛官が数歩前に出てから言った。



「外します」



 ほぼ同時に照明が灯り、倉庫中央に見えたのは迷彩模様のカバーが掛けられている大きな物体。

 すぐにカバーが取り外されて、一昔前の特撮ヒーロー番組に出てきた大型武器によく似たレーザーキャノンが姿を現す。



「……懐かしいな」



 いつの間にか一人の自衛官が隣に来ていた。



「辻本さんはこれを見るのは二回目、でしたか」


「ええ」



 会話とも言えない短い掛け合いの最中にも、自衛官たちはてきぱきと工具や計器、ノートパソコンを取り出して点検を始めていた。

 その光景を眺めつつ、浩介がどうしてレーザーキャノンを目にしたのが二回目だと知っているのか気になった。



「って、どうして私がこれを見るのが二回目だと?」


「私もあの場に居ましてね。あの時の辻本さんの鮮烈な戦いぶりは、今でも昨日の事のように思い出せます」


「そうだったんですね」



 と何とはなしに相槌を打ったが、浩介も当時の恥ずかしい記憶が蘇ってきた。



「あー……転びまくって非常に格好悪かったですよね。お恥ずかしい……」



 しかし、自衛官は首を振って澄んだ眼差しで言ってきた。



「命懸けの戦いに格好いいも悪いもありません。我々自衛隊の仕事なんかもほとんど表には出ないものばかりでしたが、それでも国を守る大事な仕事が山ほどありました。

 なので、自衛隊のような特殊な訓練を受けた事もなく戦場で堂々と戦った貴方を、私を含めここの者たちは皆、尊敬していますよ」


「……そ、それはそれで恥ずかしいですね」



 目を真っ直ぐ見れなくて逸らした先にセレスティア。

 意地の悪い目をしながら口元を綻ばせていた。

 何かを言われる前に話題を逸らそうと、ここへ来た理由に言及した。



「で、セレスティアは何か話があるんじゃ?」


「そうですね。浩介の初陣の話も興味深いのですが、ゆっくりする時間はここまでに致しましょうか」


「おいおい……」



 苦笑する浩介を見てから、自衛官と浩介に国民の避難場所と食糧について話し合った。

 避難先の候補をあげつらっていると、伝令が倉庫へやってきた。



「失礼します。陛下、お耳に入れておきたい事が」


「ここで聞きましょう。それとも、場所を移した方がいいですか?」


「いえ、それには及びません。ですが、念のため端の方へ」



 伝令はセレスティアに報告し、労いの言葉を賜って足早に出て行った。

 それから思案気に腕を組みながら彼女は戻ってくる。釈然としない様子だったので踏み込んで聞いてみた。



「何か困りごとでも?」


「そうですね……。有体に言えばそうなりますね」


「……俺が聞いても大丈夫?」


「というか、浩介にも聞いていただきたい事案かもしれません」


「ん?」



 部外者の自衛官の彼は席をはずそうと進言したのだが聞かれても問題ないらしく、セレスティアはお気になさらずと言って伝令からの報告を打ち明けた。



「今、城門の前で不審人物が私に取次ぎを願っているようなのです」


「ふうん?」


「一通の手紙を見せて、これを見せればすぐに伝わるはずだ、それを私に届けるように、と。いかにも怪しいので警備兵が断ったのですが……」


「……ですが?」



 そこで急に考え込むように歯切れが悪くなった。

 浩介、自衛官、そして浩介の順に目を動かし、短く息を吐いてから再び浩介の目を見て声を忍ばせるように小さく言った。



「十八年前のあの下水道では世話になったと、それだけでも伝えてくれ、と……」


「十八年前……俺がこの世界に来た時……まさかっ、あの時の?!」


「あの時の事を知っているのは私と浩介だけ。彼は一体何者で何が目的なのか……」


「……会おう。俺が護衛する。もし彼の正体が想像通りなら、今更ここに来た理由も知りたいし、セレスティアもその手紙とやらは気にならない?」


「……行きましょう。という事ですので、申し訳ありませんが少し席をはずさせていただいてもよろしいですか?」



 ずっと蚊帳の外だった自衛官にやっと言葉が向けられた。それを気を悪くするでもなく、快い返事がきた。



「構いません。どうぞ、行ってきてください」



 二人は得体の知れぬざわついた気持ちで城門まで急いだ。





 城門前で、一人の中年男性が門番と押し問答をしていた。



「火急の用件だというのがわからないのか。世界全体の命運が懸かっていると言っている」


「そうは言うがお前さん、魔物の襲撃があったなんて報告はこっちに回ってきてないんだ。耳を澄ませても、ほら、今は静かなもんじゃないか。

 いくら陛下が見目麗しいお方だからって、嘘ついてまで近づこうたってそうはさせられないんだよ」


「ちっ。さっきから堂々巡りで話にならない。確認するが、俺の言葉だけでも伝えてくれたんだろうな」


「一言だけならと許したあれか。これでも誉れ高きアレイクシオンの兵士だ、嘘などつかん。今頃はもう伝わっているはずだ。そろそろ伝令が戻ってくると……来たな」



 門番が城内に目を向けると、伝令に出した兵士が駆け足で戻ってくるところだった。

 それを待って、彼が伝言がきちんと伝えたかを直接問い質した。



「伝言は」


「ちゃんと伝えたが……一体なんなんだ?陛下の様子がおかしくなったが」


「ふっ、だろうな」



 鼻で笑ったのが不信感を煽ったようで、先ほどまで男性の相手をしていた門番の空気が張り詰めたものとなった。

 あからさまな不審者を相手にする時のように、いつでもベルトに巻いている剣を抜けるように片手を柄にかけながら射抜くような視線を向けて言った。



「……悪いが、ちょっと詰め所まで来てもらおうか」


「時間が惜しいと何回も言っているだろう。人間にそんな無駄な時間を過ごしている暇はない」


「その時間が無駄かどうかは後で分かる。大人しく一緒にきてもらうぞ」



 男性が頑なに拒否すると、門番は臨戦態勢を取ってじりじりと距離を詰める。

 これ以上は話が通用しないと見るや、男性はあからさまに残念そうに呟いた。



「あまり手荒なことはしたくないんだがな」



 言葉を耳にした門番二人は、いよいよ本性を現したかと、神経を研ぎ澄ませて剣を抜いた。

 互いに僅かな動きも見逃さぬよう、耳目を凝らすこと数秒。

 鳥のさえずりが聞こえたと同時に門番は勢いよく距離を詰め、顔の横に持って構えた剣の腹を彼に振り下ろす。

 男性は腰帯に隠していたナイフを逆手で引き抜いて、受け流そうとする。

 その時、



「そこまでっ!」



 声と同時に二者の間に音もなく割って入り、双方の刃を二刀の短剣で受け止めたのは女性。

 門番が女性の姿を認めると、驚いて一歩下がった。



「こ、近衛騎士団長っ!」



 アリスは門番の敵意が霧散したのを見ると、今度は男性に向けて話しかけた。



「どういう事情か分からないけど、今の世界情勢で人間同士が争うのはご法度だよ?」


「知っている。その人間に危機が訪れているかもしれないという話を女王に持って来たのだが、そこの頭の固い門番に止められてな。それでこうなった」



 すでに互いの殺気は失せ、どちらともなく刃を鞘に収めた。

 アルスメリアに訪れる外国の人間は少なくないが、投獄されかねない嘘をつくような者は一人もいなかった。

 故に門番も万が一を想定して伝言だけは許したが、その後の男性の不可解な笑みを見て対応を変えたというわけだった。

 その対応は間違っていないのでアリスは咎めず、逆に男性からより詳しい話を聞き出そうとする。



「その話は一体どこで聞いたの?」


「バケモノみたいに腕が立つシスターだ。その主サマとかいうヤツの手紙を預かっている。これだ」



 懐から一通の手紙を取り出し、アリスはすぐに裏面の差出人と封蝋を確認すると目を瞠った。



「これは、マリーさんから?でも、どうしてこんな回りくどいことを……正規の使者に託せない事情があったってこと?」


「なんだ、知り合いか?」


「子供の頃に一緒に遊んでくれた人だよ。……確かに、この封蝋は聖マリアス国教皇のもので間違いない」


「なら、届けてくれるか?」


「もちろん。でもその必要はなかったみたい」


「なに?」



 伝令が戻って来た時と同じようにアリスが後ろを向くと、セレスティアと浩介の姿が見えた。



「あれがこの国の女王さまだよ。……お兄ちゃーん、こっちこっちー!」




 向こう側からアリスの姿は充分に見えているはずだが、子供がはしゃぐようにアリスは飛び跳ねながら手を振ってアピールする。

 男性はアリスが女王を呼ぶのではなく、隣の男を呼んだことに違和感を覚えた。



「お兄ちゃん?女王を捨て置いて他の名を呼ぶのはどうなんだ?」



 この苦言は聞こえていないだろう。

 いつまでも飛び跳ねているので精神がバグったのかと不安になったが、歩いてくる二人の顔がはっきりと見える距離までくるとやっと落ち着いた。

 男性は女王の顔にあの時の面影を見て、次いで隣の男性へ目を向けると僅かに驚きが顔に出た。



「お前は、あの時の……」



 男性は思わず声を漏らすが、セレスティアは聞こえていない風に挨拶をする。



「お久しぶりです、と言えば宜しいのでしょうか。私は貴方の顔が見えませんでしたので、この言葉が正解かは存じませんが。とにかく、ここでする話ではなさそうですのでこちらへ」



 そう言って男性を城内に案内した。






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