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パンドラの壺~最後に残ったのはおっさんでした~  作者: 白いレンジ
世界ノ章 ~開いたパンドラの壺~
150/234

#150_C国の手先(3)


 銃弾は浩介の前の空壁に音もなく衝突し、跳弾することなくその場に落ちる。

 空壁を正面に張ったまま片足で地面を蹴ると、瞬きの間に文字通り一足飛びで三十メートルほど先の敵へ肉迫。

 誰一人として浩介に反応できない。

 敵の懐に入り込んだ浩介は、アサルトライフルを刀で斬り上げて両断。

 その時になってようやく敵は浩介を見たが、指一つ動かす前に再び目の前から消える。

 近くにいたもう一人へ向かい、刺突でこれまたアサルトライフルを破壊。

 そうして次々に武器を破壊して回り、十人目を越えたところでようやく敵が攻撃されている事に気が付く。

 周囲を警戒し出すが、まさに電光石火の如く武器を破壊して回る存在を捕捉するなど並みの人間である彼らにできるはずもなく、されるがままだった。

 およそ二十人が携行していた武器を全て破壊するまでに五秒もかからなかった。

 しかし、浩介はまだ止まらない。



「目的は武器の破壊じゃない。無力化。それに、こういう人たちは武器を奪われただけじゃあ大人しくならないからね。申し訳ないけど、腕の一本や二本は覚悟してね」



 空壁を解除し、今度は刀の刀身を覆うように薄く空壁を纏わせる。

 浩介の刀は生物に対して無力なので、空壁を纏わせることにより物理攻撃を可能にさせる。

 ナイフを構えだした敵の腕に向かって滑り込むと、上段から斬り下ろした。



「うがあっ!」



 骨の折れる感触が手に伝わる。

 心の中で謝りながら嫌な感触に顔を歪め、悲鳴を振り切るように次の標的へ。

 姿勢を低くして地面すれすれで飛び、脛を打ち付けて両足を圧し折る。

 悲鳴が二つ重なる。

 一瞥もくれることなく、次の敵に向かう。

 そうやって数人無力化した時に、浩介は足を狙って動けなくさせた方が良いと気が付き、次々に敵を立てないようにしていった。

 やがて全員を倒しきり、仕事を終えるまで十秒も要らなかった。



「……骨を折る感触が、まだ残ってる。ついこの間も同じことやっちゃったけど、あの時は正気じゃなかったからな……こんなにも気持ち悪いものだったなんて」



 立ち尽くして己が所業の末を、苦々しい顔で見下ろした。





 ワンボックスカーの中から、浩介の一連の立ち回りをカメラは捉えていた。

 無数の銃弾に穿たれていつ死んでもおかしくない浩介の姿が、倒れるのでもなく消えた。

 かと思えば、次々と敵の武器が両断されてガラクタになっていく。

 理解が追い付かず思考を止めていたリポーターの脳が働きだしたのは、武装集団が次々に地面に倒れ始めてからだった。



「ぶ、武装集団の武器がいつの間にか全て破壊され、こう話している今も人がばたばたと倒れていき……いえ、全員、倒れました。……なんと、そこに立っているのは、辻本さんただ一人だけです」



 戦闘中のリポートは一言で終わってしまった。

 これではまるで新人じゃないかと反省する傍ら、続きはしっかり仕事をしなくてはと奮い立たせる。



「正直、私の目には何が起こったのか分かりません。見間違いでなければ、銃弾の嵐に晒されているにも関わらず平然と立っていた辻本さん。これは一体どういうことなのでしょう。

 その直後に姿を消したかと思ったら、相手の武器が破壊しつくされて倒れていき、そして今に至りますが……。徒手空拳の身でどこに隠していたのでしょうか、彼の手には一振りの刀が握られています。

 姿を消し、再び現れるまでの数秒間、彼はどこにいて何をしたのでしょうか。まさか、あれを彼が一人でやってのけたとでも言うのでしょうか」



 そう言った瞬間、倒れていた武装集団の十数名が懐からハンドガンを取り出し、浩介へ銃口を向けた。



「だめっ!」



 武器はもうないと思い込んで安心しきっていたリポーターは、またもや人としての素の部分で叫ぶ。

その哀願は届かず、撃鉄が下ろされて弾丸が浩介に向かって発射された。





 そう、敵はハンドガンの銃口を浩介に向けた。

 その僅かな時間で十分だった。

 リポーターとは違い、まだ気を張っていた浩介の集中力は途切れていない。



「ふっ!」



 気合一閃。

 引鉄が引かれるとほぼ同時にその場で刀を力強く横薙ぎに振り抜くと、フィィンッという金属音のような鋭い音の発生と同時に、正面の広範囲に衝撃波が生み出された。

 それは弾丸を押し止めただけに止まらず、暴風に舞う木の葉のように巻き上げる。

 無論、正面で地を這っていた敵集団も無事で済むはずはなく、無形の重たい一撃を受けて吹き飛ばされた。



「がああああっ!」


「ぐうううっ!」



 衝撃波を受けた者の体はあちこちの骨が折れ、もはや指一本すら動かせず呻くだけしかできない。

 死者こそ出なかったものの、今度こそ敵集団は完全に無力化された。

 もう抵抗はできないと見た浩介は、刀を光の粒子に変えて消す。

 念のため、大空壁の縮小版で彼らを閉じ込めておく。

 これくらい小さなものであれば、久遠と協力しなくても浩介一人で作り出せる。

 予期せず空壁は銃弾も通さないと実証されたが、なかなかの収穫だった。

 これで一仕事終えた、と息を吐いて腰を下ろして自衛隊の到着を待った。





 刀を振り抜いた姿。

 その正面ではサッカーボールのように吹き飛んでいく人間。

 リポーターは確信した。



「私が思うに、信じられないことですが、これが芝居でないのだとすれば、彼の一振りは多数いた人間を吹き飛ばしたように見えます。

 これほど現実離れしたものの正体が何であるか、今すぐ辻本さんにお聞きして皆様にお伝えしたいのですが、武装集団がまたいつどこから武器を取り出すとも限らないため、それは後ほどという事になりそうです」



 それからは、間もなく自衛隊が到着する事や異世界の市井の様子を伝えた。

 話が一区切りしようという所で、南門から自衛隊の高機動車が吹かすエンジン音が数多く聞こえてきた。

 カメラを反対側へ向け、南門を映す。

 即座に話を切り替え、実況モードに入る。



「今、王都の南門から複数台の自衛隊の車両が出てきました。武装集団を移送するためでしょうか、真っ直ぐ辻本さんのいる場所へ向かって行きます」



 浩介の一閃で行動不能となった武装集団を回収した自衛隊は、浩介に対して敬礼するとそのまま王都へ引き返すのではなくベースキャンプへ向かった。

 危険が無くなったのでリポーターとカメラマンは浩介を取材するべく、車を発進させた。

 そして間もなく、テレビ局クルーが近づいていると知らなかった浩介は瞬間移動でどこかへ消えた。



「あっ!」



 浩介と連絡との連絡手段を持たない彼らにとってどうしようもできない事態であったが、視聴者からは放送事故として見られることは間違いなかった。

 予想される非難の声を少しでも和らげるため、口八丁で切り抜けようとした。



「私どもによる実況はここまでとなってしまいましたが、彼への取材はこの後も試みたいと思います。幸い、例の会議にも出席されていますので、折を見てお話を伺いたいと思います」



 そうして騒動の中継は終わった。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――





 某SNS。



「いやいや座り込んでる暇あるなら覆面外せよwそうしないの怪しすぎるw」


「それなw」


「映像作品説濃厚なったw」


「朗報:国を挙げて特撮ヒーロー番組制作。ついにオタクが主権を握る世界に!」



 浩介の立ち回りが却ってフィクションさを際立たせてしまった一方、牧内ディレクターの発言を知っていた一部の人間は違う反応を示し始めた。



「もしかして、あの試遊って選抜テストだったんじゃね?考えてみるとあんだけバカでかい装置、あのイベント以外じゃ置ける場所ないじゃん」


「確かにな。クロスリアリティ技術搭載のゲームテストっつってたけど、あれは実用化には程遠いわな。なのに、あの日だけのために設えたのは意味が分からん」


「ゲーセンに置けないし本社ビルにもアレで遊べるスペースないだろ。しかもあれだけの世界最先端の技術と機材。一つのゲームにどんだけ金かけたんだよ。資金回収できてないだろ」


「言われてみると不可解な事が多いな。テレビはあまり信用できないにしても、この後のウィールの発表は気になる」



 のど飴は大学の講義中、ノートを取る振りをしてスマホで中継を見ていた。

 SNSを開いてみんなの反応をチェック。

 牧内ディレクターの発言に対してのコメントを読んでいくうちに、あの日の事を思い出した。



「(テストプレイの抽選に当たったのはハイネガーさんと猫さん。二人ともその翌日からゲームにログインしてない。連絡しても繋がらないし、まるでこの世から消えたみたいに感じてたんだけど、まさか……)」



 中継動画のシークバーを操作して、何となく浩介の姿を画面内に収める。



「(うーん、これ、やっぱりハイネガーさんだよねぇ。すると、猫さんもどこかにいるってことかな?でもあの会議ではハイネガーさんしか見かけなかったし、どういう事なんだろ)」



 その時、猫又からメッセージの着信があった。

 少しだけビックリしたが、このタイミングで連絡してくるとなれば用件は一つ。

 画面に映った人物について話が出来ると思ってメッセージを開いた。



「(えーっと、なになに……。俺、異世界に行くことになったわ)」



 二度見して、



「はあああああああっ?!」



 素っ頓狂な声を出して教室内の目を集めてしまった。

 教授がじろりと睨んでどうかしたか?と言外に叱り、焦りながら謝って静かにする。

 溜め息を吐かれた後に講義は再開されたが、のど飴はもうそれどころではなかった。

 元々講義を聞いていなかったが。

 メッセージの続きはまだあり、読み進める。



「(続きは……なんか特殊な宝石の持ち主になると、中継で見たハイネガーさんみたいな動きが出来るかもって言われた。あのイベントが選別試験みたいなものだったんだって。

  俺はその候補に挙がってたけど定員の問題で落選してたらしい。んで昨日、政府のお偉いさんが職場に来て適正テストを受けた結果、みごと異世界行きが決定したってわけ。

  のど飴さん、あれが本当の事か知りたがってるかなって思ったから教えてみた。

  ちなみにハイネガーさんと猫さんが黙っていなくなったのは、この事を口外すると監視が付くってペナルティがあったらしい。

  今はそんな事言ってる場合じゃないていうか、逆に真相を広めないとダメな状況になったから緘口令っぽいのはもう無いんだってさ)」



 スマホで送るにしては長文のメッセージだったが、知りたい事の半分以上が書かれていたので有難かった。



「(緘口令が敷かれてたなら、二人が音信不通になったことも納得。あとは、ウィールの代表がどう発表するか、ね)」



 SNSで騒ぐ誰よりも、のど飴はそれを待ち望んでいた。






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