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#11_誘惑と体裁


「んじゃあ、一旦解散!またお昼にね!」



 猫又は小気味良く言い放つと、入口にいるスタッフからパンフレットを受け取って、人混みの中へ消えて行った。

残された三人は顔を見合わせる。



「それじゃ、俺たちも行こうか」


「だね」


「はい」



 イベント会場に入るなり、人混みの中へ消えて行った猫又に背中を押される形でそれぞれ散らばった。

 入場前にスタッフから配られたマップ付きのパンフレットに改めて目を通す。

入口のエントランスを起点に東棟・西棟への通路が延び、両方の壁際には上の階へ繋がるエスカレーターがある。

出展ブースについても分かりやすい区分けになっていて、大まかにでも見る順番を決めておけばスムーズに回れそうである。

 浩介はアークセイバーズの他にも、格闘ゲームが気になっていた。

場所を確認すると、背伸びをして人々の頭越しにブースの看板をチェックして回る。

会場内は浩介が想像していたよりも広く、ホールの中央あたりにあるはずの格闘ゲームのブースはなかなか見えなかった。


 途中、今後発売を予定されている様々なゲームのブースを通り過ぎたが、半分以上の割合で美女コスプレイヤーが立っていた。

彼女らの仕事はゲームの説明をしていたり、モデルとして立っていたり、パンフレットを配っていたり様々である。



「(なんて際どい衣装っ!視線なんて下げたら、このエロ親父っ、とか思われそう……)」



 と思いつつ、ドキドキする浩介。

本当は見たいけど、体裁を気にする心がギリギリ勝った。勿体ないと思いながら、通り過ぎる時に視界の端に収める程度に止める。


 さらに進んで周囲を確認すると、目的のブースは斜め前に見えた。

人が詰め寄っていて良く見えないが、背伸びしたり立ち位置を変えたりしてデモンストレーションを見た。

見終えると、パンフレットで他にも気になるところをチェックして見て回る。

そんな感じで思い思い見て回っていると、既に一時間が経過しようとしていた。

 スマホが震え、メッセージアプリを開く。



「えーっと、のど飴さんだ。ちょっと入口に集合?どうしたんだろ」



 良からぬ事でも起きたのかと気を揉みながら、とにかく入口へ向かうと既に他のメンバーは揃っていた。

全員が集まるのを今か今かと焦れていたらしく、のど飴がテンション高く話し出す。



「午後六時半から隣のホールでバリスタプロジェクトのライブやるんだって!」


「まじか!」


「それは見たい!」



 救世主の猫は声こそ出さなかったが、首がもげんばかりの頷きを返した。

詳細をのど飴に尋ねる。



「で、どこでその情報を?」


「バリプロとゲームと言えば、アレしかないじゃん?」


「夢の共演が売りのアレか」


「?」



 救世主の猫以外はすぐに思い当たったようだった。

ぽかんとしている彼女に猫又がゲームタイトルを教えると、口を開けて両手の平をパンと合わせた。

そのゲームをやったことはないが、聞いたことはあるようだ。



「ライブの時間からすると、多分それが終われば二十時近くかな。のど飴さんと猫さんは何時ごろまで居れる?」


「私は近くのホテル取ってるから真夜中でも大丈夫。ただ二人の試遊が終わった後、チェックインの為に一旦ここ出なきゃいけないけどね」


「えっと、夜九時半過ぎの電車に乗らないといけないので、ライブが終わったら帰らないとだめかもしれません……」


「まぁ九時までには大半の出し物は見れるっしょ。むしろ丁度いいかもね」



 浩介とのど飴は頷いて、救世主の猫の心を軽くする。

そこでちょっとした疑問が浮かんだ。



「ライブって、どこでやるの?」


「西棟の大ホールでやるんだって。試遊が終わったらスタッフがソッコー撤収作業始めて、ステージ設営するのかな」


「整理券とか必要っぽい?」


「わかんない。これからそこらへんの情報仕入れないとダメだね。もう配り終わってたら、私は血の涙を流すかもしれない」



 そこで猫又が行動を起こした。



「ちっとスタッフに聞いてくるわ」



 誰からの返事も待たないままホールを出て、すぐに人混みに紛れて見えなくなってしまった。

皆は無言でその見えない背中を見送ると、それぞれ目を合わせて言った。



「行動力ハンパねぇ……」


「あれはモテる部類の人間だわ」


「凄い……」



 猫又が戻ってくる間、それぞれでパンフレットを眺めたり周りの様子を見たりし始めてたが、中心的人物の猫又を欠いたことで若干気まずくなり始める。

ゲーム中でも猫又が会話をリードしていて、現実でもそれは変わらなかった。

この三人をまとめるには猫又の存在が鍵だという事を浩介は改めて感じ、それは恐らくのど飴も同じだろう。救世主の猫が、それを一番感じているかもしれない。

 浩介は自分からフレンド申請をした救世主の猫の様子が気になり、パンフレットを見ている彼女をちらりと見遣る。

 今の雰囲気を払拭したかった浩介は、救世主の猫に話しかける。



「何か見ておきたい場所ある?」


「あ、えっと、ここなんですけど」



 浩介にも見えるようにパンフレット寄せて、目的の場所を指さした。



「あー、このシリーズ最新作出るのか。俺はかなり前で時間が止まってるけど、今はどんな感じなんだろ」


「一番新しいのは凄く映像が綺麗ですよ。戦闘もシームレスでロード時間が無いですし、オープンワールド並みにいろんな場所に行けちゃいます」


「そうかぁ。俺はキャラが2Dの頃しかプレイしてないから、想像つかんなぁ」


「その頃と比べると、声も付いたり操作がアクションゲームっぽくなってますから、もしかしたら別のゲームと思ってしまうかもしれません」


「最近は、昔から続いてるシリーズが急に別方向に舵を切るからなぁ」


「私も、バトルがターン制からアクションに切り替わった時はかなり戸惑いました。本当に続編をプレイしているのか、パッケージを確認してしまったほどです」



 我慢できず、浩介は思ったことを言った。



「猫さん、このゲーム好きなんだね。めっちゃ喋るし」


「っ!」



 救世主の猫は声にならない悲鳴を上げて、顔を真っ赤に染めた。

これまで黙って様子を見ていたのど飴も、たまらず黄色い歓声を上げる。



「かっわいーなー!食べちゃいたい!食べていい?」


「百合ですか?」



 会話が盛り上がって、安堵した。

多分それは浩介だけでなく二人も同じだったようで、笑顔に無理している感じは見当たらない。

 そこに猫又が帰ってきた。



「何?何があったん?」


「猫さんも好きなものに対してはすっごい喋る人だったって話」


「へえ、何が好きなんだろ?BLゲーかな?」


「猫さんに変な印象持つのやめて!それより、どうだった?」



 のど飴が猫又に戦果報告を催促した。



「整理券、必要ないってさ。ただ開演三十分前には扉を締め切るから、見るならそれまでに中に入ってくれって」


「良かったー」


「そんじゃ、ライブ終わったら猫さんを見送るべ」


「そうだね。その時間になると再入場はもう出来ないから、出口までしか見送れないけれど」


「す、すみません」


「ということで、引き続き目一杯堪能するとしましょうか!」



 オフ会とイベントは制限時間付き。

ゲームは帰宅してから一緒に遊ぶことは出来るが、今日という少し特別な日を全力で楽しもうと胸に刻んだ。






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