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パンドラの壺~最後に残ったのはおっさんでした~  作者: 白いレンジ
異世界ノ章 ~運命の出会い~
106/234

#106_ VS 適正者(2)


 亜戯斗に入った斬撃は、バリアのおかげで体が真っ二つになることはなかった。

 が、全くのノーダメージというわけではなく、木刀と同等の威力はある。

 そして、暇を見つけては鍛錬を続けていた浩介の斬撃は、充分な威力を持っていた。



「ぐっ!」


「ふっ!」



 振り抜いて再び吹き飛ばし、吹き飛ぶ亜戯斗へ追撃を掛ける。

 袈裟斬り、一文字斬り、逆袈裟、と繰り出すが、亜戯斗はどうにか双剣で防ぐ。

 壁際まで追い詰められて尚も繰り出される斬撃を双剣で受け続けるが、すべては捌ききれず腕や脇腹に食らう。



「っざけんなあっ!」



 やられっぱなしなのが我慢ならず、強引に前蹴りを出す。

 反応できなかった浩介は下腹部に直撃をもらうが、距離が開いていたので大きなダメージにはならなかった。

 突然の反撃に一瞬怯んだその一瞬で、亜戯斗は態勢を整えて攻防が逆転する。

 双剣による手数の多い攻撃が繰り出される。

 が、対する浩介も刀で受け流してカウンターを狙い、それを亜戯斗が双剣で受け止めて弾き、攻撃に移る。

 人外の速さの攻防が続いた。






「一体、どういうトリックなんだろうねぇ」



 マリーレイアと竜也の間には誰もいなかったはずなのに、瞬きの間に光と共に修道女が割って入り光弾が防がれた。

 わけが分からなかった。

 とりあえず、もう二、三発の光弾をシスターへ向けて放つ。

 先程と同様、シスターの掌の手前でカンッという甲高い音を立てて光弾は弾け飛んだ。



「まったく物騒な武器ですね。私や天使さまでなかったら死んでましたよ?」



 心底そう思っているらしく、真顔で言いながら歩いて詰め寄る。

 飛び道具を持つ竜也は、接近させまいと足止めに光弾を見舞いながら部屋の中を右往左往する。

 その様子を視界の端で目に留めた浩介は、念話でシスターに注意を促す。



「(あまり部屋中をうろつかれるとマズイ。下手をしたらマリーレイアたちを人質に取られる)」


「(あ、そうですね。申し訳ありません、気を付けます……)」



 シスターは詰め寄る足を止め、再びマリーレイアたちを背に庇って立つ。



「……おやおや?急に元の場所に戻るなんて……あ、そういう事ねぇ」



 意図を見抜かれたが、特に問題は無い。

 竜也の攻撃はシスターに通用しない。

 ならば、このままこちらに引き付けて浩介が亜戯斗との戦いに専念できるようにしておく。

 これが最善、そう思った。

 何を思ったか、竜也はふと銃口を下げた。

 戦意喪失かと疑った瞬間、その銃口はシスターへ向かず、竜也はつま先を浩介へ向けて銃を構えた。



「しまった!(天使さまっ、そちらに攻撃が)」



 短いシスターの叫びと同時に、いくつもの光弾が連射された。

 常人の目では捉えられない速さでの攻防を繰り広げていた浩介は、亜戯斗を正面に据えたままでも光弾が見えているかのように咄嗟に飛び退いて躱す。

 しかし、一発だけは鼻先をかすめて一筋の傷が作られてしまった。

 念話という、一瞬で相手のイメージの相互伝達が行えるスキルがあったればこその連携だった。



「ありえねー、こっちは見えてないはずだろ」


「大人しく食らっとけよクソがっ!」



 悪態を吐きながら飛び退いた浩介へ追いすがるよう距離を詰め、再び双剣を交互に斬りつけて手数で押していく。

 やや体の軸を後ろにずらされた浩介は打って出れず、徐々に後退しながらの防戦を強いられた。

 その好機を逃してたまるか、と竜也は再び浩介へ向けて狙いを定めるが、その隙をシスターは突く。



「させませんっ!」



 地面を思い切り蹴って一気に竜也へ肉迫する。

 アサルトライフルの銃口は浩介の頭部を捉え、トリガーが数ミリ引かれた瞬間、シスターはアサルトライフルを真横から殴りつけ、光弾はあらぬ方向へ放たれた。

 光弾は壁を穿って霧散する。

 これまで飄々としていた竜也だったが、邪魔された事が癇に障ったようだ。

 眉間に皺を寄せて怒気を孕んだ声を浴びせる。



「だから、てめぇは何なんだってコスプレ女」


「私は神さま、主さま、そして天使さまの御心と共に在る忠実な使徒。その方々の御心に従い、全力で邪魔をさせていただきますっ!」



 竜也の顔面目掛けてアッパーを繰り出すが、銃身でガードされた。

 だが、勢いは殺しきれずにアサルトライフルを持つ両腕は上に弾かれた。

 がら空きになった胴体へ左の拳が打ち込まれた。



「がふっ!」



 強引に息を吐き出されながらも、次の攻撃の備えてアサルトライフルを斜に構えてガード態勢を取る。

 構わずにシスターはその上から乱打を浴びせる。



「くっ!なんだってただのコスプレヤローがこんなに強いんだよ、霊長類最強かぁ?」



 圧される中でもどうにか攻撃の隙を見つけ、体を横転させてその場から逃れる。

 シスターは視界から消えて転がる竜也を再び見つけた時、すでに銃口が向けられていた。

 とにかく、どこでもいいから当たれと願ってトリガーを引く。

 光弾は真っ直ぐシスターの腹部を貫いた。



「くふっ……!」


「なんだ、当たるじゃん」



 顔を歪ませて痛みを堪えるシスターへ向けて、これでもかというくらいに光弾の雨を見舞ってやろうとトリガーを引き続ける。

 拳と腕で凌ごうとするが、体のあちこちに黒い点が作られていく。

 シスターの防御は両腕しか機能しない。雨あられと撃ちつけられてしまうと、防御は困難を極める。

 できるだけ的を小さくするためにしゃがむ。

 だが、これでは解決にならない。

 ちらりと浩介を見ると、彼も同じく猛攻を受け続けていた。



「(天使様さま、このままではこちらが持ちません。何か手立てを考えなくては……)」


「(大丈夫、危なくなったら俺がサポートするから。それより、攻撃できそうでも必要以上にこいつらを追い詰めないで。窮鼠猫を噛む、こういう手合いは追い詰められたら何をしでかすか分からない。

  今はあの二人を待って、それから仕掛ける)」



 それが虚勢なのか本心なのかは分からなかったが、命令に従って無理に攻撃に転じようという考えは捨て防御に専念する。









 真っ白な空間で目を覚ます。

 夢かとも思ったが、やけに意識は鮮明。でも明晰夢みたいに自由にできるわけではなかった。

 直前の記憶、プレートに手を乗せたところまで覚えているが、何がどうなってこのような場所にいるのか見当もつかなかった。



「ここは、何?」



 さっきまで掠れて出辛かった声が、嘘のようにはっきりと言えた。

 その問いかけに答えるように、真っ白な空間が波打った。



「ここは私たちの意識の中枢。あなたを待っていました」



 全方位から聞こえてきたその声は、誰かに似ていた。

 誰だろう。

 そうだ、ママっぽい。

 けど、違う気もする。

 あの目元しか見えない人のようにも聞こえる。



「誰?」


「難しい質問ですね。部品として消耗された人の意識の集合体……あなたに分かり易く説明するのであれば、妖精、と言ったところでしょうね」


「妖精……なんでわたしはここにいるの?」


「それは、あなたが自分の意志で私へと繋がる道にアクセスしたからです。あなたにはその素質がありました」


「素質?なんのこと?」


「それは、あなたが生まれる前に得た特別なもの。そして、受け継がれていくもの」


「……よくわからない」


「今はそうでしょう。ですが、私と一つになった時、全てを理解できます」


「それって、わたし死んじゃうの?」



 一つになる。

 それは二つのものを混ぜ合わせる事。

 半分は私で、半分は違う。

 体を半分にされて生きているとは思えなかった。



「いいえ、私の全てをあなたが受け入れるのです」


「……体が破けちゃわない?」


「いいえ、破けません。あなたはそのままで新しい知識と使命、義務が与えられます」


「使命?義務?」


「まだ幼いあなたが理解するのは難しいでしょう。ですが、それも私を受け入れれば自然と理解し、行うべき事を行うはずです」


「……やっぱり、よくわからない」



 ここにいる十歳前後の少女は、五歳からの五年間をほぼ人と接する事もなく教育を受ける事もなく過ごしてきた。

 故に、少女の知識や理解力は未だ幼いまま。

 それも見越したうえで、声の主は話しかけている節があった。



「心配する事はありません。あなたの体は今と変わらず、知らない事が分かるようになるだけです。そして、新しく得たものは誰かを助ける力にもなる。誰かを助けたくはありませんか?」


「助ける……」



 ここに来る前の広間で会った人たちを思い出す。



「わたしを守るために、あの知らないおじさんは戦ってるんだよね」


「ええ、その通りです」


「わたしがここで何もしなかったら、あのおじさん、しんじゃうの?」


「その心配はありません。でも、世界は不幸で満たされます」


「なんで世界が?」


「何もしなければ、あなたは何も出来ない一人の少女として生涯を終えます。その果てには、多くの死と飢えが待っています。

 ですが、ここで私を受け入れたなら、その不幸になるはずだった世界を変えることが出来ます。そしてその理由も、今はまだあなたが理解できないものの一つです」


「……やっぱり、よくわからない」


「そうでしょうね」



 空間に響く声のトーンが少しだけ残念そうにトーンが下がった。

 しかし、マリーレイアはそれに気付かず、続けた。



「でも」



 少女の反語に、真っ白な空間が少し揺らいだ。



「ここで何もしなかったら、パパとママにがっかりされちゃう。それはヤダ。だから、よくわからないけど、苦しくないなら、やる」


「……あなたは優しい子ですね」



 声は優しく少女を褒めた。

 照れくさそうに唇を軽く噛みながらそっぽを向いて「ん」と小さく相槌を打った。

 そして、声は告げる。



「では、早速始めましょう。体の力をすべて抜いて、目を閉じてください」


「ん」



 言われるがままにすると、瞼の裏からでも分かる程に強烈な光が差し込んだ。

 一瞬だけ体を強張らせたが、すぐに言われた事を思い出して体をリラックスさせる。

 大丈夫、どこも痛くない。

 それが安心に繋がったのか、一層リラックスしたその時、瞼の裏は暗転した。

 そして、声がした。



「もう、目を開けても構いません」



 恐る恐るゆっくりと目を開けると、目の前に聖石があった。

 そして、マリーレイアを心配そうに見つめる犬の双眸。

 少し離れた場所から、金属同士が激しくぶつかり合う音。

 いつの間にか現実に戻ってきていた。

 そこで、ふと違和感を覚える。



「(あの覆面の人がいない?)」



 不安そうに体を起こして周囲を見渡すが、どこにも占い師の姿はない。

 心細くなる。

 その時、聖石が柔らかい光を放った。



「マリーレイア、よう頑張ったの。おかげでわしも元通りじゃ。感謝する」


「え、どこ?」



 きょろきょろと首を振るが、やはりどこにもいない。



「わしの力は聖石と繋がっておっての。今まではある事情でこれから離れる時間が長く続いてしまって、満足な力も使えんかった。

 仔細は省くが、聖石とわし、そしてマリーレイアが揃った今、ようやく固有能力が使えるようになった。

 早速じゃが、おぬしの力を見せてもらうぞ」


「どうやればいい?」


「しっかりと今を認識すれば、それだけで見えてくるはずじゃ」



 何が見えてくるのか分からなかったが、言う通りに繰り広げられている戦闘に意識を集中してみる。

 すると、激しく剣を交えている二人の動きがピタリと動かなくなった。

 物音はおろか、息遣いすら全く聞こえてこない無音の世界。

 天井から糸で吊るされていると言われても信じてしまう、宙空のその場で浮かび続ける光弾。

 時が止まった。



「……え?」



 止まっている浩介たちの体から非常にゆっくりと分身のようなものが生まれ、それらは本体の代わりに非常に緩慢な動きで攻防の続きを繰り広げ始めた。






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