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#10_イベント当日


 イベント当日、午前八時を少し過ぎた頃。

 ゲームスペース2025会場の最寄り駅構内は、出口が見えない程に多くの人でごった返していた。

近代的に改装された駅の中は、改札を出ると広いエントランスになっている。

 浩介はすし詰めの電車やっとのことで降り、見渡す限り人の頭だらけの駅構内を人の流れに合わせて歩いていた。

ようやく出口と表記された看板の下を潜り抜け、街の外観を目にする。

駅を出た先の広場には、木が植えてあったりコンセプトが不明な像が建っていた。

 人混みの中を縫うように、広場にあるバーコードヘッドで中腰になり、右手の指を鼻元へ「ペッ」と当てている像を目指した。



「失礼しまーす、通りまーす」



 申し訳程度に声をかけながら進み、その像にたどり着く。

一息吐くと、マナーモードになっているスマホがジーンズのポケットの中で振動した。

猫又からだった。



「もしもしハイネガーさん、着いた?」



 おかしなことに声が猫又の声がステレオで聞こえる。

滅多にない経験だが、この現象には心当たりがある。

 スマホを耳から離して左を見ると、ほぼ目と鼻の先の場所からスマホを耳に当てながら浩介に向けて手を上げている三十代男性がいた。同じく手を上げて応答し、合流した。

身長は180センチほどで、短い髪をワックスでスタイリッシュに逆立てていた。

ジーンズにダウンジャケットで、ジャケットから覗く白地のプリントTシャツの上から筋肉質な体格というのがわかる。

非常に整った顔立ちで、俗にいうイケメンと呼ばれる部類であった。



「おはよー、ハイネガーさん」


「おはよう、猫又さん」



 浩介は少し首を上げて猫又の顔を見ながら言った。



「今来たばかり?」


「そ。多分ハイネガーさんと一緒の電車だったんじゃね?」


「そっか、あとの二人は……」



 先程出てきた出口を見ると、駅は一旦は人を吐き出し終わったようで人の流出は止まっていた。

同じ方向を見ていた猫又に確認の意味合いを込めて言う。



「もしかしたら次の電車かもしれないけど、この地には不慣れらしいから迷ってるかもしれない。電話かけてみようか?」


「だね、そうすっか。じゃあ、俺はのど飴さんにかけてみる」


「オッケー」



 浩介は救世主の猫に電話をかけてみた。

連絡先は以前のゲーム中にお互いに交換し合っていた。

呼び出し音が数回鼓膜を打ってから、ごわごわとした風の音に混ざって救世主の猫の声が聞こえた。



「も、もしもし」


「あ、猫さん大丈夫?もしかして着いてる?」


「た、多分、駅はここで合ってると思うんですけれど、人がいっぱいで自分がどこにいるのか……あ」


「ん?あ、もしかして見つけたっぽい?」


「は、はい」



 浩介が周囲を見渡すと、通話しながら歩いている一人の女性と目が合った。

背中の中ほどまである黒髪を後ろで一つに結って、頬あたりまで綺麗に垂れた前髪、眼鏡はかけていないが図書委員のような雰囲気の二十歳前後の小柄な女性。

服装は落ち着いていて、ベージュのロングスカート、同じ色で揃えたブラウスに白いジャケットを羽織り、小さめのハンドバッグを肘に掛けていた。

 彼女に向って手を振ると、お辞儀を返してきた。



「猫さんだよね?」


「は、はい。お手数かけてしまってすみません」


「全然。慣れてない土地ってのもあるかもしれないけど、この駅、出口いくつもあるからめっちゃ分かりにくかったでしょ」


「は、はい、少し、不安でした」



 恐縮している気持ちを解そうと、幾分か和らかい口調で話しかける。

その甲斐あって緊張は程よく解けたようだ。

 浩介は横でのど飴と連絡を取っていた猫又の様子を窺う。視線に気付いた猫又は、ある方向を差して言った。



「のど飴さん、秒で着くよ」


「やっほー。待った?」



 人混みから急に姿を見せた女性は、にこやかに挨拶をしてきた。

ジーンズに薄いブルーのフード付きパーカー、背中には小さめの青いリュックサック。短く肩で切りそろえられた茶色の髪。

きりっとした顔立ちで身長は浩介と同じくらい、そしてスレンダーな体型も相まってスポーティーな印象を受ける。

そんな彼女は、救世主の猫を一目見た瞬間に叫んだ。



「うわっ、ちょーかわいい!何このいきもの!」



 説明するまでもなく、救世主の猫に対しての誉め言葉である。

のだが、猫又がひょっとこみたいな顔をしておどける。



「えーそんなことないよーネコピーチョーウレピー」


「今の猫さんのマネのつもり?ふざけるのも大概にしてくれない?バカにしないで」


「じゃあ会場に向かおうか」


「え、あ、えっ……」



 二人のやり取りをさらりと無視して移動を促す浩介。

ぞんざいな扱いを受けた猫又を見て反応に困る救世主の猫だったが、その逡巡は一瞬で、のど飴と浩介について行く。



「ちょ、待てよっ!」



 イベント会場が近づくにつれ、向かう先の出来事を想像して心が躍る。


 イベント会場は3階建ての建築物。

東棟と西棟は広い渡り廊下で繋がっており、敷地全体も控えめに言ってかなり広大。

その中は大小様々な大きさのホールが連なっている。

今回のイベントは1階が企業スペース、2階が物販スペースと生配信用のスタジオブース、3階が関係者控室という区分けがされている。

 基本的に一般来場者が3階に上がることは禁止されていて、そこへ繋がる通路には警備員が立っている。


 浩介たちにとって今日の目玉は、何と言ってもやはりテストプレイである。

開発元のウィール株式会社はアークセイバーズ関連でブースを二つ設けていて、一つは出演声優と開発関係者による番組ブースで、その模様はユアムーヴという動画配信サイトでリアルタイムで見ることが出来る。

 もう一つは、公式サイトの発表直後にニュースになったクロスリアリティ技術を用いた体感型ゲームの試遊会場。

それが行われるのは、1階で一番大きいホール。

 通常、一つのレイドボスに対してゲームプレイ人数は12人となっており、当選者50人が全員同時にプレイする事は出来ない。

単純に考えると毎回12人で試遊するのであれば、二人あぶれてしまう計算だ。

しかし、今回は一度に試遊する人数を8人に設定し、残りの二人を例外的にどこかのパーティに組み込むらしい。

だったら、最初から当選者数を割り切れる数にしておけばいいのでは、と思うが、運営の都合もあるのだろう。


 試遊のグループ分けは事前に行われていて、運営からのメールで当選者は自分が何時から行われる試遊に参加するのかメールで知らされていた。

それぞれのグループで受付時間が異なる。

 浩介の受付開始時間は午後の1時30分から。それまではご自由に当イベントをお楽しみくださいという事だった。

 救世主の猫も同じグループだった。


 とりあえず、昼食までは自由行動。

2階に軽食を販売する出店があるようなので、昼食時には集まってそこを利用しようということになった。

 大まかな行動予定を立てながら浩介たちは会場にたどり着き、人で溢れかえる入場門を流れに合わせてゆっくりと潜った。






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