異世界召喚されたら出戻りネイティブらしい ①
異世界転移あるあるで呼ばれたものの、という感じでどうやら問題が発生してしまったらしい。
その対象はどうやらわたしはのようだ。
やめて欲しい。
ホントやめて欲しい。
重要だから2回もいってしまうくらいにはトラブルは求めていない。お菓子の新味が発売されても結局香料の違いしかないんだからと我慢して手を伸ばさないくらいに非冒険者具合なんだから。
安定志向だし誰かが石橋叩いて渡った後じゃなきゃ絶対に渡らない派で最後や残り物だって嫌なくらいなんだ。見知らぬ地で独力で切り抜けるなんて無理無謀御免被りたい。
日曜日のデパートのエレベーターにたまたま居合わせた5人が異世界からの呼び出しにあい、王族と神官により国を救うようにお願いをされた後のステータスチェックを上手い具合に1番目を避けて3番目に受けている最中だった。
前2人は男子学生で友人同士らしく公表されたのは賢者と英雄だった。
わたしも前の2人と同じようにステータスカードを配布してくれる神官の元へと向かい無事3番目をゲットした。後の2人は成人男性そうなペアなので間に割り込まなければ最後にされちゃうって考えたんだ。
残り物に福はない!少なくともわたしはそう思っている。
彼らはとても紳士で会釈してわたしに順番を譲ってくれた。
偉そうな神官に渡されたステータスカードを触れて表示させた。血のいらないタッチ式とは今時ですね。わからないけど。
種族:異世界からの出戻りエルフ
とだけ表示された。
どういうこと?
さっぱり理解できない。
これって転移じゃなくて転生ものだったのかなとかまで考えた。とりあえず間違いの可能性もあるので「よくわかりませんでした」といって神官にみてもらう。
公開されるのは職業だよね。だって賢者と英雄は種族じゃないと思うし。
でも異世界だしひょっとしたら種族もあるりえるのかなと考えていたらわたしのステータスカードをみた神官と手元を覗く王族の健康的な顔色がさぁっと血の気が引いて顔面真っ青になった。
「我がエターナル国はエルフとは良き仲を変わらずこれからも維持し続けることを約束申し上げる。まさか異世界からエルフが呼ばれてくるとは考えてもいませんでした。大変申し訳ございません。なのでどうか国や世界を滅ぼさないで下さい」
王族男性がいきなり土下座をすると周囲の神官や護衛騎士らも一斉に土下座する。一緒に呼ばれた異世界人の男性4人は引き気味にわたしを見る。
わたし何もしてませんよ。
「あの、手違いでしょか?お呼びじゃないなら帰らせてもらえないでしょうか。予約してる握手会に行きたいんです」
土下座対応にすごく居た堪れなくはなったけどいわなければいけないことってあるので意思はしっかり主張しとく。3ヶ月前に予約した推しの握手会は絶対に行くと決めてたのだから。絶対に誰かと一緒になんて行かないで終生握手の思い出を目玉に焼き付けたままでいる気で、むしろおひとり様最高状態の万全の大勢だったのだから。今は戦闘準備段階に近いのだ。
異世界うんちゃらかんちゃらはビックリして聞いてたけれど冷静になって考えてみたらかまっちゃいられないってのが本音です。帰れるならば当然帰りたいです。
暇じゃないんです。用事ありですから。
「異世界への送還は同じ世界同じ場所同じ時間へは技術的に確立しておりません。ですがエルフとの伝手をつなぐ手伝いでしたら可能なので今すぐにでも近くのエルフの郷へ送らせていただきます」
「えっ帰れないの?それにエルフに対応ポイ捨てしちゃう気ですか?嫌です、誠意を見せてください。具体的には慰謝料くださいですよ」
異世界のエルフが親切とは限りませんからね、お金で安全は買えるだろうし。むしろお金がない方が不用心だろう。女の身だからこそやはりお金は持っていないとね。色々必要になってくると思うし。お金は身を助けると思う。
「慰謝料ですねもちろんで御座います。此度の異世界召喚に関してはエルフの召喚はワザとではなくて事故であったとエルフの方々にも口添えをしていただきたくお願い申しあげます」
地位だけじゃなく気位の高そうな成人男性が初見の女相手に下手にでるなんてよっぽどなんだろうなとは察するものがある。人間?よりエルフの方が国?世界?での立場が強いんだろうなとか。
「どうしょうかな。金額次第だと思うけど」
「エルフの寿命にそえるだけの金額は用意できませんが大金貨20枚でどうでしょうか。人間であれば10年暮らせるでしょう」
「10年か、なんか微妙だね。慰謝料は国によってかなり差があるからそんなもんなのかな。ゲーム的思考ならなにもないはじまりじゃないだけいいのかな?」
もっと吹っかけたい気もするけど変な恨みを買いたくない方が強い。異世界とはいえ人の暮らしでかかる10年分の費用って結構なお金だよね。
「わかった。大金貨20枚でいいよ。曖昧にしたくないから今この場に用意して欲しい」
「かしこまりました」
王族は土下座のまま側にいる人に指示を出して用意させてくれるらしい。指示された人は土下座をやめて中腰の姿勢でそそっと立ち去った。用意してくれると信じたい。嘘つかれてたらどうしようと思うがどうにもならないな。せめて現地のエルフに思いの丈を伝えるのみになるだろう。なんらかの能力に目覚めたとかがない限り。ちなみにエルフってどんな能力があったっけ?緑系な感じだったかな?ちょっと曖昧だから思い出しておこう。
王族や神官や護衛の騎士たちは土下座のままだがそのことをやめさせるつもりはない。土下座はしたくなくなったらやめるだろうと思っているからだ。エルフ怖さによるいわば謝罪してますのポーズだろう。異世界において異世界召喚が悪いかどうかはわからないが少なくとも異世界人に対して人権を考えることなく呼びつけるあたりからして異世界人は低く扱っていい存在なのかもしれない。
ステータスカードでのトラブルでハズレを引いた気がしたが転移なのか転生なのかはわからないけど種族ガチャ?的なのは当たりだったのかもしれないと思い直す。
現地人はいいとして他の召喚された人はとみると男子学生2人はきゃっきゃっと魔法やスキルの練習をして楽しんでいるようだ。分身的な当て身とか氷の魔法とかを繰り出している。
成人男性2人組はというとチラッとみただけで目があった。順番を譲ってくれたし無視するのも悪いので軽く頭を下げる。
「お待たせしてしまってすみません」
自分ばっかりに時間をさくのは悪い気がしたが後の人に順番を譲ったらなあなあにされて慰謝料をもらえなくされそうな気がするからお先にどうぞなんていうつもりはない。
「いえいえ謝らないでください。こちらは呼ばれただけで全然悪くなですし」
「それにどうなるかが気になるので気にしないでください」
成人男性2人は待つことに怒る様子もなくむしろ様子見したいということらしい。
なかなかに堅実だと思う。わたしもそちら側の立ち位置でいたいくらいだ。
どのくらい時間が経ったのかはわからないがただ突っ立ったままでいると足が痛くなってきた。1時間くらい過ぎたんじゃないかな。異世界召喚の影響からかスマホは電源が入らなくなってしまっている。これは5人全員同じらしい。わたしとしては推しの画像が失われてしまったのが許しがたい。スマホの故障は慰謝料の範囲内だろうか。捨てたくないからそのうち誰かのなんかスゴイ能力でスマホ復活しないかな。
指示を受けた人が立派な衣装を着た男性を引き連れて戻ってきた。自信ありな表情をしてる、王族かな?
「お待たせ致しました。慰謝料の大金貨20枚です。それとエルフに事情を伝える手紙です。この手紙をエルフの郷でみせるといいでしょう。エルフならば貴女を手厚く保護してくれるでしょう。城門前に馬車を用意致しましたのでエルフの郷へ向かわれてください」
渡された大金貨の入った袋と手紙を受け取る。
ちょっといいですか?と傍観していた成人男性2人組が割って入ってくる。
「女性1人を別行動させるのは心配なので付き添いたいです」
「エルフが信頼に値するなら同行者が増えても問題ないだろうしな」
なるほどついてくる気ですか。
善意を盾に城外脱出を選択する気なんですね。
「エルフは強い同族愛にあふれておりますが多種族へはそれなりの対応をする種族です。ですから会うのはおすすめしません」
おそらく説得は無駄だ。成人組2人は召喚による誘拐を行った犯人のいうことを信じていないのだろう、皮肉にも被害者の笑顔がそれを物語る。
「かつて人族はエルフをさらい奴隷としましたが報復として人族の住まう地から緑地を取りあげました。人族は飢えて当時の人口の9割は餓死したと伝えられています。現在も土地の緑地化はエルフが握っております。エルフは人間が嫌いなので人種である異世界人もおそらくは良い印象はもたれないでしょうからエターナル国に留まることをおすすめします」
「エルフとの関係が大事ならばこそ同じ世界から一緒に来た彼女が安全に辿り着き受け入れられたかを確かめねばならないでしょう」
「そりゃそうだ国を救う願いで呼ばれたんだからな救う価値があるかを知るべきだろし」
「…わかりました。では2人は同行するということで」
話がまとまったかと思ったら土下座している神官がステータスカードをチラ見せする。
「儀式の途中だったようだね。ステータスカードの登録を済ませてしまおうか」
「それはどうしても今しなくてはならないんですか。あとでは無理なのですか?」
「こちらのお嬢さんへの対応がどう考えても先じゃないか。俺たちがステータスカードを作ったらその間待たせることになってしまう。順番としては追い越すかたちになる。エルフに心象を悪くするだろ」
「ステータスカードは身分証でもありますから異世界人の貴方がたが困ることになるだろう。ちょっとだけでいい待ってはもらえないか」
さも待って当たり前だよなと話しかけられた気がする。
馴れ馴れしすぎ。
初対面だぞ。
お願いならばもっとへりくだってよくないか?もしやお願いじゃないのか。
そうか、そうなのだろうお願いではないと。ならなおのこと態度でかくないですか?自己紹介もまだなのに。というかここにいる全員が誰かもわかっちゃいないので今更っちゃ今更だね。そして一瞬でわたし舐められすぎじゃないですか?男尊女卑ですか?下にみられてますよね?
失礼なんじゃない?すごくムカムカとしてきます。
「それってわたしに待てってことよね。嫌に決まってるじゃん。ずっと立たせられてて足痛いし。スマホは壊れたし最悪なんだけど。はやくエルフに会わせてよ。これ以上1分1秒たりとも待たせたりしないで。足痛い、足痛い、足痛い、足痛い、足痛い、足痛い!
絶対エルフに告げ口してやる」
まだまだいい足りない気がしたけど様子見してみる。後から来た一人立ってる王族?な男はギョッとした顔でわたしを見てる。
「…足が痛いのなら神官に癒しを受けるといい」
「触んな変態」
「さあもう行こう。馬車を準備してるというし」
「そうだ急ごう」
成人男性が背中を微かにそっと押してうながす。なのでそのまま出入りのあったドアへと進んで出る。どっちにどう進めばいいかなんてわからないがな。
それからはできるだけ駆け足で城内の下働きそうな人に城門前の馬車乗り場について聞いてまわった。
結果わからなかった。
馬車乗り場にエルフの郷行きの馬車を用意してたのかすらわからない。とりあえず平民の役人がつかえる平民街行きの乗り合い馬車に乗車する。座席スペースは小さなバス並の大きさがある。3人がけの座席が6つある。そこにわたしを真ん中にして3人で座る。
誰も何も話さない。
さほど待たされずに馬車は出発する。
誰かに引き留めらることもなく迷いに迷ったがまあなんとか城からは脱出できた感じだ。心臓はバクバクだが。
出発してから気がついたが馬車には8人の乗客がいてどの人も服の上からでもわかるムキムキの鍛えてる筋肉がうかがえた。つけられてた?とも考えたがこの人方はわたし達より先に乗ってたよね?乗ってたといって欲しい。周り見てる余裕なかった。失敗したなと思った。
目的地に着いたのか成人男性が「降りよう」と声をかけてきた。異論はないので降りることにする。他の乗客も皆降りてるので他に停車場はないのかもしれない。
降りて見渡すと馬車専用でターミナルのような造りになっている。
なるほど、なるほどとみていると「エルフの郷行き」と書かれたバス停のようなのがある。
痒い所に手が届く感じで便利なのか飛んで火に入る夏の虫的におびき寄せられてるのかはわからないが行くしかないなと思う。
「すみません、こちらはエルフの郷行きで間違い無いですか?」
「ん?ああ間違ってないぞ。席も空いてるから乗ってくか」
「3席お願いしたいんですが細かいお金の持ち合わせがないんですが大丈夫ですかね」
「小金貨までなら釣りはでるぞ」
「これじゃ無理ですよね」
と渡された慰謝料の大金貨をチラッと見せる。
「無理無理。そんなのは貴族街じゃなきゃつかえんね。観光か?仕事か?」
「微妙です。どうやらわたしはエルフらしくて城の人にエルフの郷行きの馬車を用意してくれるっていわれたんですがわからなくてここまで来ちゃいました」
「お嬢さんがエルフ?なんかの間違いじゃないか。エルフっていうとやたら高慢でキラキラの髪した尖り耳の目の覚めるような美形だって聞くぞ」
「やっぱりそうですよね。わたしもそうだと思うんですが城の人にこのステータスカードで調べられてエルフって表示がでちゃったからどうしようもないんですよ」
「なんだそのカード見たことねぇな。魔道具か何かか?ギルドカードじゃないってのはわかるがよ。他になんかないのか」
「他はこの手紙くらいですかね」
「それだよ、それそれ。その城の印があればここいらの馬車はタダなんだよ公営だからさ。3人な。空いてる席に好きに乗りな」
「ラッキー、お兄さんありがとね」
ささっと乗り込んで窓際の空いてる席に座る。目的地の馬車に乗ることさえできたらあとはなんとかなりそう。きっとバスみたいなものなんだと思う。地理なんて知らないけどほぼほぼ目的が達成できた気さえする。やり遂げた万能感にまるで外国旅行してる気分を味わう、異世界だけど。