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7.元服の儀

 一方その頃──奥州伊達領・仙台城の天守閣では元服の儀が執り行われていた。


「ごろはち、立派に育ったな。俺は誇らしいぞ」

「桃姫様、私はこの日が来るのをずっと夢見ておりました。その鎧も、とてもよくお似合いですよ」


 政宗と雉猿狗は、華々しく成長したふたりの女武者に向けて感嘆の声を漏らした。

 桃姫はかつて桃太郎が身につけていた鎧を模した白の軽鎧を、五郎八姫は政宗の鎧に似せた黒の軽鎧を着物の上から着こなしていた。


「こんな立派な鎧を作って頂けるなんて……政宗公、本当にありがとうございます」

「もも。伊達の鎧をまとったからには、もう立派な伊達武者でござる。伊達の旗を背負って戦場に出ることになっても文句は言えないでござるよ」


 桃姫が感謝の言葉を述べると、隣に立つ五郎八姫がにっとした笑みを浮かべながら言った。


「覚悟はできてるよ、いろはちゃん。この一年間、いろはちゃんと仙台城で鍛錬した日々──私は伊達の女武者なんだってこと、しっかりと理解できた」

「桃姫、ごろはちの冗談を真に受けるな。お前を無理に戦場に引きずり出すようなことはしない。桃姫が戦うべき相手は鬼だ。人斬りなんぞやらせたら、俺が鬼になってしまう……なぁ、雉猿狗殿?」


 真剣な眼差しで告げる桃姫に政宗が答えて返すと、雉猿狗はうやうやしく頭を下げて感謝の意を示した。


「ありがとうございます、政宗公。おっしゃられる通り、桃姫様が斬る相手は人ではございませぬ」


 雉猿狗がそう言って視線を桃姫に向けたそのとき、天守閣の大窓から青い目をした一羽のハヤブサが飛び込んできた。

 それは、ぬらりひょんの館までカパトトノマトの手紙を届けたハヤブサであり、今では伊達政宗の愛鳥となっている梵天丸だった。


「おお、梵天丸! どうした、お前も祝いにきたのか?」


 政宗が上げた右腕に梵天丸が止まると、鋭い眼光で大窓の外を睨みながら「キィ」と鳴いた。大窓の前まで移動した政宗が広瀬川を望む景色を見やると、遠くの青空に浮き木綿が見えた。


「夜狐禅くん!」


 政宗の背後から外を覗き見た桃姫が浮き木綿の上に正座する懐かしい少年の姿を見て声を上げた。


「失礼いたします、政宗公」

「何用だ? 伊達の居城に妖怪が近づくことを、俺は許容していないが?」


 大窓の前まで浮き木綿を近づけた夜狐禅に政宗が語気を強めながら告げると、雉猿狗がその間に割って入った。


「申し訳ございません、政宗公。私が梵天丸様に用立てをお願いしたのです」

「なんと、雉猿狗殿が……話は中で聞く、入れ」

「はい」


 政宗の許しを得た夜狐禅は浮き木綿の上で立ち上がると、大窓を跨いで天守閣の中へと入った。


「お久しぶりです。桃姫様、雉猿狗様」

「久しぶり、夜狐禅くん。館はあれから問題とか起きてない?」

「はい。みんな平和に暮らしています」

「それで夜狐禅様。"例の物"は、お持ち頂けましたでしょうか?」

「はい」


 尋ねる雉猿狗に応えた夜狐禅は、着物の胸元に手を差し入れて帯状の物体を取り出した。白い帯に据え付けられた黄金板の輝きを目にした桃姫がハッと息を呑むと、雉猿狗が口を開いた。


「あの祭りの夜、御館様が身につけておられた額当てでございます。私が三獣の祠の奥に収めておりましたが、立派に成長なされた桃姫様にこそ相応しいと考え、取ってきてほしいと館に手紙を送ったのです」

「奥州から備前までは遠い道のりですが、雉猿狗様の手紙を頭目様と読むにつけ、これは桃姫様が身につけるべき代物だと思いました。それで僕は、浮き木綿に乗って館を飛び出したんです」


 黄金の額当てを桃姫に差し出しながら、夜狐禅は穏やかにほほ笑んだ。


「だから、僕に見せてください。桃姫様が、桃太郎の額当てをつけた、その御姿を」


 ふたりの想いを受け取った桃姫は深く頷き、父の形見である黄金の額当てを静かに受け取ると、額に白い帯を巻いてギュッと締めた。


「……桃姫様っ!」

「おお……!」

「もも、かっこよすぎるでござる!」


 あまりにも美しく凛々しい桃姫の姿を目の当たりにした雉猿狗と政宗が感激の声を漏らすと、五郎八姫が興奮の声を上げ、夜狐禅も瞳を潤ませながら頷いた。


「ありがとう、雉猿狗。ありがとう、夜狐禅くん。この額当てを通して、父上の想いが伝わってきたよ」


 17歳にして装いを新たにした桃姫が鬼退治への決意を新たにしたそのとき、ふすまの向こうから大声が届いた。


「殿ォ! 一大事にございまするうッ!」

「ええい、元服の儀を執り行っている最中だぞ! 手短に申せ!」


 興を削がれた政宗が苛立ち混じりの声を発するとふすまが開かれ、頭を下げて正座する五人の家臣団の姿が現れた。


「はっ! 京の伏見城より急報が! 昨晩、太閤殿下が御隠れになられましたとのこと!」

「ッ……!? それは誠かッ!?」

「はっ! 伊達の忍びによる情報、相違ございませぬ!」


 政宗はカッと独眼を見開くと、熱い息を口から吐きながら大窓へと歩み寄った。そして、雄大な広瀬川と活気ある城下町の頭上に広がる蒼天を睨みつけ、不敵な笑みを浮かべた。


「これは……日ノ本の歴史が、大きく動き出すぞ……我ら伊達も、大きく動く時が来たのだ」


 奥州伊達軍を率いる大将としてのその勇ましい背中を、桃姫と雉猿狗、夜狐禅と家臣団が緊張の面持ちで見つめる中、五郎八姫だけは父と同じ不敵な笑みを浮かべていた。

 豊臣の世が終わり、新たな時代の幕が上がる期待感に胸をふくらませた五郎八姫は、父親ゆずりの茶褐色の瞳に熱を込めるのであった。

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