表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/201

1.鬼ヶ島

「ギャインっ!」

「イヌッ!」


 青鬼の金棒によって鬼ヶ島の赤空に白犬が打ち上げられるのを見た桃太郎は、背後の赤鬼が振るった金棒を飛び退いてかわした。


「キジ──やれッ!」

「ケェン!」


 桃太郎の合図を受け、黒い太陽を背にして飛ぶ眼光鋭い緑雉が甲高い声で鳴いた。

 そして、青鬼めがけて急降下するやいなや、右脚から伸びる太刀の切っ先でザッと太い首筋を掻き切った。


「ぬうん!」


 鬼特有の真っ黒な鮮血を首から噴出させた青鬼。分厚い鬼の手で裂傷を押さえ、唸りながら後退りしていく。

 その隙を突いて駆け出したのは茶猿。倒れ伏した白犬の元へ駆け寄ると同時に、白い数珠を巻いた両手をこすり合わせ高速のマントラを詠唱した。


「サル! イヌは頼んだ! キジは青鬼の相手をしてくれ!」


 お供の三獣に指示を出した桃太郎は、金棒を空振りした勢いで肩から砂丘に突っ込んでいる赤鬼の毛深い背中を見やった。


「私は赤鬼を討つ!」


 濃桃色の瞳に熱を込めた桃太郎。赤砂を蹴って駆け出し、両手で構えた仏刀の切っ先をのっそりと起き上がる赤鬼に差し向けた。

 迫りくる桃太郎を鬼特有の黄眼で睨みつけた赤鬼は、松の幹ほど太い金棒を振り上げながら激しく吼えた。


「グルぁアアッ!」


 常人ならたまらず腰を抜かすであろう大鬼の威嚇。

 だが桃太郎は動ずることなく、仏刀の切っ先を低く落としながら走り続け、そして一声発しながら大きく斬り上げた。


「デヤァッ!」

「ぬんッ!」


 野太い声を発した赤鬼。眼前を閃く刃をよけると同時に、桃太郎の顔面めがけてブオンと金棒を振り払った。


「フッ!」


 空振りした〈桃源郷〉を勢いそのまま上空に放り投げた桃太郎。金棒の風圧を顔に感じつつ、滑り込むように素早く身を伏せた。

 轟音と共に桃太郎の頭上を黒い金棒が駆け抜け、桃色の頭髪の何本かを削り取っていく。


「ぬんッ!?」


 勢いよく金棒を振り抜いた赤鬼はしかし、くるくると弧を描きながら頭上を舞い飛ぶ、〈桃源郷〉の神秘的な円月に目線を奪われた。

 仏刀──それは他に類を見ない美しい桃銀色の刃を持つ、仏の加護が宿りし鬼殺しの霊剣。


「──悪鬼、死すべし」


 地に伏した桃太郎が双眸を細め冷たく呟く。〈桃源郷〉に見惚れていた赤鬼は慌てて眼下を見やった。

 桃太郎は、左腰に差したもう一振りの仏刀〈桃月〉の柄を右手で握りしめていた。


「ヤェエエエエッ──!」


 瞳を見開き、裂帛れっぱくの声を放ちながら地面を蹴りつけた桃太郎。

 白鞘で眠っていた〈桃月〉の刃が稲妻の如き早業で撃ち放たれると、赤鬼の逞しい胸筋を斬り裂く凄まじい破裂音がパァンと辺りに鳴り響いた。


「ングアッ!?」


 今までに感じたことのない鬼の身を焼き焦がす激痛に顔を歪めた赤鬼は、悲鳴と共に金棒を手放しながら飛び退いて桃太郎から距離を取った。

 熱い鬼の黒血を顔に浴びた桃太郎は、着地すると同時に宙空から降ってきた〈桃源郷〉の柄を左手で掴み取った。


「──悪鬼ッ! 死すべしッ!」


 両手に仏刀を構えた桃太郎。鬼気迫る顔つきで宣言した直後、全身から白銀の波動がブワッと迸り、顔に付着していた黒血を吹き飛ばして瞬く間に浄化した。


「が、アア……」


 赤鬼は生まれて初めて恐怖を感じ、うめき声を漏らした。白銀の波動をまとった桃太郎は、瞳に宿る波紋を開花させるように拡大させていき、遂には両眼を銀光させた。


「──覚悟ォオオッ!」


 雄叫びと共に跳躍。まるで空を飛ぶように怯える赤鬼へと一気に距離を詰めた桃太郎は、〈桃源郷〉と〈桃月〉の刃を重ね合わせ、身を翻しながら突き出した。


「──ヤェエエエエエッ!」

「ぬぐォオオッ──!?」


 二振りの仏刀で鬼の心臓を串刺しにされた赤鬼は、黄色い眼球をグルンと上に向けながら雄牛に似た断末魔の声を発した。

 胸板に飛びかかった桃太郎の体ごと後方に倒れ込んで砂塵を巻き上げ、太い牙が生える口を大きく開いたまま絶命した。


「ハァ……ハァ……!」


 息を整えながら赤鬼の死を確認した桃太郎。左胸に深々と突き刺さった仏刀を両足を踏ん張って引き抜くと、刃を振って付着した黒血を払った。

 赤鬼の亡骸から飛び降りた桃太郎は、息絶えたはずの白犬がゆっくりと起き上がる様を目にした。


「……イヌっ!」

「ワン!」


 復活した白犬の隣には茶猿の姿。両手の数珠をこすり合わせながら合掌すると、うやうやしく桃太郎にお辞儀をした。


「よくやったサル! お前の法力は本物だ!」

「キィ!」


 茶猿が嬉しそうに応えたそのとき、赤空を飛ぶ緑雉が甲高い声で鳴いた。


「ケェーン!」


 それは警告の鳴き方だと桃太郎が気づいた刹那、鬼ヶ島の大気を揺るがす不気味な咆哮が鳴り響いた。


「ヌうぁアアッアア──!!」


 黄眼を見開いた青鬼が低い声で吼え放った直後、背後に広がる砂丘の向こうから、長身の緑鬼と太った黄鬼が地響きを鳴らしながらこちらに走って来るのが見えた。


「よし、そうだ……どんどん来い、悪鬼ども」


 桃太郎が両手の仏刀に力を込めながら告げると、三獣が一斉に動いて桃太郎を中心に陣形を組んだ。

 青い法衣をまとった白犬が右に、黄装束を着込んだ茶猿が左に、赤備えを装備した緑雉が頭上を飛んだ。


「日ノ本を苦しめ続けた悪鬼の巣窟……今日で、この鬼ヶ島を終わりにする」


 白い軽鎧に身を固め、桃色の髪をした頭に黄金の額当てを巻いた桃太郎。その全身からは白銀の波動がうねりにうねっていた。


「──悪鬼、みな尽くに──死すべしッ!!」


 迫りくる大鬼の群れめがけて吼えながら駆け出した桃太郎。共に修行を重ねた三獣を引き連れて、最初で最後の鬼退治へと身を投じるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ