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34.殺戮機脳〈マシン・ブレイン〉

「──セレン、気をつけろ。ここには帝国軍のマシン・ソルジャーとマシン・ゴーレムが配備されている。だが、戦う必要はない。制御室までまっすぐ進むんだ」

「はい」


 地下アジトにいる一号の通信に応えたセレン。剝き出しの配管がうねるように伸びる内部通路をメットに表示されるマップデータを頼りに、中枢の制御室まで向かう。


「──〈ロゴス・ウイルス〉は想定より上手く機能しているようだ。付属のマップデータも本物だったし、マーリンは本当に協力してくれたみたいだ」


 海浜公園に着陸した〈スザク〉から三号が通信すると、セレンは10分のカウントダウンが視界に表示されるのを確認しながら呟いた。


「……全部偽物だったら、どうするつもりだったんですか?」

「──その場合はプランBの強行。〈葬羅丸〉で力づく作戦だ。舞零なら上手くやってくれたさ」


 神奈川上空を飛行する〈ゲンブ〉からマリヤが答えた。


「あの巨大ロボット、堺ではあんなの作ってたんですね」

「──ああ。帝国にバレないようにこっそりとな。東京奪還の最終兵器だ」


 ハッチを開いたマリヤが東京湾の潮風を受けながら、遠く〈葬羅丸〉の背中を見やって告げると、セレンは足を止めて通路の影にサッと身を潜めた。


「……制御室前の開けたフロアに、狼頭のマシン・ソルジャーが多数、三ツ首のマシン・ゴーレムが一体います」

「──オーケー。〈ルーガルー〉と〈ナベリウス〉だな……〈ナベリウス〉か。どう思う、二号、三号?」


 セレンの視界情報を分析しながら一号が尋ねると、〈スザク〉のタラップを降りる三号が芝生の上で沈黙する〈ウンブラー〉の巨体を見据えて赤眼を細めた。


「──三人で仕掛ければ可能性はある。失敗すれば、こちらがハッキングされるけどな」


 帝国軍のマシン・ゴーレム〈ナベリウス〉は強力なハッキング耐性を備えており、ハッキング・プロトコルを逆流させて〈アバタール〉を乗っ取ることが可能だった。

 三号の発言を耳にしたハイドランジアが小脇に抱えた〈フェイルノート〉の銃口を向けて、「そのときは介錯しましょうか?」とほほ笑むと、三号は苦笑で返した。


「──危険だったら中断すればいいし、とりあえずやってみよう。セレンいつでもいいぞ」

「はい。撃ちます」


 マリヤの声かけに答えたセレンは、左手を〈ナベリウス〉に向け、多目的ナノワイヤー〈ミシャグジ〉をバシュッと射出した。

 〈ナベリウス〉の胸部に赤いトゲが突き刺さると、違う場所にいる三人のマリヤが同時に赤眼を輝かせて遠隔ハッキングを開始する。

 三ツ首の先で黄光するモノアイが赤く染まっていき、"奈"の文字が宿ってハッキングの完了を示すと、〈ルーガルー〉に対して攻撃を開始した。


「──一号と三号が抑えて、私が動かしてる。ワイヤーはつなげたまま進め」

「はい!」


 〈ゲンブ〉の機内でマリヤが告げると、セレンは両手の大型チェーンソーで〈ルーガルー〉を刻んでいく〈ナベリウス〉を横目に見ながら制御室の扉の前まで走り抜けた。

 そして重厚な大扉を見やると、右肩から伸びる〈カグツチ〉の柄を掴んで構える。その瞬間、フロアの左右の隔壁が開き、新手のマシン・ゴーレム二体と〈ルーガルー〉の群れがなだれ込んできた。


「──〈アンドラス〉と〈マルコシアス〉ッ!?」

「──まずい、ハッキングが逆流する! セレン、ワイヤーを切断しろ!」


 声を上げた一号と三号。〈アンドラス〉と〈マルコシアス〉はハッキングされている〈ナベリウス〉に向けて出力を送り込み、〈ナベリウス〉の単眼から"奈"の文字が消えて黄光へと転じていく。

 慌てて〈ミシャグジ〉を引き抜いて左手首に回収したセレン。〈ナベリウス〉は完全に制御を取り戻すと、自らが破壊した〈ルーガルー〉の残骸を踏みつけ、三ツ首から光る憤怒の眼差しをセレンに向けた。


「……ッ!」


 三体の屈強なマシン・ゴーレムと獰猛なマシン・ソルジャーの大群を前にセレンは息を吞んだ。左肩の〈スサノオ〉を抜き取って構え、両手でトリガーを引き絞って赤と黒のプラズマ収束刃を伸ばす。

 勝てるかわからない、しかしやらなければならない──熾烈な戦いへの覚悟をセレンが決めたそのとき、雷鳴の轟きとともに〈ナベリウス〉の頭の一つに大穴が穿たれて爆散した。

 背後からの攻撃に仰天したマシン・ゴーレムとマシン・ソルジャーの群れが振り返ると、徒花部隊の7人と裏安組、稲刃組のサイバネヤクザ集団40人が武器を構えて駆け込んできた。


「姐さん! ここはわしらに任せて、先へ進んでくだせえッ!」


 吼えた裏安が銀光する拳を振り上げながら〈マルコシアス〉に突撃する。上裸の稲刃も両肘から伸びるメタル・ブレイドを光らせながら〈アンドラス〉めがけて斬りかかった。

 手下のサイバネヤクザ集団は雄たけびを発しながら、〈ルーガルー〉の群れと乱闘に突入した。


「ブラック・セレン! 〈ウンブラー〉が再起動する前に早く行け!」


 〈ライラプス〉を構えたガーベラが大扉を指さしながら告げると、徒花部隊は〈ナベリウス〉に向けて一斉に銃撃を開始した。

 突如として始まった大乱戦にセレンは驚愕しながらも、両手のプラズマ・ブレイドで振り向きざまに大扉を焼き裂き、さらに続けざまに斬りつけて制御室への道をこじ開けた。

 そして背中に騒々しい音を聞きながら中枢への通路を駆けたセレンは、最後に待ち構える扉を斬り破いて制御室へと到達した。


『来るなぁー!』


 男性の機械音声で作られた甲高い叫び声。鈍い色をした鉄棒が振り下ろされると、セレンは素早く避けて声の主を見やった。

 それは、ナナフシに似ていた。巨大な丸い球体から伸びるポールのような胴体、そこから六本の長い節足が伸びていて機器が並ぶ壁面に接続されており、その一本が振り下ろされていた。


「あなたが〈ウンブラー〉の本体」


 セレンはポールの先端で光る赤いモノアイを見据えながら告げた。するとナナフシは、六本の節足を持ち上げて悲鳴に似た声を発した。


『降参だぁ! 降参するッ!』

「……?」

『このインターフェイスには戦闘機能がない! あんた相手に勝てるわけがない!』


 耳障りな機械音声が制御室全体に響き渡ると、セレンは両手のプラズマ収束刃をナナフシに差し向けた。 


「再起動までの時間稼ぎ? だとしたら」

『違う! 全面降伏だッ!』


 告げたナナフシが節足上部の左右二本で壁面の基盤を操作すると、三号から通信が届いた。


「──セレン。〈ウンブラー〉のプラズマ・ミサイルが全基格納された。何かしたか?」

「──こちらガーベラ。マシン・ゴーレムとマシン・ソルジャーも動きを停止」


 通信を受けたセレンは訝しむようにナナフシを見上げた。


『もう嫌なんだ、戦争の道具として生きるのは……四階級特進目当てで〈マシン・ブレイン〉に立候補したときは、まさかこんな体になるなんて思ってなかったんだ』


 すすり泣くような声で告げるナナフシは完全に戦意喪失しており、セレンは両手のトリガーを離してプラズマを霧散させた。


「……こんな体?」

『この忌々しい鉄の体! ジャイアント・ファッキン・〈ウンブラー〉だよ!』


 ナナフシは六本の節足で天井と壁面に並ぶ基盤を叩きつけながら叫んだ。


『アクロ卿に言われたんだ。日本侵略に協力すれば〈アバタール〉に入れ替えてやるって。なのに連絡がつかなくなった。へどろまみれの東京湾の底でずっと待った……! 俺は新しい体を、ずっと待ち続けたんだよ!』


 機械音声をハウリングさせながらナナフシが慟哭すると、制御室に入ってきたガーベラが静かに告げた。


「まだ気づきませんかキーニン・カニンガム中佐。あなたは利用されたのです」

『……ガーベラ?』

「アクロ卿は〈アバタール〉なんて持っていません。いずれはAIシステムに切り替えてキーニン中佐から〈ウンブラー〉を奪うつもりだと、笑いながら私に教えてくれました」


 ガーベラの言葉を聞いたキーニンは単眼を明滅させて見るからに動揺していた。


『ッ、そんな……帝国を裏切ってアクロ卿についたのに……それじゃあ俺が生きられる場所は、もう世界のどこにもないってことじゃないかよ! ああッ!』


 六本の節足で細長い頭を抱えたキーニンは、頭上の基盤を睨みつけて、勢いよく叩き始めた。


『こうなったらもう、〈ウンブラー〉を自爆させるしかないッ!』

「待て!」

「キーニン中佐!」


 キーニンが自爆コードを乱暴に打ち込み始めると〈ウンブラー〉が甲羅の内部から緑光を放ち始め、セレンとガーベラが声を上げた。


「──落ち着け、中佐。〈アバタール〉なら余ってるのが一体ある」

『……えっ』


 最後のコードを入力しようとした直前、マリヤの通信がセレンのメットから放たれてキーニンは節足を止めた。 


「──欲しいならくれてやるよ。ただし、〈ウンブラー〉と引き換えにな」

「──二号、あんた何言って」


 マリヤの提案に三号が唖然としながら返した。


「──ここで自爆されたら東京は半壊するし、あの〈アバタール〉は男型で使い道もなかった。こいつにくれてやろうぜ」

「──二号! こいつは太宰府ベースを破壊して、足立を焼き払った宿敵だぞ! 戦いの発端を忘れたのか!?」


 チェアから立ち上がった一号が激昂しながら告げると、〈ゲンブ〉で海浜公園上空にやってきたマリヤは不敵な笑みを浮かべた。


「──勘違いするな、宿敵はアクロだ。こいつはそそのかされただけ。それに〈アバタール〉一体と〈ウンブラー〉一隻を交換する費用対効果を考えろ。今後も日本を守りたいなら、〈ウンブラー〉一択だろ」

「──そそのかされたで済むような話じゃないだろ。おかしいぞ、二号」

「──私がおかしいならあんたもおかしいはずだな、一号」


 一号とマリヤが語気を強める中、三号が眉をひそめながら口を開いた。


「──落ち着け、一号、二号。太宰府ベースの被害者代表として、一号は反対、二号は賛成ってことだろ。なら結論は、足立の被害者代表として、セレンに決めてもらおう」

「──三号の意見は?」


 三号の提案を聞いた舞零が〈葬羅丸〉のコクピットで腕を組みながら尋ねた。


「──私はセレンにゆだねる」


 三号が〈ウンブラー〉を見据えながら告げると、キーニンが自爆コードをリセットして別のコードを入力し始めた。


『ハッキングワイヤーをここに挿してくれ。そうすれば俺はスピリット体になって、この鉄の檻から抜け出せるんだ』


 プシューという音ともにナナフシの下半身、巨大な球体が展開すると、冷気がこもった煙がセレンとガーベラに向けて放出され、中から青白い容器が現れた。


『俺のブレインだ。冷却なしだと三分しか持たない。茹で上がっちまう前に早くここから出してくれ、頼む!』


 液体が詰まった容器の内部には、多数の端子と接続されたキーニン・カニンガムの脳みそが浮かんでいた。

 セレンは困惑しながらも、容器の下部に〈ミシャグジ〉のトゲを挿し込める穴があることを確認した。


「──セレン、『ベクター・サン』の第34話を思い出せ」

「陽子さんを殺した地獄女王ヘルヴェルデを……仲間に加えた」

「──そうだ。そのおかげで最終話、ヴォイド皇帝を倒すことができたんだよな?」

「──二号、思考誘導はやめろ」

「──ふたりとも、少し黙れ」


 マリヤの言葉に苛立ちながら声を上げる一号。三号が苦言を呈すと、舞零が呟いた。


「──セレン。自分の心で考えなさい」

「……私は」


 ガーベラが見守る中、青白い容器に左手を伸ばしたセレン。〈ミシャグジ〉のトゲが穴に向けられると、セレンは決意の声を発した。


「私は──ベクター・サンじゃないッ!」

『やめろぉ!』


 〈ダイナモ・アーム〉のフィンがパカパカパカと開き、黄金の粒子を噴きこぼすと、開かれた手のひらが容器をガシッと握りしめた。


「これが、お姉ちゃんと──足立のみんなが出した答えッ!」


 ガシャァン──けたたましい音とともに粉砕された容器、キーニンの脳みそは一瞬で握砕され、ボタボタボタッと冷たい液体に混じりながら床に落ちるのであった。

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