33.総力戦〈TOKYO DYNAMO〉
「隊長! 〈F.S.T〉が射出されています!」
「数が多い……!」
〈スザク〉のハッチから身を乗り出したハイドランジアとピエリスが声を上げた。海面から次々と〈F.S.T〉が飛び出し続け、その数は800機を超えていく。
〈F.S.T〉の群れは100機で一つの三角形を形成しながら素早く舞い飛ぶと、四つは〈ジャバウォック〉、四つは〈スザク〉へと分かれて飛翔を開始した。
「ふざけやがって!」
上空を見上げて叫んだジギタリス。ルドベキア、アガパンサスとともに〈ジャバウォック〉に乗り込むと、ソリダーゴが急発進させて海浜公園を疾駆させた。
〈スザク〉ではハイドランジアとピエリスがバトル・ライフル〈フェイルノート〉で銃撃を開始するも、〈F.S.T〉はひらひらと翻弄するようにかわしながら着実に接近してくる。
「学習したのか」
呟いたガーベラが放った〈ライラプス〉の弾丸も空を切ると、〈F.S.T〉は銀光させた四つの三角形を一斉に〈スザク〉に向けた。
四方向から熱線が照射される──まさにその瞬間、連続して飛来したプラズマ・フォトンの弾丸が〈スザク〉と〈ジャバウォック〉を狙っていた八つの三角形を撃ち抜いて瞬く間に粉砕した。
「……ッ!?」
その光景を地上から目にしたセレンが驚愕とともに、西の方角から東京湾に迫りくる三機のプラズマ・ジェット機の姿を見やった。
「──お待たせ、セレン。つっても、マッハで飛んできたんだけどね」
編隊の中央を飛ぶ漆黒のプラズマ・ジェット機〈葬羅〉のコクピットにて、青いバイザーを装着した舞零が言うと、コンソールを叩いて飛行する三機の映像を視界に表示させた。
「んじゃ、ぶっつけ本番だけど……"空中合体"っての、やってみますか」
『安心して、舞零ちゃん。誰にだって初めてはありますからね』
「黙って、システム。今、集中してるから」
『はーい』
設計者である奈塚緋鞠の人格をインプットしたシステムAI〈H.M.R〉が軽い声で応じると、両手で握りしめたレバーを力強く引いた舞零。
「〈葬羅丸〉──エアリアル・ドッキング!」
『エアリアル・ドッキングを承認。ドッキング・シークエンスを開始』
機首を上げて天高く飛翔した〈葬羅〉。その後を追って左右に並んだ〈狩羅〉と〈震羅〉が距離を縮めると、緑光するプラズマ・パルスを放ちながらゆっくりと結合していく。
〈葬羅〉を挟み込むようにして両機が合体すると、背面からプラズマ・ウイングを伸ばす〈狩羅〉と〈震羅〉から腕と脚が展開して、人型の巨大ロボット〈葬羅丸〉が東京湾上空に姿を現した。
『ドッキング・サクセス。上手く行ったわね、舞零ちゃん』
「うるさい! ていうか、マリヤ! 私まだ、こいつのパイロットにされたことに納得いってないんだけど!」
「──いまさら何いってんだ。うまくやってるよ。さすがはゲームの達人だ」
〈葬羅〉に乗り込んだ舞零とともに堺を発ったものの、まだ富士山の上空を飛んでいる〈ゲンブ〉の機内からマリヤが答えた。
「おだててもだめ! そもそもセレンを乗せる予定だったんでしょ! システムがそう言ってたから!」
「──ああ。だが知っての通り、セレンはセレンでやることがあるからな」
「私にもあるから! 冥眼衆総裁だから!」
舞零は言いながらも、コンソールを素早く叩いて〈葬羅丸〉のステータスを一つ一つ確認していった。
「てか、なんであんたが乗らないわけ! 三人もいるんだから、あんたが乗ればいいでしょうに!」
「──お袋の設計したロボットに乗るのは恥ずかしいだろ、さすがに」
「ふざけてる!」
声を上げた舞零が〈葬羅丸〉の背面から伸びる三枚のプラズマ・ウイングを広げた直後、海中から四発のプラズマ・ミサイルが浮上してきた。
「──戦闘に集中しろ。相手は〈ウンブラー〉、帝国一の潜水艦なんだからな」
「ああ、もう! やるしかないんでしょ! やるしか!」
両手でレバーを握りしめた舞零は、マニュピレーター・ギアを細かく指先で操作して両足のステップ・ペダルも巧みに利用しながら〈葬羅丸〉の体勢を整えた。
そして、プラズマ・リアクターが輝く両手を迫りくるプラズマ・ミサイルに向け、プラズマ・フォトンの弾丸をドゥン、ドゥン、ドゥン──と連射して宙空で見事に爆散させた。
「システム! さっきからオススメに表示されてる、この〈ヒマリン・チョップ〉ってのはなに!?」
『ふふふ。使ってからのお楽しみです♪』
「システムまでふざけてる! ああ! 本当にどうにでもなれ!」
のほほんとした〈H.M.R〉の応答に苛立ちながら叫んだ舞零は、コンソールを叩いて〈ヒマリン・チョップ〉を選択した。
『〈ヒマリン・チョップ〉の使用を承認。腕部プラズマ・リアクターの充填を開始』
右手の指先を海面に向けて伸ばした〈葬羅丸〉。左手で右手首を掴んでプラズマ・フォトンを注ぎ込んでいくと、右手がバリバリと激しくエメラルド・グリーンに極光し始めた。
「〈ヒマリン・チョップ〉ッ!!」
声を発した舞零が握りしめたレバーを引くと同時に爆発寸前の右手がドォン──と緑光の鎖を伸ばしながら海面に向けて放たれ、水しぶきを立てながら水中に潜っていく。
そして、海中に潜んでいた〈ウンブラー〉の頭部めがけてズドッと突き刺さるやいなや、緑光の鎖が巻き取られて、〈葬羅丸〉の右腕にズルズル──と回収され始めた。
「うおお!? 〈ウンブラー〉を引っ張ってる!?」
「──ナイスだ、舞零! そのまま海浜公園までヤツを釣り上げろ!」
「無茶ばかり!」
舞零は苛立ちながらも〈葬羅丸〉の右腕から伸びる緑光の鎖を左手で掴み取り、釣り竿を持ち上げるようにして引っ張り上げた。
対する〈ウンブラー〉の抵抗もすさまじく、後部の大型プラズマ・タービンをフル回転させて逆に〈葬羅丸〉を東京湾に引きずり込まんとした。
「負けてたまるかっての!」
叫びながら両足のペダルを踏みしめた舞零。背面から伸びる三枚のプラズマ・ウイングをフル稼働させ、ゆっくりとではあるが着実に後退していく。
そして、黄十字が光る巨大な白甲羅が海面に姿を現す光景を、神奈川から東京に入ったセレンが南部区の海沿いに連なる港湾施設から目撃した。
「セレン! 〈ロゴス・デバイス〉だ! 受け取れ!」
ヘリのプロペラ音とともに頭上から届いた声。セレンが見やると〈スザク〉のハッチから顔を覗かせていた三号が、ステッキ状の機械を放り投げた。
咄嗟に受け取ったセレンは、疾駆するディピティのシートを蹴りつけて跳躍し、大型クレーンの天辺に飛び乗るやいなや、〈エアロ・トリスタン〉を点火し、緑光の帯をバッと背中から広げて東京湾めがけて飛翔した。
「どりゃあああ!」
雄たけびを発しながら両手のレバーを力強く引き上げた舞零。フルパワーを発揮した〈葬羅丸〉が〈ウンブラー〉との力比べに勝利すると、白い巨体が海浜公園の芝生の上に打ち上げられる。
「やった……!」
見事に釣り上げた300メートル大の巨大カブトガニの威容を目にした舞零がバイザー越しに笑みを浮かべた次の瞬間、わらわらと多脚を伸ばして巨体を持ち上げた〈ウンブラー〉。
「……え」
舞零が唖然とするうちに次々と甲羅に穴が開いていき、800発を超えるプラズマ・ミサイルがズンと針山のように飛び出した。
「──こいつ、東京を丸ごと焼くつもりか!」
大型ディスプレイに映るその光景を目にして叫んだ一号。緑光する針山にプラズマ・フォトンが充填されていき、東京全土に向けて今まさに全弾発射されようとした直前、海面すれすれに飛翔するセレンが姿を現した。
「止まれェッ!」
叫びながら〈ウンブラー〉の頭部に着地して〈ロゴス・デバイス〉を突き立てたセレン。背中から取り出した〈ツクヨミ回路〉を嵌め込み、グルッとひねって押し込むと〈ロゴス・ウイルス〉が発生して〈ウンブラー〉の内部へ浸透していく。
ブゥーン──という重低音とともに多脚を脱力させて芝生の上に巨体を伏せた〈ウンブラー〉。激怒していた赤眼から光が失われると、発射寸前だったプラズマ・ミサイルからも緑光が抜けていった。
「──セレン、ここから入って!」
拡声器越しに声を上げた舞零。〈ウンブラー〉の頭部に深々と突き刺さっている〈葬羅丸〉の右手を引き抜いて巻き取ると、穿たれた大きな亀裂が露わになった。
太陽を背にして滞空する〈葬羅丸〉に頷いて駆け出したセレンは、亀裂の中に身を投じて〈ウンブラー〉の内部へと侵入するのであった。




