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4/8

④“禁忌”の探求者たち

 お時間頂きまして申し訳ございません。

 一応、当面のプロットは出来上がったものの、この4話の作成にかなり時間がかかってしまいました。

(詳細はtwitterで……)

https://twitter.com/JPx0EOSvpw88401?t=hwCuKs53EYDwTGF9gOV5eA&s=09


 また、前話から追加で評価・ブックマークを頂きました。誠にありがとうございます。この通り亀の歩みではございますが、しっかり1話1話作りますので、応援頂けますと嬉しいです。

 ──ああ、また来てくれたんですね。

 では、2人の物語を続けましょうか。



 “ペタペタ、とてて……。ぴょこ、たった!”


 奇妙な足音と共に、2体の土人形が仲良く駆けていきます。2体の腕には「1」「2」と数字が振られて、幼い兄弟のようです。


 サフルとアレナの出会いから、一晩が経ちました。


 外では日が登り、もうすぐお昼ですが、地下室は相変わらず湿っぽくて、どこかかび臭く感じます。

 けれども、少しだけ変化もありました。

 それは、地下に机や棚、薬や植物、古書が運び込まれて、即席の研究室が出来上がっていたことです。

 

 少し離れた場所にある円の中央で、青銅色のペン先がカリカリと音を立てていました。

 

 床にある直径5メートルほどの魔法陣は、まだ途中ですが、それでも複雑な幾何学模様で、小さな魔法陣が無数に組み合わさっていました。


 その中心に白い髪の女魔術師──アレナがいました。


 周囲には魔法陣を描くための薬品がズラリ。

 ペースト状にすり潰された赤い液体がすり鉢の底に溜まっていたり、ツンと鼻を突くような臭いのする緑色の液体が薬瓶の中で泡立っていました。


 模様を描いて、薬品を足して、また描いて。

 薬が飛び散って髪や魔法衣のあちこちに付着しても、彼女の手は止まることを知りません。

 瞳は深く渦巻き、魔法陣を呑み込まんばかりに見つめていました。

 

 そこへ先ほどの土人形たちがやって来て、薬瓶と金剛石が入ったすり鉢を差し出しました。


「うん、ご苦労さま」


 アレナは2体の頭を撫でて、薬瓶とすり鉢を受け取りました。


 きゅぽん、という小気味の良い音と共に薬瓶を開け、書いていた魔法陣へ薬品を注ぎ込みます。


「融け満ちよ。星すら砂還(すがえ)す歯車となりて」


 薬が描いていた魔法陣に染み込むと、既にあった魔法陣と溶け合います。

 そして、小さな魔法陣が歯車のように回転して、ぼんやりと、琥珀色の光が脈打つように点滅し始めました。


 アレナはその様子を見て、満足そうに微笑みます。


「さて、次は……」


 彼女が人差し指を立てると、指先に水の塊がぷくりと膨らみ、桃色の糸が絡め取りました。

 そして、金剛石を指さすと、糸が縫うように石へと突き刺さり、水を“編み込んで”いきました。


 糸が動くたびに石が溶け合うように水と混ざり、やがて、鉢の中はキラキラと光るとろりとした液体が残りました。


「じゃあ、お願いね」


 すり鉢を土人形達に差し出すと、再びペンを手に魔法陣へかじりつくのでした。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 そこから少し離れた机で、ボサボサ頭の「みのむし」魔術師が、身体をゆさゆさと動かしながら、呻いていました。


「うっ……くっ……ふぅぅ……」


 魔法陣を結合させる触媒づくり。

 ──それが、今の彼の仕事でした。


 粒々(つぶつぶ)した緑色の実や、曲がった紫の蔓を刻んだもの、花弁がチロチロと燃える炎の花……。


 それらをすりこぎで潰す度に、もわもわと紫色の煙が登って酷い臭いがするので、もう大変。口で息をしながらの作業です。


 そんな彼の元に土人形達がやってきて、金剛石の水が入った鉢を差し出しました。


「あ、ありがと……ぅ。 1番(レファ)、ペ、2番(ペト)


 すり鉢を受け取ったサフルは、唇を噛み締めてえいやと水を注ぎ込みます。

 じゅわっ、という音と共に粉と液体が混ざり、暗い灰色の薬品へと代わります。


(あぅ……やっと息が出来る……)


 大きく空気を吸い込んで、一安心。

 ……とはいかず、すぐさま木製のスプーンで薬品をかき混ぜます。まだまだ不安定なので、完成まで手を止められません。

 

(それにしても……、本当にあのアレナ・ステリアと一緒に研究してるんだなぁ、僕)


 手を動かしつつも、サフルはどこかぼんやりとしていました。

 ──まぁ、無理もありませんね。彼女と戦ったというのに、突然協力関係となったのですから。


 ただ、「転星魔法」の研究が進んだのも事実。

 「転星魔法陣」の作成には気の遠くなる数の魔法陣を合成する必要があり、その触媒となる薬品も必要です。

 当然、サフルだけではお金も時間も知識も全く足りていませんでした。

 

 だというのに、彼の表情はどこか浮かない様子です。



『私の目的──? ああ、『砂の魔女』を超えることよ』



 脳裏によぎるのは、あっけらかんと言い放った、あの言葉。普通なら笑い話として流されるでしょうが、ここまで本格的にやるのであれば、冗談ではないはずです。


 けれど、アレナがどうしてそこまでするのか、サフルには解らなかったのです。


 すり鉢の中で、スプーンがぐるぐると回ります。

 同じところを、何度も何度も。


(それこそ、自分の実力を試してみたい──とか? それこそ「てんさい」だし、僕に"取引"を持ちかけたのも気まぐれで……)


 サフルはそっと顔を上げて、アレナの方を見ました。

 目鼻立ちがくっきりした顔に、白にほんのり桃色のメッシュが混ざった艷やかな顔。

 

(──手足もスラッとしてて、スタイルも……って、何考えてるんだっ!!)


 頬に籠った熱を振り払うように慌てて顔を振り、そのまま下げようとしたとき──。


 不意に、アレナの足元にある描きかけの「転星魔法陣」がサフルの目に映りました。

 ()()()に光る、魔法陣が。


 かき混ぜていた手が、ピタリと止まります。

 そう、アレナが地下へ向かう階段で見せた瞳。

 あれもまた、琥珀色でした。


(──もしかして、アレナさんは『砂の魔女』に何か影響を受けているのか……?)


 半ば神話のような存在から干渉されるなんて、突拍子もない話ではあります。

 ただ、そう仮定すると、どこか浮かない顔でブツブツ呟いていたのも、「『砂の魔女』を超えたい」という目的も、ピッタリ当てはまるのです。


 すり鉢の中で、薬がコポコポと沸き立ち始めました。次から次へと気泡が現れては、潰れて消えます。


(……も、勿論、まだ仮定でしかないけど……。も、もし……、このまま彼女に協力して、僕まで『砂の魔女』に目を付けられたら──)


 “パッシャアアン”


「うわ、()っつい!?」


 何かが弾ける音と共に、サフルの目の前で、すり鉢が吹っ飛びました。泥臭い灰色の液体が魔法衣や頬にへばりついて、ヒリヒリと痛みます。


「どうしたの、ミノ君!?」


 悲鳴を聞きつけたアレナが、サフルに近寄ります。


「ごっ……ごめんなさいぃ……。く、薬を混ぜるのを……忘れてて……」


 ひっくり返りながら涙を浮かべるサフルを見て、アレナは少し眉をしかめましたが、静かに息を吐くと、微笑みながら言いました。


「仕方ないわね。少し、休みましょうか」

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