③『どんくさみのむし』と『てんさいかまきり』─3
ブックマークや評価の勢いが、今までの作品の中で一番です!
(今までが大したことない? ……はい。そうですね)
とはいえ非常に大きなモチベーションとなっております。
どのような形であれ、応援して頂ける人達にお応え出来るよう、頑張って参ります。
この話もお楽しみ頂ければ幸いです。
この星、『砂天楼』に生きる人々が『転星』に抱く思いは、実に様々です。
仕方のない運命と受け入れる人も居れば、『転星』や『砂の魔女』を神のように崇める人もいます。あるいは、全く気にせず、毎日を過ごす人もいました。
けれど、もちろんのこと。『転星』にそのまま従うことなく、どうにかして抗おうという人達も、大勢いるのです。
そんな人達が集まって出来たのが、『抗星協会』と呼ばれる組織です。
単に“協会”と言えばここを指すほど大きな組織ですが、掲げているのは「『転星』に抗う」という一点のみ。
実際にはその思想や手段の違いから、協会内にはいくつもの”魔術工房”が存在し、それぞれが独立して活動をしていました。
大きな宇宙船を作って『砂天楼』から避難しようとする『箱舟』や、『砂の魔女』を見つけて殺そうとする『弑砂』。
代表的なものは、その辺りでしょう。
とはいえ、どんな方法が有効かも解らないので、テロや犯罪にさえ手を染めなければ、どんな研究でも許されていました。
ただし、そんな”協会”でも唯一禁止されている行為があります。
それが、そう──『転星魔法』の習得です。
使い方を間違えれば、星そのものを壊しかねない、そうでなくとも、第二の『砂の魔女』を生み出しかねない、“禁忌”の研究です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……正座」
「……ぁっ、あの、僕、け、怪我をして……」
「せ・い・ざ」
「ひぃいぃぃっ!!」
地下室の中で、甲高い声が響きました。
先程までの激戦で周囲の壁はボロボロ、あちこちに壊れた土人形の身体が転がります。
桃色の糸に引っ張られたサフルがアレナの前で強引に座らされ、一方のアレナは“砂鉄の手”を椅子代わりとして、座っていました。
「……ちゃ、“ちゃんと話し合おう”って、言ってたじゃないですかぁ……」
「それとこれとは話が別よ。いきなり襲いかかってきたんだから、反省なさい」
「……そ、そもそもいきなり押しかけて来たのはそっちじゃ……」
「そうね、一理あるわ。でも、勝ったのは私」
(やっぱり……「てんさい」だぁ……)
そう言って頭を垂れるサフル。折角今まで貯めてきた魔力も、コツコツ作ってきた土人形も、全部がパーです。
勿論、このまま“協会”に報告されてしまえば、魔法陣は没収され、牢屋にぶち込まれてしまいます。
とは言え、この手の「てんさい」が来ている以上、そんな殊勝なことをするとは思えませんが、サフルにはそんなことを考える余裕などありません。
ただただ、長年作ってきた『転星』の魔法陣が奪われてしまうことが、ひたすらに悲しかったのです。
「うっ………くふっ………ぅぅ……」
目から大粒の涙があふれて、ポタポタと地面を濡らしていました。
(嫌だ……。まだ何も……手に入れてないっ……!!)
あれだけ怯えていたにも関わらず、唇を噛み締める様子を見て、アレナはこっそり糸の力を弱めていました。けれど、サフルは顔をぬぐうこと無く、泣き続けました。
「……貴方が『転星』の魔法陣を研究していた目的は、これ?」
アレナが手の上に握って見せたのは、戦いで壊れてしまったサフルの義手。
金属製でパッと見では無骨な雰囲気ですが、よくよく見てみると、指の関節に動きを滑らかにするための歯車が付いています。
また、手全体に薄く掘られた溝は複数の魔法陣を組み合わせており、状況に応じて魔法を使い分けられるようです。
そして、サフルの右手と両足にも、これと似た金具が取り付けられています。
アレナに尋ねられても、答えようとしなかったサフルでしたが、やがて観念したかのように、話し始めました。
「……アレナさん。既に気づいていると思いますが……、僕は……、僕は『棄てられた者』なんです……!」
──考えてみれば、不思議な話だと思いませんか?
突然砂から生まれた人達が、こうして会話をして、魔法を使って、“協会”という組織さえ生み出しているのですから。
少なくとも、私はそう思いました。
では、どうしてそんなことが出来るのか?
それは、『転星』が終わった時点で「全部決まっている」から。
どんな見た目で、何が出来るのか。どこに住んでいて、誰と家族で、知り合いか。
そういうことが全て目覚めた時点で決まっていて、かつ、本人はその状況をすぐに理解することが出来ます。
もっとも、それに伴う記憶等は一切無いので、「頭で解っていても、実感のない」ものとなりますが。
ただ、どの人にも共通するのは、『転星』が起きるとどうなるのか──、星の全てが砂となり、新たに生まれ変わる光景を必ず覚えています。
この『砂天楼』の”理”を否が応でも知らしめるかのように。
だからこそ人々は口を揃えて言うのです。
「これらの知識や身体は『砂の魔女』に与えられたものだ」と。
「……『転星』が終わって目が覚めた時点で、僕には手と足が無かった。だから、家族には見放されて……、近所の子供達にも馬鹿にされて……。ずっと……、ずっと悔しかった!」
戦いの疲労からか、身体を落とすサフル。息も絶え絶えながら、奥底から絞り出すように話し続けます。
そして、アレナはそんなサフルの様子を、じっと見ていました。
「『転星』の魔法は物を砂に変えるだけじゃない……っ! 砂から新しい物を作れるんだ……! だから……っ、だから、上手く使えば、僕の手足を作れると思ったんです……!!」
「これだって……、良く出来てるわ」
黙って話を聞いていたアレナでしたが、静かに立ち上がると、手に持っていた義手を差し出しました。
「貴方が作ったんでしょう? 生活でも戦いでも十分使え……」
「僕には違う!!!」
サフルの顔が、一瞬大きく歪みました。
どこかで土人形が、”がらり”と崩れ落ちる音がしました。魔力の残ってない目が、虚ろに天井を見上げます。
「どれだけ……便利だとしても……! どれだけ……そっくりだとしても……! 義手じゃ『砂天楼』に『棄てられた』ままなんだ!!!」
「…………」
アレナはわずかに俯くと、誰にも聞こえないような、小さな小さな声で呟きました。
「……”僕には違う”……か」
そして、そっと自分の髪をすくい上げると、桃色のメッシュが入った部分をじっと見つめました。
ふいに、彼女の瞳が琥珀色に染まりましたが、それがどうしたと言わんばかりに目を瞑ります。
「……”うるさい”って、何度言えば解るの……? 決めるのは、私よ」
再び小さく呟くと、目を開いて水色の瞳でサフルを見つめました。
「ねぇ、ミノ君。私と……、取引しない?」
「っ!? ど、どういう……!?」
「簡単なことよ。私はある目的のために、『転星魔法』を使えるようになる必要がある。でも、貴方の目的は『転星魔法』の習得じゃないでしょ」
「……えっ……!? えっ……!?」
「まだ解らない? 私の目的を叶える手伝いをしてくれたら、『転星魔法』で貴方の手足を作ってあげる。……どう?」
少しの間、サフルは口を小さく開けたまま、固まっていました。
ちょっと前まで絶体絶命だったというのに、いつの間にか、状況が逆転しているのだから、無理もありません。
当然、先ほどの言葉も打算があった訳では無いですし。(「てんさい」相手ですもの……)
再びサフルの目から涙が流れ、口元には不器用な笑みすら浮かんでいました。
「……それで、返事はどうなの」
半ば呆れながらも、優しげに尋ねるアレナに、サフルは大慌てで頭を縦に振りました。
「そこまで感謝しないでよ。貴方が”使える”って、判断しただけ」
そう言って、気恥ずかしそうにアレナが顔を逸らすと、握った義手が目に入りました。
「……そうね、とりあえずこれから始めましょうか」
すると、桃色の糸がアレナの周囲に現れ、落ちていた金属の欠片を拾い集めていきます。そのまま結び合わせるように義手とくっつくと、どんどん元の綺麗な形へと戻っていきました。
それと同時に、サフルの左腕の周りにも糸が現れて、義手と同じように修理をしていきます。
「『転星魔法』の研究、一緒に頑張りましょ。もちろん、“協会”には──内緒でね。」
「は、はいっ……!」
そう言ってアレナが差し出した義手とサフルの腕を、桃色の糸が、ゆっくりと結び合わせていきます。
『どんくさみのむし』と『てんさいかまきり』──、
こうして、2人の魔術師が出会ったのでした。
「……と、ところでアレナさん」
「ん、なあに?」
「あっ……、貴方の目的って……、一体何でしょうか?」
「ああ。『砂の魔女』を超えること」
「へぇ、『砂の魔女』を……って、ええええっ!!!?」
……それが良い事かどうかは、これからのお話。
ここまでで導入部は一区切りです。
勿論まだまだ構想はあります。
ただ、ここまでの部分で(AI様に煽られ調子に乗った部分も多々あり)設定がだいぶ変わってしまったので、ちょっとプロットを練り直すお時間を頂くと思います。
(あまり時間がかかるようなら、後々の展開に影響の出ない範囲で小出しにしていきます)
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