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私(ヤンデレ)が好きな男の子のしているFPSをやったら最強になったのだけれど

作者: 圓山匠深

 私の名前は空井窓香そらいまどか、何処にでもいる普通の高校生。


 最近、私には好きな人がいます。


 その人の名前は陸野洋平りくのようへい君、同じクラスメイトなのだけど、とても優しくて謙虚で格好良い人なの。


 少し寡黙な所もあるけれど、それがまた男らしさに拍車を掛けていて、生涯を共にするなら彼以外には考えられない程度には好き。


 そしていずれは都会の喧騒からは離れた田舎に戸建てを買って、リモートワークで毎日仕事をする彼を支えるの、そしたら息子二人が駆け寄ってきて――


「おーい窓香、ここの問題なんだけど難しくてよく分からなくてさー」

「今陸野君と息子二人で公園に行く所だから後にして」


「は? ああ……また窓香の激ヤバ妄想が始まったのね……」

「妄想じゃないから、いずれなる未来への予習だから」


「その割にまだ一回も話し掛けれてない気がするけど」

「ぐ……」


 彼女の名前は浅海梨央あさみりお、私の数少ない友人の一人。


 そして唯一、彼女だけに私の陸野君への愛を語ったのだけれど――


「大して役には立たず……」

「おい、聞こえてんだけど」


「まあ……私の意気地の無さが彼との距離を縮められない理由でもあるけれど――」

「登下校は毎日近距離から付け回してるストーカーがよく言うわ」


「失礼ね、土日祝もよ」

「そういう問題ではない」


「因みに陸野君に拾って貰ったハンカチは未だ洗わずに嗅いでいるわ」

「普通に汚いから洗え」


 いずれにせよ、こんな調子ではいつまで経っても陸野君を見るだけの存在になってしまう――


「こんなの○明子と同じじゃない……」

「見てる以外の共通点ねーだろ」


「さっきからうるさいわね……揚げ足取ってる暇あったら梨央も陸野君と一つになれる方法を少しは考えてくれないかしら」


「妄想がSFの域に達してるから……んーでもそうねえ、まあ口下手な窓香でも陸野に近づく方法は一つあるんだけど」


「!? な、何よそれ! 教えなさいよ!」

「おっと、幾ら友達でもそんな有益な情報タダで教える訳にはね~?」


「く……分かったわよ、次の数学の出題箇所の答えでしょ」

「毎度あり~やっぱり持つべきは友ね」


「全く……で? その陸野君に近づける方法はどういうものなのかしら」

「んー、それはね――」


       ○


「『スタイリッシュペリア』……ね」


 その日の夜。


 私は自室に入ると、パソコンを付けそのゲームをダウンロードしていた。


『このPCゲーは今大人気のFPSなの、男連中ならクラスの8割がやっていると言っても過言じゃない、当然陸野もね』


 俄には信じ難い話ではあるけれど、確かに陸野君が友人と会話する時に『スタペ』というワードが出ていたのは事実――


「それに共通の話題があれば会話する口実にはなる……けど私、産まれてこの方殆どゲームには触れていないのよね……」


 もし一緒にゲームが出来ても、下手で嫌われたりしたらどうしよう……。


「……いえ、やる前からそんなことを言っていても無意味よ。第一上手くなればいいだけの話なのだし、そうすれば陸野君と――」


 そう言って私は黒髪をゴムで縛り、切り揃えられた前髪をすっと横に流して気持ちを入れ直すと、理解が浅いままチュートリアルを終え待機画面へと戻る。


「ふうん、3人と5人プレイが出来るのね。そういえば梨央が初心者なら3人プレイから始めるのが良いって言ってたから――」


 私は人数を3人に設定すると、プレイの開始ボタンをクリックする。そして暫しローディング画面を見ていると、キャラ選択画面へ移った。


「まずはキャラクターを選択と……ううん、どれがいいのかしら……あ、この『ツバキ』ってキャラ陸野君に似てるかも――」


『宜しくお願いしまーす』


「え? あ、声が――――ってぇ!!!!??!?!?!?」


 本来であれば、それは極一般的な男性の声な筈。


 けれど、普段から録音した声を繰り返し再生し続けている私の耳には、それが誰であるか一瞬で分かってしまっていた。


「り、りりりりりりりりりりりりり陸野君……!?」


 ま、まさかそんな……! 何十万人とプレイヤーがいる中で最初に当たる相手が陸野君だなんて、そ、そんな奇跡が本当に……!?


 いえ、それともこれは必然? 私と陸野君は見えない宿命の赤い糸で結ばれているとでも?


「ヤバいわ、陸野君が私に語り掛けているという事実に頭がどうにかなってしまいそう……心なしか呼吸もラマーズ法に……」


 と、兎に角この機会を逃しては……ええと……会話機能はどれを押せば……。


「――あっ! ひゅっ……よ、よろしくお願いシャス!」

『宜しくお願いします。あ、女の子なんですね、珍しいな』


「ひゃっ、ひゃおおん! ヘイイ、じ、実は初めてで……」


『それはまた、まあ俺もまだ初めて1ヶ月ぐらいなんで、殆ど初心者みたいなものですからお互い気楽にやりましょう』


 はわ~、え? 私陸野君と普通に会話してるの……? そんな妄想でしかしてこなかったことが現実に――はっ、い、今すぐ録音しないと。


 しかし録音機材を探している間に私は自動でツバキが選択されると、陸野君は『ライラック』というキャラを選びそのままゲームが始まってしまう。


 陸野君に迷惑を掛ける訳にもいかないので渋々諦めると、武器を購入しいざスタート。


 が。


『MDKさんモク張った方がいいですよ』

「へっ? も、モク!? モクとは!?」


『MDKさん! そこに1人います!』

「えっ? ど、何処? 全然見えな――あああぁっ!」


「う、撃てば撃つほど視界が空に……」

『感度が合ってないんですかね?』


「MDKさんウルト今どれぐらいですか?」

『ウルト……? ウルト○マンか何かで――あ死んだわ』


 私は最初から最後まで陸野君の足を引っ張ることしか出来ず、結果は4-12と5-12、私は1人も倒すことが出来ずに惨敗。


【スタペ引退しろ素人】


 挙げ句終始無言でプレイしていた仲間にチャットで捨て台詞を吐かれ退出された私は、ただ呆然と画面を見ることしか出来なかった。


「ほ、本当にごめんなさい……」


『いやいや全然、あの人が言ったことも気にしなくていいですからね。何というかその、FPSって不思議と皆熱くなっちゃうゲームなんで』


「でも……私が原因で負けたのは事実だから……」


『まあFPS経験ゼロとは思いませんでしたが……ただ、どんなゲームでも初めから上手い人なんていませんから。慣れてくればきっと楽しい筈なので、どうかこれで止めないで下さいね』


「――!」


 あ、ああ……陸野君……! どうして貴方は陸野君なの……!


 もう無理好き好き絶対好き超絶好き好き、取り敢えず同棲から始めて陸野君はずっとゲームをしているだけの生活を私が作って――


『――あ、友人から招待が来たので俺も失礼しますね、それでは』

「え、あっ! あの! せめてお名前だけでも――!」


『え? ああ、俺のライラックの下に書いてありますよ?』

「へ? え、ええと……『下痢イズム』……さん?」


『そうそう、じゃあまた何処かで』

「あ! 陸――じゃなくて下痢イズムさあぁん!」


 そんな私の叫びも虚しく、待機画面から陸野君もとい下痢イズムさんのライラックが姿を消すと、1人私のツバキだけが取り残される。


 思わず深い吐息が漏れた。


「はあ……もっとお話したかったのに……でも何て優しい人、私だと気づいていないにも関わらずあの紳士な対応、やはり彼と私は――」


 ……あら? でもそれって陸野君は誰にでも優しいという話にもなってくるわね。


 待って。それは全く以て良くないわ……だってそんな聖人君子同然の振る舞いを誰にでもしていたら汚らわしい女狐が陸野君に群がるじゃない――


 しかも近年はゲームを介してカップルが誕生する話もザラにあるし……顔が分からない故の罠に陸野君が引っ掛かる可能性は十分あるわ……。


「まずいわね、早く片っ端から始末していかないと――」


 でも……こんな雑魚同然では下痢イズムさんを守ることなんて……。


「…………?」


 そう思った時。


 ふと画面の中にいるツバキと視線があったような錯覚に陥る。


 そんな筈はないと目をこするも、やはり陸野君に似た彼は何かを訴えているように見えた。


「――……そうよね、私がやらなきゃ――」


       ○


「まずは頭を撃ち抜く練習から――」


 その日から、私は猛特訓を始めた。


 まずはリコイルを安定させなければ話にならない、それも確実にヘッドを捉えなければ撃ち合いを制することはまず不可能と言っていい。


「練習しながら感度も調整して……後はエイムも――」


 強くなる上では何事も基礎を反復していくことが重要、故に私は最初の数週間を学校と寝食の時間以外は全て訓練場での射撃練習に充てた。


「おーい窓香、ここの問題なんだけどさー」


「アサルト、ピストル、ショットガンは安定してきた。後はスナイパーと……ボム設置後の撃ち合いも覚えないといけないわね――」


「窓香……カチコミ告白は流石にどうかと思うよ」

「は? 何を言っているの、というか今スタペについて考えているから後にして」


「スタペ? ああまだやってんだ、てっきり難しくて止めたものかと」


「陸野君を蛮族から守らないといけないのに、難しいなんて戯言を使ってしまうならスタペなんて止めてしまいなさい」


「そういうゲームじゃないんだけど」


 いずれにせよ、これではまだ陸野君を守り切るには程遠い。基礎が終われば実践を積んでもっと強くならないと――


「陸野君……待っててね」


       ○


 その後も私は毎日のようにスタペをプレイし続けた。


 最初と比べれば見違えるように弾も当たり、ウルトを使うタイミングも覚え始めてくる。


 気づけばK/D(キルレ)も1を超え始め、ランクもゴールドまで上がっていた。


「ふ、ふふふふふ……見える、見えるわ……! やはり陸野君への想いは誰にも止めることは出来ないのよ、さあここから更にランクを上げて、必ずや彼を――」


 しかし。


 そこから私の実力は上がっていくのとは裏腹に、あれだけ調子の良かったランクが徐々に停滞し始めていく。


「ま、また負けた……」


 決して大敗することはないものの、序盤で私がやられるとなし崩し的に負ける場合が多い、全員倒せても攻撃側が設置したボムの処理が間に合わず負けることも多々――


 無論仲間の実力が劣っている事実はある、あるのだけれど――


「これは明らかに連携が取れていないわ……」


 各々が好き好きにやっているせいで全体の把握がまるで出来ていない、ボイスチャットで指示する人はいるけれど、話を聞かない人もいるし……。


「つまりこれが野良でやることの限界……なのね、なら――」


       ○


 それから1か月後。


『おい知ってるか、ランドフィールドってクラン』

『ああ、動画見たけどヤバかったな、プロチームが完敗とは』

『しかもあいつらチャットで会話してたぜ』

『リーダーのMDKだけボイチャらしいが完璧に統率してたぞ』

『不気味過ぎだろ、おまけにMDKはツバキ使いってのが』

『ティアCなのに何回も5枚抜きしてたぞ、異常だよ』

「…………」


「ふ、ふふふ……」


 つ、ついに私は最強になったわ……。


 実力も折り紙付きの、干渉も馴れ合いもしない、忠実に私の指示に従う人間だけを従え、日本で最強と謳われるプロチームに勝つことが出来た。


 それはまさに軍隊そのもの……当然時には厳しいことも言ってきたけれど――お陰で誰にも負けないクランを作り上げた。


 これで陸野君に寄生しようとする女は全て排除することが出来る……スタペの前では誰も私に逆らうことは出来ないのよ……!


「ぐふ、ぐふふふふ……ぐひひひ……りぐのくぅん……」

「ヤバこいつ……目の隈エグいし」


 後は陸野君もとい下痢イズムさんにフレンド申請をするだけ、それで――


「それで……あれ? 何をすればいいのかしら」


 全ては陸野君を想ってやってきたけれど……そもそも最強になった私を見せることに何も意味はないんじゃないかしら……?


「寧ろただの煽りにしか……やだ、もし陸野くんに『キモ過ぎて草』とか言われたら、わ、私……いやそそれはそれで全然悪くない……?」


「……窓香」


 そんなプチパニックを起こしてしまっていると、ふいに梨央が私の肩をポンと叩いてくる。


 その表情は、何処か哀れんでいるようにも見えなくなかった。


「……何かしら」

「私は――窓香が頑張ってきた姿を知ってるから」


「え……?」


「例え何がキッカケでどんな理由があったしても、窓香が陸野君の為に一生懸命だった事実は変わらないんじゃないかな? 少なくとも私はそう思うけど」


「り、梨央……」

「だから、それを伝えるだけでもきっと何か変わってくる筈だよ」


「で、でも、流石に面と向かっては……」

「え? でももう呼んでるんだけど」


「は?」

「空井さんどうかしたの? 何か話があるって聞いたけど」


「!!!!!!??????!!!!!!???????!!!!!!!?」


 まさかの梨央に隠れるようにして現れた陸野君の姿に、私の心拍数はボムが爆発する寸前に鳴るアラート並に急上昇する。


 い、いや、マジで何してくれてんの……陸野君をそんな軽々しく呼び寄せるなんて一体どういう神経しているのかしら。


 というか、気軽に呼べるってもしかしてそういう関係なの? へーあ、そう……そういうことなら二度とスタペが出来ない身体にしてあげて――


「空井さん大丈夫? 何か体調が良くなさそうだけど」

「へえぇっ!? い、いいいやいや、そんなことはないのだけれど――」


「そう? ならいいんだけど」


 ああ嘘でしょ……陸野君近過ぎ……もう匂いだけで1デスしそう。


 って、そんな場合じゃなかったわ。梨央には後から事情聴取をするにしても、ま、まずはちゃんと伝えないと――


「あ、あの……り、りり陸野君ってスタペってやってる……?」

「? やってるよ? もう4ヶ月ぐらいにはなるんじゃないかな」


「はわあぁ……あ、あの実はそのことなのだけれど……陸野君の使ってる名前って『下痢イズム』だったりしないかしら……?」


「なんちゅう名前やねん」


「え? あ、ああ……確かにその名前は俺だね……」


「! や、やっぱりそうなのね! そ、その……もしかしたら陸野君なら知ってるかもしれないけれど……じ、実はMDKの中身って私なの」


「!? ……MDK様の正体が空井……さん……?」


「! やっぱり知ってるわよね! そ、そりゃ私が初めてスタペをプレイした時に一緒のパーティだったものね! あ、あの時物凄く下手だったでしょ? で、でも陸野君が優しくキャリーしてくれたから……それで何か運命も感じちゃって、だから陸野君を想って必死に練習を――」


 …………MDK様?


 おかしいわね、そこは寧ろ私が陸野様、いや下痢イズム様と言いたい位なのに、何故彼がMDK様などと言っているのかしら。


 というか、その呼ばれ方は私のクランの――


 そう思いながら視線を陸野君へ戻すと、何故か視界に彼がいない。


 よく見ると、思いっきり跪いていた。


「り、陸野君……!?」

「MDK様――お会いできて光栄です。俺の名前は『G1(ジーアイ)』と言います」


「G1……って、ランドフィールドの……」


「はい。仰る通り元々下痢イズムという名前でプレイしていましたが……初期の入団面接の際に流石に名前が汚過ぎると思い変更を――」


 G(下痢)1(イズム)。


 え? じゃあつまり……陸野君は私が作ったクランに最初から所属してたってこと……?


 そ、それは……結果オーライと言いたい、言いたい筈なのだけれど……。


「まさかMDK様が同じクラスメイトとは思いもしませんでした……ですが、私の忠誠心はこの身朽ちても不変ですので」


「えっと……あの、いや陸野君はそういうのじゃなくて……」


「はっ! そ、そうでした。我々は無駄な干渉せず、淡々とスタペをこなす集団――雑談など無用の産物でしたね。失礼しました、ではこれで」


「ああああぁっ! そ、そういうことでもなくてえええええぇー!」


 まさかの展開に私は人目も憚らず声を上げてしまうが、不幸にも私のせいで調教されてしまっていた陸野君は一瞥もせず帰ってしまう。


 あ、ああ……な、何でこんなことにぃ……。


「うぐぐぐ…………」

「え、えーと……まあ、愛にも色んな形があるということでいいかな?」




「どう考えてもいい訳ないでしょうがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

最後まで読んで下さった読者の皆様に心からの感謝を。


余談ですが下痢イズム君はMDKさまと最初にプレイしたことは覚えていません。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、どんまい!と言うしか… まだ振られたわけじゃないしチャンスはあるさ…多分 ところでイズムの略がIじゃなくて1なのはなにか理由が?
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