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雨宿り

 雨粒が地面に当たり、サアサアと布が擦れるような音が響いている。風の音はやや強く、彼方では雷の音。

 辺りは既に灰色の宵闇に包まれていた。普段ならまだ日の光が残っている時間だが、今日は雨雲に隠されてしまっている。

 小さなランタンの明かりの許、リィルアはぼんやりと中空を見つめていた。

 視線の先には、ランタンの明かりにぼんやりと浮かぶジェインの羽。ジェインはリィルアの傍に座り、片翼を持ち上げてリィルアの雨除けにしていた。

 普段なら簡易のテントを建てるのだが、今彼らが居る島は地面が硬い岩石ばかりで、それが叶わなかったのだ。

「……なんか、ちょっと申し訳ないなあ」

 ぼんやりとした口調で呟くリィルア。そして視線を斜め後方、ジェインの顔に向ける。

 目を閉じて休んでいたジェイン。声に反応し、ゆっくりと目を開いた。

 ジェインには雨除けは一切ない。顔にも雨水が伝っている。リィルアが感じる申し訳なさは、これに起因していた。

「別に俺は濡れたところで風邪を引くこともないし、気にするな。それよりも……」

 雨除けになっている羽を、少し下げるジェイン。

「お前が濡れるのが心配だ。この風だと流石に吹きこんできているだろう」

 それを聞くと、リィルアは笑みを浮かべ、ジェインの横腹に深く背をもたれた。

「多少のことは構わないよ。テントだとジェインにくっつけないし」

 ジェインの喉奥でぐうという低い音が鳴る。

「俺が身動き取れない時にそういうことを言う……」

 その声にリィルアは思わず笑い声を漏らした。

 リィルアを力なく睨むジェイン。しかし数秒後大きく溜息を吐いた。

「……前から思っていた事だが」

 少しして、ジェインが口を開く。

「何?」

「どこか住む場所を決めるつもりはないのか? 当然色々と金はかかるだろうが、リィルアならすぐ当てを見つけられるだろうし、場合によっては俺も働けるわけだが……」

「え、ジェインが他の誰かと働くなんて考えられないんだけど」

「仮定の話だ。それは俺もよく分かってる。ともかく、定住についてはどう思ってるんだ?」

 リィルアは数秒黙って、視線を上に向けた。

「うーん、正直あんまり魅力は感じないかな」

「どうしてだ?」

 再びリィルアは黙り込む。そして考えを纏めると、ゆっくりと口を開いた。

「定住するなら、今みたいに僕達二人だけの関係だけじゃ生きていけないだろ。今は旅をしているから、どこかの誰かに少しずつ助けてもらえばいいだけで。そしてそうなったら、僕らは常に彼ら・・を演じないといけなくなる」

「受け入れて貰えるように努力することはできるんじゃないか?」

 リィルアは苦笑した。

「それが簡単にできるのなら、僕らは今こうして旅をしていないよ。……確かにそれは方法の一つだろうけど、その為には沢山の人を悩ませることになる。僕達含めて」

 ジェインは黙って、リィルアの言葉に耳を傾ける。

 徐に、リィルアは片腕を伸ばし、自分が背もたれにしているジェインの身体を撫でた。

「僕はね、より多くの人が安穏に過ごせるなら、それでいいんだ。僕らがそれを崩してしまうなら、そんな所には居なくていい。幸運なことに、僕にはジェインが居るし、何よりこうやって、二人で旅を続ける力を持ってる。思い上がりかもしれないけど。だから、今のままでいいんだ」

「……リィルアはそれでいいのか?」

 するとリィルアは、ジェインの身体を撫でる手を止める。そして、ジェインの顔へと目を向けた。

「僕はジェインと一緒なら、後は何も要らないんだよ」

 そういって、ジェインに微笑みかける。

 暫くの間、雨音が辺りを包んだ。

 ジェインは一見不機嫌にも見えるような表情で、リィルアから目線を逸らす。

 そして突然、雨除けにしている羽を、バサリと下げた。

「おわっ」

 一瞬羽に潰されるリィルア。

 ジェインはすぐに、羽を元の位置まで持ち上げた。驚いて目を閉じているリィルアの顔が、ジェインの視界に入る。

「雨が止んだら覚悟しておけよ」

 するとリィルアは方膝を立て、その膝に穂杖をついた。そして、ニイと悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「仕向けたのは僕だよ」

 再び低く喉を鳴らすジェイン。

 二人をランタンの仄かな明かりと、打ち付ける雨音が包んでいた。

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