モーテル
モーテルとは、ドラゴンや小型飛行機等を停泊させるガレージと、宿泊施設が一体となった施設のことである。
基本的に少人数の旅人専用の施設だが、その割に必要な土地面積が広いため、そう多く見かけるものではない。
その時リィルアとジェインが宿泊したモーテルも、久しぶりに見つけたものだった。
案内された部屋の様子を見て、ジェィンは思わず顔を顰める。
宿は、お世辞にも質がいいとは言い難いものだった。壁や天井、調度品の一つ一つに至るまで、年季とこれまでの雑な扱いが感じられる。申し訳程度の照明が汚れや埃を浮き上がらせるせいで、低質さがより際立っていた。
「……なあ、流石にこの宿は如何なものかと思うのだが」
案内人が立ち去ったのを見計らって、ジェインは口を開いた。
その言葉に対し、リィルアは何食わぬ表情。
「どうして? ベッドがあるし、雨風凌げるし、扉に確り鍵もかかる。最低限は揃ってるよ」
余りに欲を欠き過ぎた言動だ、とジェインは思った。
「最低限なら、普段の野宿もそうだろう。折角町に泊まるんだ、もう少し休める場所を選んでもいい筈だ」
リィルアは、大げさに肩を竦めてみせる。
「確かに一理あるけど、僕はさ――」
一度言葉を切り、粗末で薄いマットレスが敷かれたベッドに歩み寄った。そしてそのまま、ベッドの端に座る。
「ベッドがある部屋にジェインが居てくれるから、絶対ここがいいと思ったんだ」
そして、身振りでジェインを傍に呼んだ。
ジェインは大人しくそれに従う。既に、リィルアに何かを言う気は失せていた。
リィルアは、ジェインに付けられた龍具をテキパキと外していく。
それが終わると、ジェィンの口吻に腕をまわし、そのまま仰向けに倒れた。
リィルアの動きに合わせて、ジェィンは上体を前方に差し出す。
最終的に、リィルアが寝転んで、ジェインの口吻を抱く姿勢になった。
ジェィンは目を閉じ、顎下の皮膚でリィルアの鼓動を感じる。
暫くそのままの姿勢で、二人とも動かなかった。
その後、最初に動いたのはリィルア。腕に力を入れてぎゅうとジェインを抱きしめ、その後大きく息を吐いて脱力した。
ジェインは目を開け、リィルアの顔を見る。
リィルアは目を閉じていた。
「……落ち着いたら眠くなった」
重たそうに開かれたリィルアの口からは、そんな言葉が漏れてくる。
ジェインはリィルアの顔を少しの間見つめた。
「ゆっくり休んでくれ」
その言葉に、リィルアの口角が少し上がる。できることなら、ありがとう、と言いたかったのだろう。
ゆっくりと寝息を立て始めたリィルアを暫く眺めた後、ジェインは静かに目を閉じた。