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破滅的な勇者

私、(せい)(えい)高校に通う花の十七歳! 伊柳優芽! ユメちゃんって呼んでね☆


今日から新学期っていうのに寝坊しちゃった! 途中に横断歩道で寝てる人もいて時間取られちゃうし……。急がないと!


と思って、普段使わない近道を使ったのが運の尽きだった。


「よぉ、どこ行くのかな?」

「俺らと遊んでかない?」


日の光も殆ど届かない、室外機とゴミ箱が並ぶ薄暗い路地。見るからに誰も立ち寄らなそうな路地裏。安易にそこに飛び込んでしまった。そこはタチの悪いヤンキーのたまり場で、丁度わたしからは見えない位置にいた彼らに見つかった。どうにか無視して通り過ぎようとするも、腕を掴まれ強引に引き留められる。


「は……離してください……が、学校に遅れちゃうので!」


「学校なんてつまんないだけっしょ? 俺らと来た方が絶対楽しいって」


震える声を必死に抑え、勇気を振り絞って断るも聞く耳を持ってもらえない。振り払おうとしてもそれ以上の力で抑えられる。


ニヤついた顔で、暗がりで、大通りからは遠い場所で。脚もすくむし、大きな声を出そうにもうまくお腹に力が入らない。


(だ、誰か……)


そう思うも望みは薄い。とても誰かが来てくれそうな気配はない。だからこそ、この人たちは強引な手段で私を連れ去ろうとしている。


もし。もしもこの人たちに連れていかれたら……。

間違いなく悲惨な未来が待っている。無理やりどんなことをさせられるか。きっと無理やり犯され、まわされて……。想像しただけで吐き気がこみ上げてくる。助けてくれる人もおらず、事件が発覚するころにはきっと、私は心も体もボロボロ……。そんなのは嫌だ……。絶対に嫌だ……。


それでも、自分の力では微塵も抵抗出来ない。何も出来ない。助けを呼ぶこともできない。自分はごく普通の女子高生で、格闘技も習っていなければ体を鍛えたこともない。初めて経験する恐怖にどう対処すればいいのか、見当もつかない。


中学生のときに受けた不審者対策講座をふと思い出す……。

あのときは……。そうだ。ろくに話を聞いてなかった。

たとえ自分が変な人に絡まれても、股間を蹴るなりなんなりして逃げられるだろう。そう高を括っていた。


でも現実は違った。大切なことはいつだって、致命的な失敗を経て本当に学ぶのだ。

掴まれた腕からは、自分の無力さ、非力さがじんじんと伝わってくる。


家が貧しいから部活をするお金もないし、アルバイトをして家計を助けないと友達と遊びに行くこともできない。


だからこそ、学校での勉強は大事にしてるし、友達との時間も大事にしているのだ。


でも……。


どうしたら……。


誰かが助けてくれる可能性も殆どなく、自力で逃げることも不可能。八方ふさがり。四面楚歌。状況は絶望的。


まさかちょっとした寝坊で、私の人生がどん底まで叩き落されるなんて思ってもいなかった。


もうどうにでもなれ!

自棄になった私はなんとか状況を打破しようと賭けに出た。しかしそれも男の力で押さえつけられる。殴られ強引に黙らされそうになったそのとき――――。


「そ、そ……その人を離せ!」


私の心が絶望に支配されそうなとき、その人は来てくれた。

小さな勇者はやってきた。



黒い髪はボサボサ、肌は日に焼けて荒れている。貧しいことが一目で分かる麻?かなにかの服。ガリガリで栄養も足りていないことが一目で分かる。ついさっき横断歩道で寝ていた、変に礼儀正しい同い年くらいの少年だ。


助けが来てくれた! と思ったのに、全然勝てそうにない。正直そう思った。


私の見立ては正しくて、その人は一方的に殴られて蹴られて、うずくまって……。

全く歯がたたない。喧嘩にすらなっていない。なんで。どうして出てきたの? 何がしたいの? あなたにどうにか出来そうな相手じゃないじゃない。


勇者はあっという間にやられて、僅かな希望は簡単にへし折られた。


もう連れていかれるしかないの? このゲスな男たちの言うなりになるしかないの……?


再び、私の心には暗雲が立ち込める。疑念が、絶望が蘇る。


でも、勇者は諦めなかった。もう一度立ち上がって、ヤンキーたちを必要以上に挑発して注意を引き付けた。そんなことをすればどうなるか、ちょっと考えれば分かるだろうに。本当に立てなくなるかもしれない。腕も足も、一生障害を引きずるかもしれない。そんな怪我くらい、平気で負わせてきそうな人たちだ。


だというのに、彼の瞳は燃えていた。少し赤みがかった瞳は、静かに怒りを爆発させ、力のあるものに弱者が虐げられているのが許せないと、そう訴えるように燃えていた。


この人が注意を引き付けている間に……。一瞬だけそう思ったが出来なかった。この人を見捨てて逃げることは出来なかった。


この無謀で破滅的なお人好しの勇者を見捨ててはいけないと思った。


この人がダメでも。何も出来ずに負けたとしても。目を背けてはいけないと思った。


そして――――


結果、私たちは助かった。本当にギリギリのタイミングで警官が来てくれた。


事情聴取は後日、ということで家まで送ってもらい、私と勇者は助かった。


家について、パパに抱きしめられて、ようやくホッとして腰が抜けた。

よかった。この人が来てくれてよかった。体を張って、時間を稼いでくれたおかげだ。

変な見た目の人だけど、とてもかっこよかった。

ありがとう。


どうやってお礼すればいいだろう。


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