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ノマドファミリー  作者: 中山恵一
8/17

残像

ゴールデン・ウイークが終わって、また四人家族での日常に戻り

特に何か誰かに言うような事などない同じ事の繰り返しが再開される。


また、なんとも許せない行為をする同居人が視界に入る。


他人の部屋に入る時は、ノック位するのが最低限の礼儀。異性であれば尚更だと思う。


のだが、何かを思いついてノックもせずに部屋に入ってくるようなマネをする。

しかも、すぐ出て行けば良いものの、しばらく立ち止まって眺めてくる。

非常識だと思わないのだろうか。


とは思うが、「いいじゃないか家族なんだから」という一言で

同居のオッサンは、ズカズカと踏み込んできて、アレコレ語っていく。


今日も夜になって部屋にいると突然に扉が開きオッサンが入ってくる。


「居るか?」


出会って間もないのに、ずいぶんな言い草だと思う。否定はしないけれど。

部屋を見渡し、静香に目を遣ると、訂正するように言った。


「ん、ああ。ごめんよ、静香ちゃん。

 どうにも あれの部屋とゴッチャになっててさ

 また間違えちゃったよ」


たぶん何かを話したくてか馴染みたくて

ワザと間違えているのが見え見えなのだが

あえて、それには触れず、静香は尋ねた。


「そういえば、二人きりの旅行どうでした? 楽しかったですか?」



「ああ楽しかったよ

 生まれて始めて、一生、忘れられないような時間を過ごせたよ」



「生まれて始めて、一生、忘れられないような時間を過ごせた?


 今まで全国の各地に行ってたんですよね。

 仕事でとは言え、その仕事の合間に忘れられないような時間って

 あったんじゃないんですか?」



「今までの仕事のために全国各地を巡っていたと言っても

 作業場と仮眠室代わりのキャンピングカーだけで過ごして

 旅行とは言えない仕事のため出張を延々と続けるようなモノだったし


 想い出に残るような誰かとの触れ合いなんか無くて

 仕事に必要な最低限度の業務連絡や報告で会話するだけで

 損得勘定と利害関係だけがあって社交辞令を交わすだけだったから


 何か美しい心に残るようなイメージが発生するワケは無くて

 仕事の区切りがついたら忘れたくなるような事ばかりだったからね


 生まれて始めて・・・だな。うん」



「一緒に全国各地を回っていたアレとは

 忘れられないような時間って無かったんですか?」



「アレか・・アレとはね、無かった・・うん。奴がいるのは当たり前だし


 まあ、静香ちゃんも恋人が出来たら理解できると思うよ。うん。その内」



「そんなもんなんですかねー」



「うん、そんなもんだよ。


”この素晴らしい時間を過ごせた事を想い出に、

 この先10年以上、いや一生、この想い出だけで生きていける。”


 そんな衝動を抱える人すら、いるくらいなんだから

 色んな忘れられない時間を過ごしたり

 何故、こんな衝動を心にを抱えたんだろう。


 って思えるような経験とかするようになって理解できるよ。


 まあ、ただ、その衝動の種類や、忘れられない時間の内容は

 少なくとも、俺みたいなオッサンとは違うだろうけどな。」



”何を当たり前な事を言っているんだ

 同じなワケないじゃん。アンタとは違うよ

 アンタはアタシじゃないし、アタシはアンタじゃない”


そんな言葉が喉元に浮かぶが言わずに飲み込み応える。


「そんなもんですかねー」


「そんなもんだ。じゃ、そろそろ、おやすみ」


「はい、おやすみなさい」


まだ、何かを言いたそうな顔をして名残惜しそうに義父は去っていった。


静香は誰もいなくなった室内を見渡しながら漠然と言葉を思いつく。


 そうかー、大人になると利害関係と損得だけになるもんなのか

 だよねー、好き嫌いとかだけで人間関係を選べるワケじゃないだろうからな


 でも、”一生、心に残るほど美しい衝撃的なイメージ”かぁ


 見てみたいけど、漠然と望んでいたのと違っていたら

 そのギャップに失望とかするんだろうなー


アレコレと思いつく言葉、そのイメージって、こんなのかなー

とか思いつく昔、読んだ少女マンガのワンシーン


馬鹿げた事を思い浮かべる内に夜はふけ、静香は寝落ちしていた。


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