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ノマドファミリー  作者: 中山恵一
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ゴールデン・ウイーク・シャッフル 同居の生き物


ゴールデン・ウイークと世間で呼ばれる同じ時間を

違う場所で一緒にすごしている人々


今までオヤジと二人で過ごしていた時は考えた事すら無かったが

同じ年代の男女ペアで同じ一つ屋根の下で過ごしていると

同じように時間を過ごしているはずの人々が

心の視界に入ってきて、その男側の存在と心が同調し

同じような事を考えているような錯覚に陥ってくる。


トランプの同じ種類のカードと並べられ

誰かに面白半分に心に刷り込まれた言葉を

シャッフルされているような気分だ。


実際には、そんな神のような存在などいるワケじゃないのに・・




そんな奇妙な感覚の中での生活も瞬く間に一週間が過ぎ

明日はオヤジと義母が帰ってきて、

この一年間で形成された今まで通り、いつも通りの日常に戻る。


今まで抱えた事すら無かった奇妙な感情の中で過ごす時間も

今日が最後なのだと思うと名残り惜しい。


「ただいま」


日曜日の朝、友人と会ってくると言って出かけ

夕方になって帰宅した静香の声が響く。


なにやら様子がおかしい。見慣れないトートバックを手に

何かを言いたげにしている。不自然だ。

しばらくして、決意を固めたのか、話を切り出してきた。


「実は、友達に子猫を貰ったんだ……」


持っていたトートバックから白い子猫が顔を出す。


「え? 動物の世話するのとか好きなのか?……」


「何? 子猫の世話すら出来ないとでも言いたいの?」


眉根を寄せ抱えた不満を丸出しにする静香。

正直に自分の感情をさらけ出すくらいには馴染んでくれたのは良い傾向だと思うが

近い距離で感情を真っ直ぐ言葉したような感覚で話されるのには慣れない。


「世話なら自分でやるし、一緒に子猫を育てないっていう

 友達の誘いが嬉しかったんだもの」


どうやら迷える生き物を抱えてしまう習性があるようだ。

去年から今年の一年間だけで考えても


迷える後輩、迷える同級生、迷えるOGと家に連れてきては

悩み相談室を開いていたが、


ついには毎日、最初は全てを世話しないとならない

ペットを抱えるつもりになったようだ。


典型的な世話好きで物好きとも言える御嬢様の

内輪流行というか庶民救済ボランティアというヤツなのだろうが


(お約束パターンで毎度、自分一人で対処できなくなると

 そのボランティアの救済作業の手伝いが回ってきていたのだが・・)


白い子猫がこっちを見て、首を傾げているように見える。

純真無垢な丸い瞳が、心を覗き込むように見つめている。


思わず一言が口から漏れる――


「……かわいいなあ」


「何、らしくないこと言ってんの?」


思わず声に出したボケセリフに突っ込みが入る。

漫才コンビのボケになったような気分だ。


「この子猫の名前、決まってんの?………」


「うん、親猫の持ち主が仮で呼んでいた名前があって

 それじゃないと反応しなくなったみたい」


「なんて呼び名?」


「テンポ」


言い間違えて噛んだら、とんでもない単語になる呼び名だ

親の持ち主は、同じ学校の高貴な家柄の結構な御嬢様という話だったが

まさか下品な単語を口走らせ、その一回の言い間違いを

一生、突っつき回すという悪趣味な事を

”高貴な家柄”な人々の内輪でやっているのだろうか?


それにしても、義母さんも有能な働き者なのだなと思う。

そういった地元の大地主一族とか、同族会社のオーナー社長一族とか

とにかく結構な学費を払える家の御嬢様じゃないと

入学金すら払う事ができないような私立学校に

初等部から通わせられるほどの経済力を所有しているのだから


「テンポかぁ、テンポ! おいで テンポ」


呼んでみるが反応しない。


「テンポ テンポ」


静香が呼ぶと反応してヨチヨチと歩いていく


若い女の声にしか反応しないって、なんだ御前はロリコンの変態か

などと思いついたが言い出しはしない。


最初に御主人様と刷り込んだ御嬢様と声の周波数が似ている声にしか

反応しないという事なのだろうか?


悔し紛れに痛みで言う事を聞くように調教してやろうか

などと思いつき手を伸ばそうとすると

その思いつきを察知したのだろう静香が抱きかかえ

変な事しないでね。とでも言いたげに睨んできた。


たった一年を一緒に過ごしただけなのに

抱えた感情が以心伝心で伝わってしまう部分が出来ているのだろうか


「テンポ、か……。どうにも陳腐な馬鹿みたいな名だな。

 でも、その名前が刷り込まれているなら、その名で呼ぶしかないか!」


子猫の名前は決定した。


一人の時は、ひそかに先頭一文字を変えた

しょうもない呼び名で呼んで刷り込んでやろうかな


などとも思いついたのだが、それも顔に出ていたのだろうか

彼女が何かを言いたそうに睨んできた。


実際に口にしないのに伝わるっていうのも不便なのだなと思える

下手すると一日中、同じ相手と口喧嘩をしているような感覚になり

心の中で罵り言葉が鳴り響くような日常になってしまうのだろうから


人生の多くの場面を一緒に過ごした老夫婦とかは、どうしているのだろう?

ツーカーで相手の考えている事が全て理解できてしまうという事は

相手が何も考えないで、自分の考えている事に聞いているような常態で

日常を過ごしてくれない限り、一人二役の独り言を一日中、言っているような

変な人になってしまう可能性すら、あるんじゃないだろうかとも思える。


そんな思い付きを吹き飛ばすかのように静香が言い出す。


「これ、アタシのだからね、世話とかしなくて、いいから

 名前を呼んでも反応しないくらいに懐いてないんだから

 そうするのが当たり前だよね」


最初は、そう言ってはいるが、大きくなって可愛さが薄れ

太ってブタ猫にでもなる頃には飽きて面倒になって


年末年始頃には世話を押し付けてくるんじゃないかなとも思えたが

それは口にせず、うなづいた。


「……わかった、この子猫の世話は自分で やるんだな」


ゴールデン・ウイークの最終日、我が家に新たな同居人が出来た。



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