ランナーズ・ハイ オッサン女との交信
「えー、こーゆー物語を書くの下手なんだねー
いわゆる ジュブナイルって感じの
高校生の視点から見た群像劇? みたいな」
メールで自作小説を送ったオッサン女から
Webテレビ電話で返事が返ってきたのは土曜日の夜
「いや、部活動ってのを、しなきゃならなくてさ
んで面倒じゃないのって何だろうなって思って
文芸部にでも入ってみよっかなと思ってね
んで一番、最初に書いたのが、この物語なワケ」
「ランナーズ・ハイ ねえ?
で義妹の高校生活が、こんなもんなんかなーと
妄想を膨らませて書いたのがコレってワケ?」
「なんてーかねー、本当に何事も無く淡々と過ぎていく
同じ事の繰り返しな学生生活してるんでね
無いんだよねー、特にドラマティックな物語の種なんて」
「で、最近の少女マンガ王道パターンで
この国立君が、スーパーダーリンにでも、なるとか?」
「スーパードァーリン? 何それ?」
「そりゃ同じ女の誰もが羨むようなスーパーダーリンだよ
こういう男の奥様になれたら一生、なーんの苦労も無く
誰もが羨むような楽しい週末を過ごせて
誰もが素敵と眼がハートマークになるような夜を過ごせて
色んな事が上手なスーパーダーリン
実際には、色んな事をやりたがるだけの下手クソとか
一緒に結婚なんかしたら一生、苦労するだけの甲斐性無しとか
そういうのが父親とか兄弟とか、田舎の小中学校の同級生とかで
いるだけな女子にとって、私の情けない現実から救出してくれる
夢の王子様。何もかもがスーパーなダーリンだから
スーパーダーリン」
「それって、独身労働者女性向けレディコミで
億万長者の若い色男の社長に気に入られて恋人になる女
てなパターンの色恋沙汰物語の事?
嫌、そういうのじゃ今の所、遠い世界過ぎてピンと来ないんだよねー」
「いや、でも、面白いと思うんだけどなー
この女が国立君を無理やりスーパーダーリンにすべく
有名一流大学に入学させて、有名大企業に入社させて
出世するように有望な社内政治家に取り入らせていって
恋人同士、夫婦生活の中で、そう仕向けていく日常
んだから、まずは有名大学受験編からだよね」
「って、それってモロ、今、日曜劇場でやってる
ドラゴン桜のパロディっぽくなっちゃうんじゃ?」
「ん? だから、そこは変にカブらないように
有名大企業メーカーに勤務する社員様が
会社からの特許をとれるアイデアを出せと言われて
アイデアをひねり出して
何度、アイデアを出しても
知的所有権データーベースで重複アイデア検索すると
”もう既に、そのアイデアは誰々さんにより
実用化、商用化され知的所有権データベースに登録済”
と出てくるけど
懲りずに今度こそ今度こそとアイデアを出すかのように
独自の斬新なアイデアをというものを考えないと」
「できるかあああああああああああああい
んだから高校生の部活動だから
そこまで頑張れとは誰も言わないよ。普通」
「ん? でもね、それくらいの心づもりで、やって
少しはマシなものが書けるんじゃないの?
良く聞かない? 学校の先輩とかが言わない?
昔、同じクラス内で爆発的に流行したけど
あっといい間に流行は去って
そんな流行があった事を闇に葬りたくなるような
しょうもない内輪の流行があったとか
それについて言われるのが嫌だから
後輩の内輪で、同じような馬鹿げた流行を広めて
後輩のせいにして自分達は卒業するってパターン
マシなものが作れないと、そうなると思うんだけど
いいのかな? そんな黒歴史を創作してしまって?」
「それは・・・いやだけどね」
「じゃ、少しでも多くの人が斬新さを感じるようなモノって
どんなもんかなーとか考えて、それを表現してみれば?」
「言うのは簡単ですよね」
「あー、ごめん、土曜夜の闇の業務報告の時間だ
時代遅れパンチパーマ親方が職人や関係者を週末に巻き込む時間
パンチ・パーマ・ターイムなんで、じゃあね。また来週」
と言い放つとオッサン女との交信は途切れた。