オッサン女の日常 6月
6月に入って実験用モルモットAの設定作業がひと段落して
オッサン女は新しく一緒に働く事になった同僚の車に行った
動くワンルーム・マンションというか、移動個人事務所
中古でなけなしの金で買った自分のオンボロ車とは、ずいぶん違う
「で、これがさ、通信衛星から画像情報を受信する機能だけに特化した
ソフトの機能設計の叩き台なんですけどねー
どんなもんでしょ? まあ、これじゃあ美しく映らないでしょうけど」
素晴らしく色々と設備が整えられた移動個人事務所
って感じのスペースの中に置いてある
インテリアのような色に塗られたノートPCの画面を
こっちに向けて見てくれって感じで話しかけてくる
「あ、ああ……逆の機能
送信する機能に特化したソフトとの整合性がとれていれば
よろしいんじゃないんですか」
「でも、なんですよね。住民の安全のために地域を監視して
宇宙の空の果てからも、監視するなんて
別に地上の監視カメラだけでも、いいんじゃないかって感じがするんですけどね
そう思いません?」
「どこかの国の要塞都市みたいに入り口のゲートで
どんな人が出入りしているかのチェックをしてますが
我々のスマート・シティは独自に天候とかについても
衛星画像を使って太陽光発電効率や、風水害
道路インフラなどの安全状況をチェックしています
てな完璧な監視チェックを何重にもしていますって
目論見らしいんだけど
たしかになー、実際に色んなインフラとかを量産する上で
地上監視カメラだけで十分、そんな衛星利用の維持費なんて
ウチの自治体の税収じゃあ無理です
って事になるんじゃないかなーって気もするね
たぶん、スマートシティの一機能としちゃ
そんなに意味は無いかなって事になって
気象衛星や紛争地域偵察衛星にでも使われるんじゃないかな
デキが良ければ」
「紛争地域偵察衛星って・・・
まあ、あーいう軍事衛星が予算の無駄だって事になるくらい
平和になれば、いいんですけどねー」
オッサン女同士の会話のない生活の中、
さんざん酷使され、それでも活躍し続けてきた古参の衛星は
今や世代交代の時を迎えている。
次世代衛星を作り上げることは、我が社にとっても悲願なのだろう……。
作業をバラバラに分解して雑務に近いくらいのレベルまで
分業して各地で少しずつ作業させているって事かもしれない。
「この送信側での暗号化は、こうして複合化して画像情報にするんですよ」
最新の暗号化・複合化技術を使うように改造したソフト部品を解説
組み込み直すことで魔法の箱は復活を遂げる。
最初は暗号化のための演算ルーチンとかチンプンカンプンだったが
コツと慣れが二大要素である。
「うーん。これって替える必要性ってあったのかな
今まで通りので良かったんじゃないの?」
「最初は、もっと予定があったんだけど、何かと入用で……。
結局は軍事衛星に組み込まれたのの焼きなおし、みたいな・・・
まあ、しょうがないですよねー。資金不足
このスマート・シティの評判が上がって宣伝に成功して
金持ちな住人が確保できてきたら
もう少し開発資金を確保できるんでしょうけど」
「失敗したら、どこかの地域みたいに
中途半端に都市としての基本機能までで
予算が枯渇して中止になるかもね」
「あー有名になりましたよねー。あの地域
スマートシティやっている業者の内輪で
”ああ、ならないように頑張ろう”
って言うための象徴みたいになっちゃいましたよねー」
「そういえば何かおかしい。スマート・シティの一番基本的な機能を
構築している段階なのに、なんて通信衛星連携が?」
「いやー、それは、しょうがないでしょ
最初に、このスマートシティ建設のスポンサーになった会社が
衛星放送テレビで儲けている会社で
最初にスマートハウスに住んでいるのは
そこの会社の社員さんや関連企業の社員さんなんですから
スポンサーには逆らえませんよ」
「まあ、そりゃそーだ」
仕事の話しを一通り終えて、プライベート話
色恋沙汰話をし出して数分、直前に交際していた昔の恋人が両方とも同性な事を知る
ガチのレズビアンで男が気持ち悪い汚い物体にしか見えない事を言うと
もう片方はバイ・セクシャルで男女両方いけるんだよねーというような事を言う
片方が今、誰もいないなら、お試しで遊んで見る? と言うと
いや仕事場で関わったのと交際ってのも、なんでしょ?と言う
何故か相手と同じ事を言わないようにするゲームのような会話が始まる。
マウントの取り合い会話ゲームを始めるオシャレな都会的女性という世界で
生きている人々ほどの過激さは無くとも、理系オッサン女の内輪でも
多少のマウント取り合い会話ゲームはあるのだろう。女心は、ある意味、謎だ。
犬と比較した時に顕著となる猫の特性とは、端的に言えばその自由奔放な気質であると思う。
傲岸不遜で気分屋、媚びへつらうなんて決してしない、そんなイメージ。実際、猫の行動は自分勝手で我侭だ。
例外なのは主にごはんの時で、まるで別の生き物のように擦り寄ってくる。勿論、食後はまた知らん顔。
普段のつれない態度に、時折見せる別の顔。そんなところがまた、アンバランスで魅力的なのだ。
まるで何かの比喩表現かのように思わせぶりだけど、単純に文字通り、猫の話。
この二人のオッサン女の心の中にある猫のような原始的な情動が
どんな方向へ動くのかは今の所、不明だ。




