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月は放課後 夢をみる  作者: 金華鯖
1 月はまた昇る
9/10

1ー8 Again

 都立陽向(ひなた)高校は、四階建ての三つの棟がある。それぞれ北棟、西棟、東棟と呼ばれ北棟と西棟には各学年の教室があり、東棟は図書室や実験室など実習棟のようになっている。

 約束の空き教室がある東棟の最上階は、少し恐怖を感じるくらい全く人の気配がない。その階だけで言えば、本当に使っているのかと疑問に思うほど、まったく人に会わない。

 

 職員室のある北棟から、東棟の空き教室までは少し距離がある。息を切らしながらようやく空き教室の前にたどり着き、呼吸を整えていると扉の向こうから話し声が聞こえた。


 「 先生、来るかな? 」


 美月(みつき)の声だった。


 「 絶対、来るよ 」


 続けて理夢(りむ)の声も聞こえた。すこし遅くなってしまったけど、二人はずっと教室で待っていてくれたみたいだ。私は、深く息を吸い気持ちを落ち着かせ、扉に手をかけた。


 「 お待たせ 」


 恥ずかしさからか、少し顔が引きつりながらも精一杯の笑顔を二人に向けた。


 「 先生!! 」


 嬉しそうに美月が駆け寄ってくる。その後ろでは、安心した様子の理夢がかけていた眼鏡を外し、左手で目頭を押さえていた。


 「 先生… 私、信じてました… 」


 理夢の声は涙声だった。


 「 先生なら来てくれるって… 」


 そのとき、私は思った。


 ( あぁ、そうか。なんて私は、馬鹿な人間だったんだろう ) 


 声優を目指すということは、同時に不安との戦いでもある。この子達は、不安と戦っていたはず。そんなとき、相談できる身近な存在が教師だ。でも、声優という特殊な仕事に、普通の教師なら頑張れというだけが精一杯の答えだと思う。そう、普通の教師なら。

 いま、二人の目の前にいる教師は元声優。元声優の私は、この学校で二人の不安を理解してあげられる唯一の存在。それなのに、私は自分のことだけで、生徒の声に耳を傾けようとしなかった。この子達の不安は、自分が一番分かってあげられるはずだった。


 「 二人ともごめんなさい。あの時、冷たく接して 」


 二人に今の私の気持ちを伝えなきゃ。二人のお陰で、一歩を踏み出せたこと。

 そして____


 「 私の中のモヤが晴れたのは、間違いなく二人がいたから。だからね… 私、もう一度声優を目指してみようと思うの!! 」


 もう一度声優を目指す。その言葉を聞いた理夢と美月は、顔を合わせ次の瞬間。


 「「 ええええええええ!! 」」


 学校中に二人の声が響き渡る。


 「 沙月先生、本当にまた声優を目指すの!? 」


 驚きを隠せない美月。


 「 先生、本当にまた声優になるんですね? 」


 微かに震えた声の理夢は、大粒の涙を流している。


 「 ええ、本当よ。なれるかは努力次第だけどね!! 」


 涙を流す理夢の肩を抱き寄せ、濡れた頬をハンカチで拭いてあげる。


 「 だから、これからは三人で夢に向かって頑張りましょう!! 」


 その言葉に二人はうなずき、私は窓の外に目を向けた。


 ( 待っててね(ゆめ)… いまそっちに行くから!! )


 その日、私達の夢は再び動き出した。

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