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月は放課後 夢をみる  作者: 金華鯖
1 月はまた昇る
6/10

1ー5 視線

 「 起立。お願いします 」


 授業が始まる前の号令。係りの生徒に続き、他の生徒も続く。


 「 はい、それじゃあ前回の続きから____ 」


 いつも通り、変わらぬ授業風景。

 私の言葉に、生徒が一生懸命耳を傾ける。

 まあ、雑談も多くて授業なんて時間内の半分くらいしかやってないけど。


 「 先生~ 」


 「 ちょっと、待ってね 」


 こんな感じで、今日もまた雑談が始まろうとしている。まあ、その割りにこのクラスは国語の成績が良いものだから、ついついおしゃべりになってしまう。

 とりあえず、今日やっておきたい最低限の内容を黒板に書き出す。


 「 また授業の予定、組み直さなきゃ…… 」


 「 先生、心の声が漏れてますよ 」


 「 え、本当に!? ごめんなさいね! うふふふふふ! 」


 「 うふふふふって~ 先生、わざとでしょ! 」


 教室中で笑い声が沸き上がる。私も、生徒達につられて笑みが溢れる。

 なんて、楽しいんだろう。授業中は、過去の自分を忘れられる。今は、ここが私の生きる道なんだ。

 でも、なんだか視線を感じる。

 今の生き方を認めていない自分の視線?

 いや、違う。

 教室を見渡すと、一人の女子生徒がこっちをじっと見つめる。


 ( いや、比喩じゃなくて本当の視線かい!! )


 思わず自分で自分にツッコミを入れそうになったが、なんとか思い止まる。

 見覚えのある黒髪メガネの女の子。下山(しもやま) 理夢(りむ)だ。

 

 理夢は、視線を反らすことなく、鋭い眼光でこちらを見つめる。


 ( うぅ、凄いみてる…… ていうか、彼女ここのクラスだったんだ )


 昨日の帰りに話すまでは、正直あまり印象が無かった。

 絶え間なく向けられる視線に、昨日の事を思い出す。


 『『 声 優 に な り た い ん で す !! 』』


 理夢のいる方向を見ることができない。

 そんなことはお構い無しに、生徒達はどんどん話しかけてくる。

 早く、この時間が過ぎてくれないか。そう強く祈りながら、理夢の視線に少しずつ神経をすり減らす。


 ( やばいよ~ そろそろ限界だよ )


 そのとき、待ちに待った鐘が鳴った。本当に限界寸前だった。


 「 よし、今日はここまで! ちゃんと予習復習してきてね! 」


 「 は~い 」


 「 起立!! 」


 授業が終わるとお昼の時間。生徒達は、ソワソワしながら挨拶をする。

 挨拶が終わると同時に、一気に騒がしくなる教室。食堂や購買に走り出す生徒。

 待ちに待ったお昼、私も早く職員室に戻ろう。そう思いながら、出口の方に向かう私を、理夢はまだ見つめていた。






 職員室に戻ると、千里先輩が私の机に座っていた。


 「 お、沙月。やっと戻ったか 」


 「 お待たせしました。 早く行きましょう!! 」


 実は今朝、お昼の約束をしていたのだ。


 食堂は生徒で混んでいるから、近くにあるカフェに向かう。

 学校から歩いて五分のところに古民家がある。看板も目印もない場所にあるそこが、カフェだと知っている人は、ほとんどいない。それに、居心地が良すぎて常連客は一切、他の人に勧めたりしない。ちなみに店名は、『喫茶 杏』と言うらしい。いつも私達は『杏』と呼んでいる。

そして、マスターこだわりのコーヒーやナポリタン、サンドイッチなど、どのメニューも抜群に美味しい。

 高校のとき、先輩に連れてきてもらってから通うようになった、()()行きつけのカフェ。


 嬉しいこと、不安なこと、悲しいこと、なにかあれば良く訪れていた。

 

 そう、なにかあったら____

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