1ー4 頼れる先輩
お昼休憩まであと一時間。
「 おなか空いた…… 」
コンビニに寄って、おにぎりでも買おうか迷ったけど、寄らなくて正解だった。もし、コンビニに寄っていたら、確実に遅刻していた。
朝は、しっかり食べる派の人間だから、朝食抜きの代償は大きい。
「 うぅ~、おなかが空いて力がでない…… 」
「 どうかしましたか? 沙月先生? そんなにうなだれて。彼氏にでもフラれましたか? 」
顔を上げると、白衣を着た女性の先生が、コーヒーを片手に話しかけてきた。
「 千里先輩…… 」
彼女の名前は、中上 千里。科学を教えている。実は、私が高校一年生の時の三年生で、ある日を境に先輩と仲良くなった。
「 学校では、先生と呼べって何回も言ってんだろ 」
千里先輩は、私の事情を良く知っている。面倒見の良さに定評のある先輩は、昔も今も気遣ってくれて、教師になった私に余計なことを聞かず手取り足取り教えてくれた。
「 せんぱ~い。フラれたとかはセクハラですよ 」
「 なにが、セクハラだよ。ほらよ、あと少しの辛抱だぞ~ 」
先輩は笑いながらコーヒーを一口飲むと、去り際にポケットからお菓子を取りだし、机の上に置いた。
「 もう先輩…… キュンです 」
「 何がキュンだよ。 それより、お客さん来てっぞ 」
「 お客さん? 」
職員室の入り口を見ると、見覚えのあるツインテールの生徒がこっちを見ている。山内 美月だ。目が合うと、美月は凄い勢いで手を振ってきた。
「 どうしたの、美月さん? 」
「 いや~、たいした用じゃないんだけど…… 」
美月は、指でツインテール弄り視線をそらす。
「 まったく。そろそろ次の授業始まるから、早く教室に戻ってね 」
「 わかってるって。先生これ! ちゃんと読んでね 」
美月は、二つ折りにしたメモを渡すと、走って教室に戻っていった。
「 廊下は走らないでね!! 」
「 はーーーい!! 」
「 返事だけじゃない 」
始業開始の鐘がなる。
「 私も早く行かなきゃ 」
渡されたメモをポケットに入れ、少し急ぎながら先輩から貰ったお菓子を食べる。
おなかは少し満たされた。
「 よし、お昼まであと少し!! 頑張るぞ~ 」
ひとつ背伸びをして、気合いを入れ直す。
さあ、早く教室に向かおう。