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月は放課後 夢をみる  作者: 金華鯖
1 月はまた昇る
4/10

1ー3 それは、ある日の二人のような②

 彼女はさっき____


 『 ()()()()() ()()って、先生ですよね? 』


 間違いなくそう聞こえた。


 確かに私の名前は、【 山田(やまだ) 沙月(さつき) 】。

 あの頃も、本名で活動していた。

 でも…………



 「 人違いじゃないかしら? 」 


 なんとかごまかさなきゃ。

 私の口から、自然と出た言葉。

 負い目を感じる自分が、逃げるためについた嘘。

 早くこの場を離れなきゃ。



 「 待ってください先生!! 」


 

 理夢(りむ)の声に、立ち止まる。

 彼女が言っているのは【 声優 】の山田 沙月。でも、ここにいるのは【 ()声優 】の山田 沙月。

 質問の意図はわからないけど、彼女が期待する返事を、逃げたしてきた私ができるはずがない。

 まして 「 そうだよ 」 なんて……

 口が裂けても言えない。


 



 「 さあ! もう遅いから、あなた達も早く家に帰りなさい! 」


 「 ……先生 」


 教師失格だな。

 生徒の呼び掛けに答えず、昔の財産で明るい先生演じて、早々にその場を離れる。

 本当に最低な人間だ。


 「 あのね先生! 私達、声優になりたいんです! 」


 理夢の声だ。ただの大声じゃない。力強くも綺麗に響いている。


 「 声優になって、二人で業界のトップを走るの____ 」






 『 二人で、声優業界を引っ張ろうね____ 』





 理夢の信念に、あの日の約束が重なる。





 「 沙月先生! 明日の放課後、東棟四階の一番奥にある空教室で待ってます! いつまでも待ってますから! 」





 教師として、生徒の話に耳を傾けなきゃ。頭ではわかっている。でも____


 振り返っちゃダメ……


 早くあの子達から離れなきゃ……


 まただ。


 また、弱い自分が現れる。






 「 私も待ってるから! 」


 美月の澄んだ声が背中に重く伝わる。






 結局……

 弱い私は、二人の声に振り返ることはなく、そのまま家に帰った。






 その日の夜。


 『 なんで、二人の話を聞いてあげなかったの? 』


 彼女が現れた。


 「 なんでって…… 」


 『 あの日の私達にそっくりだったたね 』


 確かに、あの日の私達と重ねた。重ねてしまったのだ。


 『 それで? 君はどうしたいの? 』


 「 どうしたいって? 」


 『 本当は、気づいてるんでしょ? 』


 あの二人に、私は何を感じた?


 『 そろそろ、踏み出す頃なんじゃない? 』


 『 自分に正直になったら? 』


 「 でも…… 」


 『 だ~か~ら~、でもじゃないんだよ…… 』


 




 『 『 『  い い 加 減 前 に 進 め よ ! ! ! ! 』 』 』






 「 うわぁっっっ! 」


 急に怒鳴られた私は、驚きのあまり盛大に布団から落っこちた。

 夢? 

 いや、あれはいつも現れる弱い自分だった。でも、いつもと様子が違う。


 「 なんだったんだろう…… 」


 気づけば外は明るい。

 カーテンを開け、テレビをつける。

 時計の針は八時を示している。


 八時…… 


 八時?


 「 はぁちぃじぃぃぃぃぃぃい!? 」


 やばい、寝坊した。

 教師になって早数年が経ち、初めての寝坊。


 「 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!! 」


 あの頃は、遅刻なんてもっての他だったから、遅くても三十分前には現場につく習慣があった。だから、寝坊なんて殆どしたことが無かった。いったい、いつ振りだろう。


 大急ぎで準備する私を余所に、テレビでは今日の占いコーナーが始まっていた。


 『 今日の一位は八月生まれ!! チャレンジ旺盛になる一日!?思い出の場所が吉!! 』


 『 ラッキーパーソンは、古い友人!!』


 『 それでは今日も、いってらっしゃい! 』

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