1ー3 それは、ある日の二人のような②
彼女はさっき____
『 声優の山田 沙月って、先生ですよね? 』
間違いなくそう聞こえた。
確かに私の名前は、【 山田 沙月 】。
あの頃も、本名で活動していた。
でも…………
「 人違いじゃないかしら? 」
なんとかごまかさなきゃ。
私の口から、自然と出た言葉。
負い目を感じる自分が、逃げるためについた嘘。
早くこの場を離れなきゃ。
「 待ってください先生!! 」
理夢の声に、立ち止まる。
彼女が言っているのは【 声優 】の山田 沙月。でも、ここにいるのは【 元声優 】の山田 沙月。
質問の意図はわからないけど、彼女が期待する返事を、逃げたしてきた私ができるはずがない。
まして 「 そうだよ 」 なんて……
口が裂けても言えない。
「 さあ! もう遅いから、あなた達も早く家に帰りなさい! 」
「 ……先生 」
教師失格だな。
生徒の呼び掛けに答えず、昔の財産で明るい先生演じて、早々にその場を離れる。
本当に最低な人間だ。
「 あのね先生! 私達、声優になりたいんです! 」
理夢の声だ。ただの大声じゃない。力強くも綺麗に響いている。
「 声優になって、二人で業界のトップを走るの____ 」
『 二人で、声優業界を引っ張ろうね____ 』
理夢の信念に、あの日の約束が重なる。
「 沙月先生! 明日の放課後、東棟四階の一番奥にある空教室で待ってます! いつまでも待ってますから! 」
教師として、生徒の話に耳を傾けなきゃ。頭ではわかっている。でも____
振り返っちゃダメ……
早くあの子達から離れなきゃ……
まただ。
また、弱い自分が現れる。
「 私も待ってるから! 」
美月の澄んだ声が背中に重く伝わる。
結局……
弱い私は、二人の声に振り返ることはなく、そのまま家に帰った。
その日の夜。
『 なんで、二人の話を聞いてあげなかったの? 』
彼女が現れた。
「 なんでって…… 」
『 あの日の私達にそっくりだったたね 』
確かに、あの日の私達と重ねた。重ねてしまったのだ。
『 それで? 君はどうしたいの? 』
「 どうしたいって? 」
『 本当は、気づいてるんでしょ? 』
あの二人に、私は何を感じた?
『 そろそろ、踏み出す頃なんじゃない? 』
『 自分に正直になったら? 』
「 でも…… 」
『 だ~か~ら~、でもじゃないんだよ…… 』
『 『 『 い い 加 減 前 に 進 め よ ! ! ! ! 』 』 』
「 うわぁっっっ! 」
急に怒鳴られた私は、驚きのあまり盛大に布団から落っこちた。
夢?
いや、あれはいつも現れる弱い自分だった。でも、いつもと様子が違う。
「 なんだったんだろう…… 」
気づけば外は明るい。
カーテンを開け、テレビをつける。
時計の針は八時を示している。
八時……
八時?
「 はぁちぃじぃぃぃぃぃぃい!? 」
やばい、寝坊した。
教師になって早数年が経ち、初めての寝坊。
「 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!! 」
あの頃は、遅刻なんてもっての他だったから、遅くても三十分前には現場につく習慣があった。だから、寝坊なんて殆どしたことが無かった。いったい、いつ振りだろう。
大急ぎで準備する私を余所に、テレビでは今日の占いコーナーが始まっていた。
『 今日の一位は八月生まれ!! チャレンジ旺盛になる一日!?思い出の場所が吉!! 』
『 ラッキーパーソンは、古い友人!!』
『 それでは今日も、いってらっしゃい! 』