1ー1 幸せと後悔
事務所をやめて数年後。私は、国語教師として母校である都立陽向高校の先生になった。
沢山の思い出が詰まった母校。最初は、胸の奥に滞りを感じることもあったけど、それなりに忙しい日々を半年も過ごした頃には、滞りを感じることもあまりなくなった。
親友は、今も人気声優として第一線を走り続けている。とても誇らしく、とても嬉しい。私は一人のファンとして、一番のファンとして、親友をこれからずっと何があっても全力で応援していこう。
事務所を辞めるときにそう誓った。
なのに、夜な夜なふとした瞬間に、もう一人の自分が問いかけてくる。
『 本当にこれで良かったの? 』
良いに決まってる。
今だって、私は幸せだ。可愛い生徒に囲まれて、忙しくても充実した毎日。そこそこお給料も貰えて、それなりに自分の時間もある。
美味しいご飯をたべながら、好きなアニメやテレビを観て。お風呂でサッパリしたあと、少しお酒を飲みながら映画を観て、眠くなったら暖かい布団で寝る。これ以上、人間として幸せなことがあるだろうか。
『 でも、後悔してるでしょ? 』
後悔なんてしているはずがない。私が選んだ道だから。
なのに……
それなのに!!
「 なんで、なんで涙が止まらないの…… 」
涙が止まらない理由なんてわかっている。自分が一番理解してるに決まってる。だからこうして夜になると、もう一人の自分が現れる。
もしも、あのまま頑張って続けていたら。
もしも……
もしも……
もしも……
もしもじゃない!!
もしもなんて、弱かった自分への言い訳でしかない。私は弱い。約束も守れず逃げ出した。こんな惨めな今の私を親友が見たら、いったいどんな顔をするだろう。
声優を辞めたあの日から、親友とは全く連絡を取っていない。一人のファンとして応援する。その誓いが、自然と私をそうさせていた。親友からも連絡が来ることもなかったし、たぶん私が声優を辞めたことは知っていると思う。あの子なりの気づかいだろうか。それとも、私に愛想を尽かして絶交でもしたのだろうか。
様々な想いが押し寄せてくる。そんな想いに押し潰されそうになる。
夜も更け、なにも無かったように再び朝は訪れる。
私はそんな生活を繰り返していた。
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