さくらちゃんはどんな娘? いっせーのせ! で言ってみて
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女子中学生の朝は早い。
それはすなわち、さくらも同意義である。
「ねむっ……学校メンドイ。帰ろっかな……。……ん?」
粒子が舞いそうなほどの煌びやかな腰丈の白髪が人目を惹く。それを助長する平均より小柄な体躯。名前は『さくら』と言った。
藍色のワンピースタイプの夏服に袖を通し、猫の肉球柄のリュックをゆさゆさ揺らして、眠そうに通学路を歩く。
目的地はバス停。学校まではスクールバスが出ていて、乗り過ごすと遅刻は確定だ。そんなマイペースなさくらの元に、同じ制服の女の子が少々怒った表情で走ってくる。
「さくらはどこほっつき歩いてるの。もうすぐバス発車するのに」
彼女は『まい』。さくらのともだちだ。癖毛のない栗色のセミロングに、白いカチューシャ。身長はさくらより10センチほど高い。すらり伸びた手足と、恵まれた目鼻立ちのすっきりした端整な顔は現在、顰めてしまっている。
「メッセージでは家は出たって言ってたから、このへんにいるはず――」
指定カバンから取り出したスマホで、やり取りを再確認したところで道路脇の軽トラックの荷台に目が止まった。
「…………」
すやすや陽光に照らされ、リュックを枕に寝息を立てるさくらを見つけた。
(また変なところで。あとで背中痛いって言っても知らないから)
そよ風に靡くさくらの前髪から覗く長い睫毛。スカートがふんわり優しく踊る。
不思議。と、まいは思った。
小鳥が荷台に降り立ち、羽を休める。蜜を求めた蝶が、さくらの洟を憩いの場所に選んだ。猫の日向ごっこ。
さくらが眠っているそこだけが森の中みたいに神秘的で、のんびり澄んだ空気が流れている気がした。
まいはつい見惚れ――ではなく、呆気に取られ、ひと瞬きの時間を置いて、
「うぎゃ――――っ!!! さくら! なんてところで寝てんのよ!」
「んー、卵かけご飯は邪道だって何回言えば……」
「寝言は起きてから言いなさいよ! 早く起きて降りないと……あ!」
まいの心配の束の間、ドライバーが後方確認もほったらかしに急発進する。
「んー? なになに? おっ? おー、これはこれはラクチン♪ バイバイ、まーい」
「なにがバイバイよ! 危ないから降りなさいって! はぁ、はぁ……もうダメ、ギブ……」
必死に追いかけるが、あっという間にトラックは見えなくなった。まいは、そこまで体力に自信はない。膝に手をつき、思い返す。
さくらは、これまでも幾度となく、まいや周りを困らせてきた。
春は寝ているし、夏は寝ているし、秋は寝ているし、冬は寝ている。小学校の修学旅行では8割寝ていたし、プールの授業は浮いて寝ていたし、お化け屋敷で寝ていたときは、さすがにどよめいた。
さくらはとりあえず、寝るのが好き。白米も同じぐらい好き。本人に至って悪意がないのが、憎めない一因だ。
荷台で寝るなんてまだまだ序の口。まいは、溜め息を吐きつつ、バス停に戻った。
一方さくらはあくびをし、信号で止まったタイミングで路上に降りる。
「タダ乗りって……いいな。どんどん使っていきたい」
なにやら将来が心配になる発言をしたのち、リュックを背負い直して、目と鼻の先のスクールバスに乗車する。
「みちるー、来たよー」
「うぃーす、さくちゃん。今日も髪ボサボサだねー。あれ? まいちゃんは?」
バスの最後部に座り、手を振って挨拶を返す女の子が『みちる』。さくらとまいの仲良しの1人。
制服の上から羽織ったチェリーブロッサム色のカーディガン。髪型はショートカットに片方の揉み上げにだけ、黄色いリボンを結んでいる。
「まいは置いてきた。しょせん、人間は機械に勝てないってわかるね」
「なんで機械? まあいっか。さくちゃん昨日買ったゲームどこまでやった?」
となりに腰かけたさくらの言葉に小首をかしげるが、共通の趣味であるゲームに話題を移した。
さくらはリュックから、みちるは通学カバンとは別の肩掛けのポシェットから携帯ゲーム機を取り出して、互いのゲームの進行具合をたしかめる。
「おや、さくちゃんこれは寝ずにやりこみましたな。眠り姫のくせにー。格が違いますな。何時までおやりに?」
「3時。お母さんに止められなかったら学校行くまでやる予定だった」
「そりゃ災難でした。ゲーマー語るなら3時は体調不良。授業が睡眠時間ですからねー」
わっはっはっはっはー、と笑い飛ばした2人に近づく禍々しいオーラを放つひとつの影。
「ふぅーん。そういうことだったのね」
腰に手を当て、笑顔でお怒りモード全開のまいが立っていた。急いで走ったのだろう。息が上がっているのが一目瞭然。
しかし、それを我慢し、逃がすまいと2人のあいだを割って座りこんだ。
「やっと来たか、まい。遅かったね。お茶いる?」
「まいちゃん、うぃーすです。いやこれはですね、ゲーマージョークみたいなもので、けして真に受けているわけじゃなく……」
さくらは動じることなく、かと言ってお茶も出さずにゲームを始めた。対極にみちるはジェスチャーを交えて、困ったように笑う。
ドアチャイムが鳴り、バスが発車する。
「問答無用です。2人ともゲーム没収の刑です」
「あー。返してよー、まいー。トイレでできないじゃん」
「なに、さくら? 文句でもあるの?」
取り上げたゲーム機に手を伸ばすさくらに、尽かさずまいは『ネギ』を突きつけた。さくらは大のネギ嫌い。だからまいは、常にネギを持ち歩いている。
「ネギで抵抗するとは殺生な……私がネギは疎か、眠気にも勉強にも運動にもケンカにも暑さや寒さにも。猫、白米、限定品、確率アップに弱いと知っていての狼藉か! あと、タダにも弱い」
クツを脱ぎ、シートの上で膝をついたさくら。
みちるは早々に諦めていた。
「弱点だらけじゃない。ったく、オーバーね。ちゃんと帰りには返すわよ」
さくらから視線を逸らしつつ、まいはゲーム機をカバンにしまう。
その一部始終をさくらは、指を咥えて追った。チャックを閉め終わる瞬間まで離さなかった目が、ネギの臭いで歪んだ。
「まいもゲームやればいいのに。そしたら、学校に持ってきたくなる気持ちもわかって仲間外れの寂しさもなくなって一石二鳥なのに」
「なんでそうなるのよ。べ、べつに寂しくなんか……」
「まあまあそうおっしゃらずに。適度なゲームは脳の体操やリフレッシュにも効果があるんですよ。まいちゃんが考えているほど悪いってものじゃないですから」
「みちるまで。そうやってゲームを長くやる口実を作ろうって魂胆が見え見えよ。私はゲームなんてやらないから! ふん!」
これには2人も「やっぱダメか」の顔をする。停留所に着き、歩いてすぐの学校に愚図るさくらをまいがどうにか引っ張って行き、昇降口で上履きに替えていると、
「待ってたわよ、さくら! 私と勝負なさい!」
肩にかかったツインテールを豪快にかきあげた。自信に満ちあふれた瞳に、お手製のパッツン。カーディガンを腰に巻き、好物であるアメでさくらを指した。
「うー、眠いからやだ。私、教室についたら寝るんだ」
「なんで寝るのよ!? 朝よ! 起きたばっかりでしょ! つべこべ言わないで勝負ったら、勝負しなさいよ!」
「うるさいなー、こいつ、肥溜めに沈めようかな。――で、なんの勝負するの?」
「サラッと恐ろしいこと言わないでよ! ちびっちゃうじゃない……」
「「「え……?」」」
「ちょ! 冗談、冗談に決まってるでしょ! ユーモアなシャレってやつよ! 第一、中学生のふぶきがちびるわけないわ!」
腕を組んで、とんでも発言をごまかす彼女は「ふぶき」。自称『さくらのライバル』らしい。
これまでも事あるごとに勝負をけしかけてきたが、戦績は述べるまでもないだろう。
「ふぶき本当は?」
「ちょびっとだけ……って、なに言わすのよ! さくら、今日こそ観念なさい! ふぶきが勝って、この学校の天下を頂いちゃうんだから。なーはっはっはっはっは」
「私に勝ったところでクラスのナンバーワンにもなれないけど」
高らかに生徒が往来する廊下で笑いだしたふぶきを呆れた様子で見るさくら。そこに横目をしていたまいが、手を合わせて尋ねる。
「勝負よりも3人は宿題ちゃんとしてきたの?」
「いやー、宿題をしようしよう思ってはいたのですが、ついダラてしまいまして」
「宿題あったの? 教室行ったら見せて」
「みちるはともかく、さくらは宿題の存在さえ消すな。教えてあげるから自分でやりなさい」
「こらー! 無視するなー! 宿題なんてあとででき……る……」
ちぇー、と口を尖らせるさくらたちに声を荒らげるふぶきだったが、強烈な力を感じ、言葉が詰まる。
「じゃあ、ふぶきは宿題やってきたのね?」
顔は笑っているが、明らかに怒気のこもった問いかけをするまい。
「当然よ。あんな宿題、ドーサもなかったわ」
「それを言うなら、造作、ね。心配だから、ふぶきも一緒にやりましょ」
「いやよ。ふぶきはこれからさくらと勝負――」
「なに、ふぶきも文句あるの? 勉学より優先しなきゃいけない理由があるなら、言ってご覧なさいよ」
「…………ないんで、許してください」
ふぶきはまいの逆鱗に触れたことを悟り、その場にひれ伏した。本能がサイレンを回したように、今までの立ち振る舞いを謝罪するのかのように。
さくらとみちるは、うわぁ……、と引き気味に一歩後ろでジト目を浮かべた。
その後、3人はおとなしく宿題に取り組んだ。
(((やらないと殺られる……)))
=^_^=
4時間目の終わりを知らせるチャイムが鳴り、お昼休憩に入ったころ。さくらが不満げに机に置いた1時間目の教科書を片づける。
「くそー、まいめ。ゲーム取られてるせいで4時間目の途中までしか寝れなかった」
「誰が『まいのせい』よ。全然授業聞いてもらえない先生の身になりなさいよ」
やれやれ、とみちるをつれたまいが来た。手にはお弁当の巾着を下げている。さくらたちの通う中学校はお昼持参だ。さくらもリュックから大きな包みを取り出す。
「眠いから仕方がない。先生方には我慢してもらう方向で」
「我慢するのは、さくらのゲーム時間よ。はあ……今はお昼にしましょ。どこで食べる?」
「中庭。ボス猫いた。見つけて撫でたいから」
「いいですね、ボス猫。響きがサイコーに好き。私も賛成です」
さくらの提案にみちるも乗り、中庭に向かった。ぽかぽか陽気に晴れ渡った青空の下で食べるご飯は、きっと美味しいだろう。
「…………」
教室を出る直前、さくらがまいのカバンを凝視する。先を行くまいに「なにしてるの、置いていくわよ」と呼ばれ、再び走っていった。
中途半端になってます。もし、需要がたくさんあれば続きを書きたいです。
では、謝辞を。
○○大佐様、この度は「さくら」の使用を快く承諾して頂き、ありがとうございます。性格等やプロフを忠実に再現できず、申しわけありません。勝手に変えてしまった部分が多々あります。発言等は個人の暴走です。口の悪い子になってしまいました汗
個人的に「卵かけご飯は邪道」が気に入ってます(聞いてない)。
これからも色々と頑張って書いていこうと思います。ありがとうございました。
友城にい